ほばーりんぐ・とと

ただの着物好きとんぼ、ウンチク・ズッコケ・着付けにコーデ、
あちこち飛んで勝手な思いを綴っています。

筥迫のお話、続き

2012-07-10 17:47:36 | 着物・古布

 

先日の「筥迫」、そぉっと保存しました。こちら小さいほう。再出演。 

今日はまたまたいつにもまして、長文になりそうです。(ナニをいまさら?・・・すんまへん)

 

ずっと以前から、筥迫は、いつも心のどっかに引っかかっているものでした。

ただ、今の時代では使用目的が限られ、また、使おうとしても実用的とはいえないものです。

それでも「和装小物」としては、とても美しく、また着物文化があったればこその、独特の形であり、

独特の美しさのものであると…それはずっと思っていました。

 

筥迫をいただいてから、今まで以上に「筥迫」が気になりだし、古い本などひっぱりだしていろいろ見ていました。

我が家にはこんな本があります。古本でも、もんのすごく高かったんですが、当時それでもほぼ定価で入手しました。 

さっき、アマゾンで見たら、なんと中古が一冊だけで、それも80000円もしていました。

 

           

           

 

あちこち調べましたが、ほとんと゛注文不可。買っておいてよかったーの本です。

この本の表紙「嚢物」となっています。「ふくろもの」と読みますが「袋物」と、どこがどう違う?

古い辞書まで引っ張り出して調べましたが「袋」も「嚢」も同義語としてのっているだけで、

その違いは書いてありません。ご存知のかたいらしたら教えてください。

 

とりあえず「ふくろもの」というのは、どこか一方に口が開いている、物がはいるもの。

今は「袋物」と書くのがほとんどで、現代ではその言葉や文字から思い浮かぶのはバッグ類やポーチなどです。

では筥迫が出現した江戸時代は?といいますと、まずバッグ系のものを持つ習慣がありません。

ある程度の大きさのものを運ぶ、大きな巾着(俗に言う信玄袋のようなもの)はありましたが、

普段の小物はそれぞれ入れ物を作りました。だから袋物は「小さいもの」が多かったのですね。

つまり、タバコはタバコ入れ、紙類は紙入れ…という具合に。 

(ちなみに「信玄袋」というと、今は「合切袋」を言いますが、本来の信玄袋は、抱えるような大きいものです)

日本人は、小物のそれらをまとめて持つのではなく、一つずつ独立させて帯や懐に「装着」していたわけです。

着物と言うのは、いってみればポケットだらけ…みたいなものですから、

いちいちまとめて何かに入れる必要があまりなかったのですね。

それと、ちょいと腰にはさんだ煙草入れだの、ぶら下がった印籠だのは、

のっぺりした着物と言うスタイルの、いいアクセントになったわけです。

 

この本に載っている「嚢物」も、巾着も小さなものが少しで、だいたい10cm前後。

たいがいは「お守り」「燧(ひうち)」」などを入れていたようです。あとはほとんどが煙草入れ、です。

また「掛け守り」というものが載っていますが、これは字の通り「首から掛けるお守り」。

以前「市女笠」のお話をしたときに、壷装束のなかで説明しています。(下手なイラストの中にあります)

掛け守り自体は平安の昔からあったものですが、江戸時代では、粋でイナセなお兄さん方が、

お守り札や起請文などをごっちゃり入れて、ポシェットのようにかけたそうです。

ポシェットのように…と言っても、今のように服の上からではありません。着物の下に掛けました。

この「着物の中側に下げる嚢物」としてはもうひとつ「袂落とし」があります。

私が小物を買う「ゑり正」さんでは、今でも販売しています。こちらが現物こちらがつけ方、です。

 

こんなふうに、個別で持つか、着物の中…というわけで、手荷物バッグ系というジャンルがないんですね。

ヨーロッパでは上流階級が、化粧道具など入れるきらびやかなポシェットを男女ともに使い、

それが「バッグ」の元になったらしいですが、やがて男性の上着にポケットというものをつけるようになり、

男性はバツグをやめた…のだそうです。日本では、最初からポケットだらけだったから、

バッグという文化が必要なかったんでしょうね。

 

