陶芸みち

陶芸のド素人が、その世界に足を踏み入れ、成長していく過程を描いた私小説です。

その190・爆発

2010-08-02 07:27:52 | 日記
 これを焼きあげればいよいよ卒業、という学校の最後の窯焚きで、不吉の出席番号13番氏が最後の事故を起こしてくれた。窯の中で彼の大きな水指が大爆発し、破片が飛び散って、窯内の作品に甚大な被害をもたらしたのだ。
 これまでの焼成でも何度か作品の破裂はあったが、それはたいがい素焼きの窯で起こる。破裂は通常、粘土内にのこされた気泡の膨張か、乾燥が甘かったことによる水蒸気に起因するので、ほとんどの場合が800度まで温度を上げる素焼きの最中に発生するのだ。裏を返せば、素焼きをすませた後の本焼きの窯では、破裂は起こり得ないということにもなる。
 ところが今回は、代々木くんが無理をして作品を素焼きせず、生の素地に直接施釉する「生がけ」というやり方を試みたために、最悪の状況を生んでしまった。本焼きの窯での破裂は、素焼きの場合とは比べものにならないほどの大被害をもたらす。爆発力が付近の作品を破壊するだけでなく、小さなかけらが窯中に飛散して、作品の上に降りかかってしまうからだ。作品の地肌を覆うのは釉薬という名の液状ガラスなので、こいつが異物を噛んだまま冷えかたまれば、器は売り物にならない。そのため、窯一基分が全滅という事態までありえるのだ。実におっそろしいカタストロフィなのである。
 指のケガが治りきっていない焦りがあったのかもしれない。しかしそんなことは言い訳にはならない。卒業前の最後の窯で、みんなの勝負作品が満載だったという事情もあり、大惨事を引き起こした代々木くんはしょげ返った。ある意味、彼にとっていちばん痛かった事故かもしれない。しかしクラスメイトたちは、不運つづきだった彼の一年間のフィナーレを飾るにふさわしいこの爆発を、寛容に許した。むしろこの事故には、苦笑いを禁じ得なかった。これで彼の厄も吹き飛んでくれればいい。血が流されたわけでも、だれかが損をしたわけでもない(学校だけが深刻な損害を被ったのだが、まあそれはどうでもいいのだ)。これを機会に、彼にも落ち着いた人生を歩んでほしいものだ。

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

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