東葛人的視点

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“総合電機(&コンテンツ)メーカー”ソニーの蹉跌に学ぶ

2005-03-08 23:03:15 | ITビジネス
 ソニーの出井会長と安藤社長が共に退任する。IT業界の話題ではないが、ハードとコンテンツの融合戦略を掲げた出井ソニーの終焉は、IT業界にも大きな教訓を残したと思われるので、雑感を記しておく。

 出井会長がトップに就任してから、ソニーが一貫して目指したのは、この融合戦略の実現だ。AV機器やゲーム機という強力なハードをネットワークで結び、そこにソニーが持つ映画や音楽などのコンテンツを流すことによって、新しい市場を創り上げる。この戦略は当初、株式市場をはじめ各方面から熱烈に支持された。時代の方向感と一致するし、ハードとコンテンツの両方で最強と言ってもよいソニーならできるだろう。誰もがそう思った。

 しかし、実際は違った。ソニーがこの融合戦略に見合った製品・サービスを出せないでいるうちに、アップルがiPodを投入し、あっという間に新しい市場を作り上げてしまった。本来ならソニーこそが出さなければいけなかった製品であり、この時点でソニーの融合戦略は破綻したと言ってよい。

一方、本来の強みであったAV機器では、融合戦略に引っぱられて、消費者のニーズを見誤った。消費者が求めていたのはネットワークにつながるテレビではなく、薄型のテレビだったのだ。薄型テレビの投入に後手を引いたソニーは、テレビのリーディング・ブランドの地位からも転げ落ちることになった。

 この“負けパターン”はIT業界でもよく見かけるケースだ。コンセプト主導のあまり、現実のニーズを見誤ったケースと言える。しかしそれよりも、この融合戦略自体が間違いであったように、私には思える。AV機器、コンピュータ、ネットワーク、そしてコンテンツの事業を融合させ、新しい市場を創るというのは、本当に経営戦略となり得るのであろうか。それは単に、時代の方向感を言い替えたにすぎないのではないだろうか。

 融合を経営戦略、事業戦略に掲げても、「ごもっとも」と言えるだけで、事業として方向性、ベクトルが全く感じられない。Aという事業、Bという事業が交じり合うというイメージ、あるいは今あるものを組み合わせましょうというイメージがあるだけで、全く新しいCという事業を創るというメッセージがない。また、個々の事業も融合の実現に製品企画のリスースを使い過ぎたために、既存の事業内にある大きな潜在ニーズも見落とす結果にもつながった。ひと昔前の総合電機メーカーの「総合力を活かして」という経営戦略の失敗にも通ずるものがある。

 IT業界でも、他の事業も合わせ持つコンピュータ・メーカーの間では今、融合戦略流行りだ。「ITと通信の融合」「ITと家電の融合」など自社の既存事業間の融合を進めようとするスローガンに事欠かない。しかし、アップルの成功は融合戦略の結果ではなく、自社の強みを生かした新規事業による新市場の創造の結果だということを忘れてはならない。“現在の総合電機(&コンテンツ)メーカー”ともいえるソニーの蹉跌から学ぶことは、少なくなさそうだ。