というわけで、筥迫に戻りますが、筥迫は実際には「筥」ですから、厳密に言うと「嚢物」ではないんじゃないかと、

アマノジャクな私は思っていたのですが、実は筥迫も形が一種類ではないんですね。

この本の中にも「筥迫」はわずかですが載っています。ただ、厚み(まち)のないものは「紙入れ」となっています。

「筥」という言葉が使われるのは、実際の筥迫が、袋物と違って厚みのあるカッチリしたものだから…

ではないかなーと、これは感覚ですが…。

つくりの違いで、名前が変わるだけの話なのですが…。

入手の「紙入れ」、題名は「筥迫」で売られていましたが、厚みがありません。紙入れです。

厚みは7ミリくらいです。

 

         

 

大きさはこんなもん。かわいいです。

 

         

 

トップ写真の筥迫と中を比べてみると…紙入れの方は、表に「かぶせ部分」がない代わりに、

中のポケット状の部分にフタがついています。

 

         

 

私、これ見て悩んでいるのですが、簪はどこにさすんだろ…。

トップ写真のような筥迫は厚みがありますから、上に簪入れをフタのように差し込めます。

これは、厚みがないのに、簪入れはしっかり1センチ以上あるのです。

上に乗せられなかったら、例えばこんな感じ??なんかへんですよねぇ。ナゾです。

 

                       

        

 

 

上でご紹介の本には、こういうものの成り立ちについて興味深いことが書いてあります。

だいたいこの本に載っているものは、実にシャレていたり豪華だったり、もう「ウーン、まいった」

というような、しゃれたもの、豪華なもの、かわったもの…という細工物ばかり。いずれも細密で眼を見張ります。

著作権がありますので、写真は載せられないのですが、近くの図書館にありましたら、ぜひご覧になってください。

これらを庶民が日常的に使っていたということを考えると、私は今の時代、ステイタスのために

外国ブランドのなんやかやを持つことが、なんだかむなしい事のようにおもえてなりません。

 

なぜこんな凝った小物が作られたのか…その理由がいくつか挙がっているのですが、

一つは「徒弟制度であったこと」、江戸時代は身分制度がきびしく、また家業を継げるものは長男であり、

それ以外は自分で稼ぐ道を模索しなければなりませんでした。

好きな職業に何でも就けるわけではありませんでしたから、身近で、自分に向いていそうなものを習う…

となるとやはり職人仕事、が一番だったわけです。いまのように労働条件だのなんだの、ゼータクなことはいえません。

まだ子供のうちから技術を叩き込まれ、一人前を目指すわけですから、

元々の素質にあったものを習えば、当然「名工」になる…。世の中、隠れた「名も無き名工」だらけ…?

それと、今のような機械も工場もありません。全てが手作りで一点モノ。そしてほとんどが「オーダーメイド」…。

直接職人に「これこれこういう意匠のものを」と、頼んで作ってもらうわけです。

だから個性的なものもたくさんあるわけですね。今なら「お誂え」でゼータクですが、ソレしかなかったわけで。

やがて「注文取り」をする人、つまり「斡旋」をする人も現れ、作り手と買い手の間に入って、

いままで作った作品など見本として見せて「こんなのどうです?」と、仲介をするようになる。

これは、流通と言う面で、それを活発化させるには、有効だったのでしょうね。

 

というわけで、素晴しいものがいろいろ残っているわけですが、

基本形から別の形へと変化したり、別の合わせるものが生まれたり…そういうことも起こるわけです。

筥迫と紙入れも、そういう「バリエーション」だったのではないかと思います。

元々が筥迫は、身分のある階級の女性が使うもの、庶民がそれをまねて、

似た形を作っても、なんらフシギはないわけで…。

ただ、呼び名…ということになると…曖昧模糊になったり…昨日の「唐子」じゃありませんが、

意味を辿っていけば、明らかにちがうものでも、まぁ似たよーなもんだし、ひとくくり…みたいな?

