陶芸みち

陶芸のド素人が、その世界に足を踏み入れ、成長していく過程を描いた私小説です。

その173・風景描写2

2010-07-09 09:17:58 | 日記
 たまに、みんなで木陰に隠れてビールを飲んだ。まやまカチョーが球技大会で配ってくれたビールは、実は校内では御禁制品で、「家に持ち帰るべし」と厳格なお達しがでていた。だが、そんな大好物を目の前にちらつかされて我慢できるはずがない。こっそりと茶色い油紙に包んで、回し飲みした。するといよいよレゲエっぽさが堂に入って、遠巻きにながめる製造科の連中はおろか、先生すらも他人のふりを決め込むのだった。
「ルールは破るためにある」
 不良オトナたちは、ほろ酔いの顔を突き合わせてくすくすと笑い合った。遅い青春まっただ中だった。
 また、野点(のだて)の真似事も行われた。野外でひらくお茶会である。デザイン科の数人もそれぞれにお茶を習っていたので、その稽古も兼ねて、中庭でお茶を点てるのだ。Mrs,若葉が亭主をつとめる日には、太陽センセー作の傑作茶碗、建水、水指などが並べられ、参加者たちのため息を誘った。敷布の代わりにブルーシート、というのが少々もの哀しくはあったけれど。しかしこれはこれで、侘びた趣き、極限まで装飾を排除した風情、ととらえることもできる。オレもたまにおよばれにあずかり、食後の一服をいただいた。昼休みは自由な時間でありつつ、勉強の場でもあった。
 雨が降ったり、雪が積もったりした日には、さすがのオレも作業場で昼メシを食った。ときには自作の土鍋をストーブにかけ、テキトーな具材の鍋をつくったり、ごはんを炊いたりして、実用性を実験した。土鍋は灯油のすすで真っ黒になったが、手持ち無沙汰な冬の日にいい仕事をしてくれた。また農作業部は、畑で採れたサツマイモを干し芋にしてストーブで焼き、みんなにふるまったりした。あったかくておいしくて健全で、しあわせな時間だった。

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

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