母の友人による、時代の証言

母の葬儀に参列してくださった

おばあちゃんが、式の始まる

直前、葬儀場のロビーで、

昔、ご自身の身に起こった稀有な

出来事について語ってくださいました。

その方は、母の小学校時代からの

友人で、戦中戦後の混乱の時期を

生き抜いてこられた方です。

お歳を召したせいか、一部

言動に不明瞭な部分があり、

お話の全てを聞き取る事は

出来なかったのですが、

要約すると

私は、真っ黒に磨き上げられた立派な

リムジンで、送迎された事があるんですよ。

という、羨ましい内容のものでした。

しかしながらとうちゃんは、

務めて明るく振る舞うおばあちゃん

の、その心の内に秘めた義憤に

気付くことになったのです。

それには理由がありました。

この文章の中で用いた「リムジン」という

言葉は、うかがったお話の内容からの

父ちゃんの推測によるもので、

おばあちゃんの正確な言い方を再現すると

「そンであたしゃ、

　霊柩車に乗せられてさ」

　　　　　　　　　　　　だったからです。

大日本帝国の時代に生まれた方々が

徐々に鬼籍に入られ、戦争の記憶は薄れて

行く一方である現在、貴重な体験とか、

そうでもない体験とかを語り継ぐことこそが

私たちの務めなのではないでしょうか。

そうでもないでしょうか。