陶芸みち

陶芸のド素人が、その世界に足を踏み入れ、成長していく過程を描いた私小説です。

その172・風景描写1

2010-07-08 08:53:43 | 日記
 広い空一面から雪が落ちてきて、気がつけば何cmも積もっている。なのに雲がひらくと、半日もすればたちまちとけてしまう。周期的にそんなことがくり返された。夜は冷えこむが、昼間は潔い日光が降りそそいでくれる。こうして丘の上にも、冬がじょじょに浸透してくる。
 からりと晴れた昼休みにはずっとひとり、中庭の芝生ですごした。気温は低くても、頭上低くにいるお日さまがぽかぽかと照らしてくれて気持ちいいのだ。製造科のみんなはランチ後もストーブの前から動こうとしなかったが、オレはこんなにすてきな環境をもったいなく思い、いつも陽光の下で竹ベラを削り出したり、帯鉄にヤスリをかけたりしてすごした。それに飽きると、その場でごろりと寝そべる。空は輝き、雲はふわふわとたなびきわたる。夏のさかりに一本きり影を落としてくれていた幼い樹は、すっかり葉を落とした。骨のような小枝を寒風にひらいて、じっと春を待ちわびる。
 だけどオレは思った。
ー春が来なきゃいいのにー
 そうすれば、ずっとこの場所にいられるのに。もっともっとこの環境で修行をつづけたいのに。
 暖かい日にはたまに、デザイン科の何人かのガールフレンドたちが外に出てきて、怪しげなレゲエ男にデザートを恵んでくれた。オレは頭にタオルを巻き、カラフルなセーターを着、ソックスの中に作業ズボンのすそを入れるという出で立ちで、地べたに座りこんで道具づくりをしている。そのため、ほこ天で怪しげなアクセサリーを売っているラスタマンと瓜二つなのだ。彼女たちはおそるおそる、果物を差し出してきた。動物にエサを与える好奇心で近寄ってくるらしい。オレはもらったナシやリンゴを、研ぎ出した帯鉄でむく。そいつはちょっとサビの風味がして、オツな味だった。そんな果物片をお返しに渡すと、ガールフレンドたちは顔をしかめつつも、おそるおそる口に運んだ。

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

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