とはいえ、この映画は悲愴感や絶望に満ちているわけではない。むしろ、愉快な気持ちになってしまう箇所が随所にある。僕が観た回には終了後に監督の舞台挨拶があり、そのあとロビーで監督にサインしてもらう機会に恵まれたので、「笑えるところが多くて良かったです」というようなことを伝えた。そしたら「そう言われるのは珍しいので、うれしいです」とのこと。うん、確かに「悲惨な現実」にばかり目が行ってしまうのは仕方ない。しかし、この映画で特筆すべきなのは、カラッとしたユーモア感覚なのではないだろうか。犬猫たちの予期せぬ行動に振り回される人間たちのあたふた具合が、監督自身による朴訥としたナレーションと相まって、とても微笑ましく感じられるのだ。実際、客席では何度も笑い声が聞こえた。
そんなわけなので、「かわいそうな犬や猫を見るなんてつらすぎる!」とお思いのみなさん、どうぞ安心して観に行ってください。
それにしても、この種の映画を観るたびに思うのは、観客の大半が「本来はそれを観る必要がない人」であることだ。
たとえば、障害者への理解を訴える映画を観に来る観客の大半は、もともと障害者に対する理解がある人だ。「野生動物を守ろう」というスローガンを掲げた映画を観る人のほとんどは、動物の乱獲に手を染めようなどとは考えない人だ。「戦争のない世界を」とか「原発反対」とかを唱える作品も同じ。この『犬と猫と人間と』を観た人たちも、可愛がっている犬や猫を捨てようなんて思わないだろう。
だからこそ、思う。こういう作品はテレビでも流すべき! 全国での劇場公開が終わったら、ぜひともゴールデンタイムにオンエアしてほしい、と強く思っております。
↑監督のサイン。パンフの表紙ではなく、自分のプロフィールが記されているところに書くのがなんとも奥ゆかしいですね。横に並べたのは前売券と、割引券を兼ねたリコメンド・カード。
※『犬と猫と人間と』公式サイト→http://www.inunekoningen.com/
※現在、名古屋シネマテークで公開中(20日まで)。みなさん、ぜひご覧くださいませ。
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