これはアルゼンチンのSFアニメ。まずタイトルに、そそられる。チラシを見ると、のっぺりした顔の黄緑色の宇宙人が月面みたいなところに立っている。小学生が描いたような絵だ。その安っぽさに、そそられる。名古屋シネマテーク通信に載っている紹介文には「ブラックでサブカルな感覚」「世界の若者の行き詰まった思いを切なく描いた傑作」「13歳以上の人、必見」という言葉が並ぶ。上映期間は1週間で、夜1回のみ。「隠れた傑作」である可能性もあるけど、大ハズレの予感もする。これまでの僕の経験では、こうした「そそられるマイナーな映画」が面白かった確率は、まあ20~25%程度だ。昨年の『美女缶』みたいな作品には、そうそうお目にかかれないのである。大抵の場合、重い足取りでトボトボと帰ることになる。
リスクヘッジのため、木曜日に行くことにする。毎週木曜日は女性1000円デーなのだが、シネマテーク会員であれば男性も1000円なのだ。まあ、この映画は他の曜日でも会員なら当日1200円なので、200円しか変わらないんだけどね。そう、僕は200円ぽっちの支出をリスクと呼ぶセコい男なのよ。
夜8時過ぎ、シネマテークに到着。さすがに木曜だけあって女性客が多い。たぶん、みなさん僕と同じように「1000円ならハズレでも精神的打撃が少ない」と思ったんだろうね。さすが名古屋人。いや、他の曜日の混み具合が分からないから比較はできないけどさ。
前置きが長くなった。ここからは映画の感想。ネタバレありね。
いやぁ、シニカル。この言葉に尽きるね。ちなみに、シニカルって言葉を国語辞典で調べると「冷笑する笑い。皮肉」と書かれている。そう、この映画は、全編にわたって現代社会への皮肉に満ちているのだ。
ストーリーは分かりやすい。地球から来た火星探査機にペット(壺に手足を付けたような感じの火星犬)を殺されたメルカーノが、復讐のために地球へ向かう。辿り着いたのは、アルゼンチンのブエノスアイレス。そこは犯罪が横行する荒んだ大都市であり、人々の心は病んでいた。インターネットで仮想空間を作り上げたメルカーノは、その中で友だちを作り、一緒に遊ぶようになる。だが、その仮想空間をビジネス化しようと目論む大企業の幹部らに捕らえられ、メルカーノが持つ知識や能力は金儲けに利用されるようになり、さらには「パソコンを使った世界征服」が進む――という展開だ。なかなか面白そうでしょ?
この映画にはエグいシーンも多い。頭が吹っ飛び、血飛沫が飛び散り、時には身体ごと砕け散る。そういう場面が苦手な僕には、「大好きな映画」とは言えない。だが、この作品には、どこか一本筋が通ったところが感じられるのだ。いたずらに露悪的なわけではない。陳腐な言い方かもしれないが、まっとうな批判精神があるからこそ毒気に満ちた作品になった、という気がするのだ。
ラストは痛快。とんでもない悲劇で幕を閉じるのに、笑わずにはいられないのだ。あちこちから笑い声が聞こえ、館内が妙な一体感で包まれる。たぶん、ほとんどの人が「ケッタイなものを観ちゃったねぇ」と思ったのだろうね。なんとなく温かい気分になって映画館を出た。今夜の足取りは重くない。
画像は、ロビーに置かれていたメルカーノ君。これ、たぶん等身大よりデカいんじゃないかな。
※『火星人メルカーノ』公式サイトは、こちら。
http://www.uplink.co.jp/mercano/
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