「メジャーの打法」~ブログ編

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メジャーの投法(7)

2009年01月21日 | 投法

 肩の内旋トルク。

 肘から先の角加速にムチ動作は使われない。投球のバイオメカニクスには、肘にかかる関節力のデータをFeltner&Dapena(1986)より引用しておいた。

打撃におけるアデア・モデルが近いだろう。末端の加速(3) 純然たる関節力型だが、吉福のムチ動作を使っていないのは明らかだ。先端におもりのついたロープでムチ動作を起こすことはできない。ムチ動作


 さらに、加速期に入ってもなお肩の水平内転トルクを発揮していることも傍証となる。Putnam(1993)にある、フットボールのキックにおける膝の伸展も同じで、股関節屈曲トルクを発揮している。肘(膝)を前方に加速するのだから、まさにムチ動作の逆をやっているわけだ。このことはムチ動作を否定する根拠としては決定的だが、「ではなぜ加速にマイナスになるようなことを敢えてやるのか?」という新たな疑問が生じる。

これが関節トルク型だと、近位の関節トルクが遠位の関節の作動筋に負荷をかけて収縮力を引き出し、末端加速にプラスに働くという効果がある(例えば、手刀打ちなど)。


 キックの場合は膝の保護という観点から納得がいく。ソフトボールのような派手なムチ動作をやることは身体構造上不可能だ。投球のばあいも似たようなもので、最大外旋期に至るまでの肩の外旋に抗い、さらに肘より先に手(球)を送り出すことのできる肢位を獲得するために、肩内旋トルクをかける必要がある。内旋を担うのは大胸筋、三角筋前部で、必然的に水平内転・外転トルクをともなう。つまり、よしんば末端加速にマイナスになろうとも、内旋トルクを必要とする以上、水平内転トルクを避けることはできないのだ。


 Feltnerがそのメカニズムを論じた(『投げる科学』p101)肩の外旋・内旋は投球動作の著しい特徴だ。過度の外旋角加速をもたらす急激な体幹の回旋、肩の水平内転・外転が投球動作にそぐわないことは容易に想像がつく。肩外旋を抑制しつつ肘の前方加速を達成するにはどうすべきか?が投球動作の要諦なのだ。


肩の水平内転

 肩の水平内転については、HPで言及した。「肩において投げる方向とは逆の力をかけていて、ムチ動作を見て取ることができる」としたが、もとよりソフトボールのような強力なものではない。しかし、だからと言って、関節トルク型と呼べるようなトルクも生じていない。

水平内転トルクは50Nm程度で、小さいとされる肘の伸展トルク(20Nm程度)とそれほど変わらず、同じく大胸筋主体のソフトボール投法の肩屈曲トルク(140Nm)に比べてはるかに小さい。

関節トルク型とも関節力型とも呼びがたい、とらえどころのないものになっている。セグメントの回転角加速から投球を解析しようとする立場のFeltnerらも肩水平内転についてはそのメカニズムをはっきりと描き出すには至らず、肩の内・外旋への言及にとどまっている。しかし、このとらえどころのなさにこそ投球動作の特徴が顕在していると考えるべきだ。投球は「肘のスピードは欲しいが過度の外旋は困る」というジレンマを回避すべく作り出された妥協の産物なのだ。

体幹の回旋

 肩の外旋は、バックスイングのトップ(内外旋ゼロ時)あたりから、上腕の長軸に直角の力を肘にかけることによってもたらされる。したがって、体幹の前傾・左傾により長軸方向の力を加えて上腕を引っ張れば、肩の外旋を起こさずに上腕にエネルギーを付与できる。また、内外旋ゼロ以前の回旋動作も影響をおよぼさない(わざわざ外旋トルクをかけているくらいだ)。つまり、体幹のさばきを工夫すれば、急激な外旋を抑えることができるのだ。ボクシングのストレート・フックは、外旋を気づかう必要がないから、体軸をほぼ固定して勢いよく体幹を回旋する。投球動作にあの切れ味はない。言い換えれば、身のこなしが大きい。だから、昔から「投手は大きなフォームで投げろ」といわれてきたのだ。


 大きな身のこなしというとトム・シーバーを思い出す。日本人とそれほど変わらない身長(185cm)で剛速球を投げ、311勝、3640奪三振(歴代6位)を挙げた、球史に残る大投手だ。輝かしい記録はあのダイナミックなフォームによってもたらされたと言えるだろう。最近は盗塁技術の向上に対応してフォームがコンパクト化し、かれのように後ろの大きな(バックスイングで体軸が右傾する)投球フォームはあまり見られなくなった。

 

 

 


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