 

また「はこ」にも「筥、箱、函、匣」…たくさん字があります。どこがどう違う…いや、これもまたわかりません。

ただ「筥」と言う言葉には、なんとなく上質、といいますか、上品、といいますか、

その辺のお菓子の空き箱、とは違うイメージがあります。

本当のところは全くわからないのですが、「筥」で検索していたら

宮中の古~い役職名に「筥陶司(きょとうし)」という役職がある…というところに行き当たりました。

「はこすえものつかさ」と読みます。つまり宮中の飲食器全般の担当部署です。

ここでいう「筥」とは、竹製の丸い器のこと…だとありました。

竹製の丸い器…だと、編んだものならカゴやザルですから、おそらく太い竹を輪切りにしたような…、

これは私が勝手に考えたことですが…。

とにかく「筥」という字がつくと、なんとなく「箱」よりは「上等のもの」というイメージがあります。

例えばひな祭りに一緒に飾られる「犬筥」というものがあります。

昔からある「縁起物」ですが、安産や子育ての守りとして、産室や赤ちゃんのそばに一対で置かれました。

色彩鮮やかな、美しいものです。(たまにカオがブサイクってのはありますが)

また文箱も「文筥」、玉手箱も「玉手筥」と書くことがあります。「筥」の方がなんとなく高級感ありますね。

筥迫も、箱迫でもマチガイではないと思うのですが、あのフォルムや美しさから「筥」の方がピッタリする気がします。

こりゃあくまで個人的な感覚なんですけれどね。 

 

さて、あちこちお話が飛びましたが、実はこういうものを購入しました。

これはその名もズバリの筥迫工房さまで、みつけたもの。(写真がちと光っててすみません)

筥迫つくりの教本と、材料セットです。教本は、とてもきれいな写真入のコマゴマしたもの。

1枚ずつ取り出しやすいファイルに入っているので、とても使いやすいです。

筥迫そのもの…私でもなんとか作れそうです。

 

              

 

今の暮らしでは、なかなか一気に作ることはできませんが、なんとかひとつくらいモノにしたいと思っています。

なんせ「ちりめんハギレ」は、ヤマのようにありますからして…。

この筥迫工房さまのなかに、なるほどと思われる説明もありました。「実用的な筥迫」についてです。

ページのずっと下の方、縞柄の粋なもの。私の「紙入れ」まさしくこの形です。 

 

昔の道具は、今ではどうにも使えないものもありますが、使えるか使えないかではなく、

日本ってこういうものを作ってきた国なんだ…なんて、ちと大きい範囲ですが、そんなことも知っておきたいと思うのです。

今、様々な「職人」さんたちが、廃業したり、やりたくないけれど食べていくためには…

なんていう仕事をさせられたりしています。 

筥迫からずいぶんお話が飛びましたが、私は育ててきたはずの「近代文明」というものに、

今ふりまわされていることに、人間はもっと謙虚でなければならない…と感じます。

古いものを手に取ると、機械のカションカションとかジージーという音ではなく、

トンパタトンパタという機織の音や、トントンカンカンという小さな工具で細工をする音が聞こえてくるような気がします。

そういう音は、同じ「モノが出す音」なのに、なぜか手の温かさを感じます。 

めんどくさいもの、手間のかかるものが敬遠され、振り袖さえインクジェットなどと始まっています。

それでなければ安くできない、大量にできない…。

山ほどのものを作っては、大量に捨てている…どこかおかしいです。

むだだろうが、一生に1回しか使わなかろうが、いいものはいい。本の裏表紙の筥迫、部分アップです。

世界に胸を張って誇れる技…だと思いませんか。

 

       

 

もう黒っぽくなった桐の箱で届いた筥迫、遺していきたいと思います。 

 

長ーい文、おつかれさまでした。


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10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
筥迫工房です (Rom筥)
2012-07-10 20:37:52
こんにちは、ご紹介いただきました筥迫工房です。
筥迫のこと、たくさん書いていただいてうれしいです。

『嚢物の世界』お持ちとはすごい。(私はもっぱら図書館で借りています)
ヤフオクなら、古本屋よりは安く入手できると思います(たまにしか出ませんが)。

小さい方の筥迫に付いているフタは「小被せ(こかぶせ)」といいます。
この手の筥迫は、鏡の横に簪差しごと差し込める口があるハズなので、ちょっと確認してみてください。

