快読日記

日々の読書記録

「名作うしろ読み」斎藤美奈子

2013年05月20日 | 言語・文芸評論・古典・詩歌
《5/17読了 中央公論新社 2013年刊 【書評】 さいとう・みなこ(1956~)》

「次の書き出しで始まる文学作品はどれか」みたいな問題、例えば「ある日の暮れ方のことである」→答)芥川龍之介「羅生門」とか。
それの逆バージョン、つまり最後の一節から作品を読み解こうという試みです。
どれも2ページほどの短い文章ですが、132作品という量と歯切れの良さが魅力。
梶井基次郎「檸檬」を「格差社会を撃つ小説」と定義したり、
孤独であることより犯罪者として注目されることを望むムルソー(カミュ「異邦人」の主人公)に「死刑になりたかった」と口にする現代の殺人犯の姿を重ねたり、
円地文子「女坂」のラストにコケにされ続けた女の究極の復讐を見たりする。
「パルタイ」の破壊力のなさを見抜き、倉橋由美子を結局躾の良いお嬢さんと鋭く看破します。

でも中島敦「山月記」が「教科書に採用された理由は謎」とし、「才能もないのに夢を見ると人生を棒に振るって話」(143p)と解釈するのはどうなんだろう。
教科書に載る経緯は島内景二「中島敦『山月記伝説』の真実」(文春新書)に詳しいし、
若いうちは皆、傷つくのを恐れて勝負を避ける、だけど自分はそんじょそこらのやつとは違うんだという「臆病な自尊心」と「尊大な羞恥心」に翻弄されるもの。
苦しんでいるのは君だけじゃないよ、というメッセージを伝える教材としてもうってつけで、高校生にぴったりな作品だと思うからです。
アキバの通り魔Kも「山月記」をしっかり読めば凶行に走らずに済んだのでは?とさえ考えます。

豊崎由美にあって斎藤美奈子にないのは文学的情趣・ナイーブさかもしれません。

/「名作うしろ読み」斎藤美奈子