嚢物については、ここで書くと長くなるので、近いうちに「筥迫は続くよどこまでも!」の方に書きますね。
返信する
 (Sari)
2012-07-11 04:35:08
こんにちは、いつも楽しく拝見致しております。

嚢と袋についてですが、実は私は「嚢胞腎」という、遺伝性の病気持ちなんです。
(正式名はもっと長いのですが)
医師曰く「嚢は中に何かが詰まっている状態の袋のこと」でした。

ということは、空っぽのときもあるのが袋ということになるのでしょうか・・・

検索してみましたらこんなのがありました。
『嚢とは、袋みたいになっていて中に何かたまっている状態の袋』
やはり同じですね。

でも筥迫だって空のときもあるのに・・・懐紙など常に入れてあるからでしょうか。
 すみません、役に立ちませんで(汗

筥迫のお話の続きを楽しみにしています。
返信する
Unknown (古布遊び)
2012-07-11 08:54:28
「袂落とし」は初めて知りました。
これは主人のプレゼントによさそう~~

そして筥迫の深ーいお話に感心しました。
素晴らしいものがあるのですね。
「筥迫工房」さんもびっくりです。私も作ってみたいけど、なんか難しいそうで手が出ません。いつかチャレンジしてみたい!
返信する
Unknown (とんぼ)
2012-07-11 12:19:53
Rom筥様

コメント、ありがとうございます。

筥迫の世界、嚢物の世界は奥が深いですね。
私など、ほんの興味程度で首をつっこんで、
きれいだきれいだと騒いでいるだけで…。

「こかぶせ」と言うのですね。
ありました!簪をいれるところ。
なるほど!です。ご教授ありがとうございました。
また写真をとって、アツプしたいと思っています。
ブログ、楽しみにしています。
返信する
Unknown (とんぼ)
2012-07-11 12:22:59
Sari様

まあ遺伝性のご病気ですか。
そういえば、調べていて医学用語には「嚢」が
たくさん出ていました。
なるほど「中身のあるなし」って言うのは、納得できますね。
中にものを入れて一杯にするから「嚢物」なのかもですね。
また新しいことを教えていただきました。
ありがとうございました。
返信する
Unknown (とんぼ)
2012-07-11 12:24:16
古布遊び様

たもと落としは便利でしょう。
ぜひ、手作りなさってください。
外から見えないのがちと惜しいですが…。

筥迫、ぜひチャレンジしてみてください、と、人には言う…でへへです。
返信する
Unknown ()
2012-07-12 02:12:15
「袂落とし」を着物を着るボーイフレンドに買ってあげようっと
自分用にも欲しいけれど 
女性が右から左から出すとちと吃驚ですよね
返信する
Unknown (みけ)
2012-07-12 14:29:28
筥迫、小さい袋の中に大きな世界が広がります~
小さくて綺麗な物っていくつになっても心躍らされます♪

ちりめん生地の筥迫を昨年購入しました。
プックリしているのでさすがに胸元には無理なので。。。何歳やねと言われながら。。。
で、IC乗車券入れに使っています。
バッグから出してピッさせて自己満足です。

購入後、自分で作れないかと
実は筥迫工房さまのHPに日参させていただいていました。
皆さん、お上手に作られるなぁと未だに手を出せずにおります。

実用的な筥迫いいですね~
またしても筥迫LOVE熱が出てきました。

返信する
Unknown (とんぼ)
2012-07-12 17:26:18
恵様

女性用は衿も抜けてるし、脇が上まで帯で締められている分、
紐に余裕がほしいかもですね。
まぁ帯の前が大きいポケットですからして、男性よりは用がないかもですが。
お財布にはいいですね。小銭じゃらりと出したりして…。
周囲のヒトを驚かせましょう!?
返信する
Unknown (とんぼ)
2012-07-12 17:26:35
みけ様

小物って、女性のココロをぐっとつかみますよね。
ICカードいれですか、なるほど。
ちょうど居合わせた方は、みなさん「おっ」と思って、
見ておられるでしょうね。
使い方も考えればあるものですね。

教本、とてもわかりやすいしていねいなのですが、
問題は、私の「ウデ」ですよねぇ…。
なんとかひとつだけでも…と、決心だけは…しています。
返信する

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