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数学ほぼ0点なのに合格だったシステム会社がコワくて就職しなかった理系志向の文系です。「心を時空間で解説する」本とか原稿中

「第三次世界大戦はもう始まっている」国家を形成したことのないウクライナに可能性はあるのか?

2022-09-18 21:17:34 | 読むもの

ウクライナ紛争のために緊急出版されたエマニュエル・トッドの「第三次世界大戦はもう始まっている

先入観に囚われないで思索するトッドならではの分析がユニークで新鮮です。

 

ソファに寝転がっていて…

「外婚制共同体家族の分布図」と「共産国の地図」が、突然重なって見えた

…のがエマニュエル・トッドの発見でした。

この後トッドはパリの人類博物館に閉じ籠もり、世界中の家族構造を分類し、自らの仮説が正しいことを確信します。


トッドの家族形態論はロシアに革命が起こった原因とプーチンが登場した理由を説明しますが、ロシア革命前に同じような説明をしたアナトール・ルロワー=ポーリューという歴史家がいます。
その著書の「ロシア皇帝の帝国とロシア人」では「家父長制の大家族、ミール〔自治集会〕の形成もとになる村落共同体」が説明されています。


同時に、そこには「小ロシア(ウクライナ)」が核家族社会だったことが示されています。ウクライナの核家族は、ロシアの家族システムとは異なるのです。

 

 

   国家は、産業活動をも家父長的なものに保とうとする…
   ムジクであれ、経営者であれ、あらゆる階層のロシア人は、
   法律に敬意を払わないが、
   権威には敬意を払う。     (P45)

 

   どんなにイニシアチブも上から降ってくる事に慣れているこの国が、
   国家社会主義の冒険的な道を歩み始め、
   ヨーロッパの最も民主的な諸国に追いつき、追い越すことがあっても、
   驚かないだろう。         (P45-46)


ここには現在のプーチンのロシアが可能性として予期されているともいえるでしょう。

 

文字を持たないスキタイをはじめ、ウクライナの地には様々な民族や文化、国家が入り込み、入れ替ってきましたが、単独の国家が成立したことはないようです。

ソ連邦崩壊まで、ウクライナという国家は存在しなかったのです。

ロシア革命時、ロシアと同じ外婚制共同体家族のバルト三国は革命に積極的でした。ボリシェビキの得票率はロシアで24%ですが、バルトでは40~70%もありました。1917年10月革命で決定的な役割を果たしたのはラトビア銃兵だったのです。

 


ウクライナはどうだったのでしょう?

   ウクライナは、歴史的、社会学的に
   まとまりを欠いた地域で、
   何らかの重要な近代化現象が
   ここから生まれたことはありません。(P49)


モスクワで発生した革命をはじめ、何かがロシア全土に広がっていく時に、ウクライナでは、そのアンチとしての反応があった程度のようです。
最近のものとしては90年前後のソ連末期と崩壊時以降しばらく「スターリニズムへの執着」がウクライナではロシアより強かったとトッドは指摘しています。その後のウクライナの現代のネオナチ化を考えると非常に振れ幅の大きい、不安定さが目立ちます。

ゴルバチョフそしてソ連崩壊以降の、モスクワやサンクトペテルスブルクで進む民主化からウクライナは無関係でした。
やがてマイダン革命のような歪みと悲劇に見舞われていきます。

 

このウクライナの不安定さは核家族社会でありながら何らかの歴史的集積がなく、規範となるものが存在しないためだと考えられます。最大の規範である国家を形成したことのないウクライナにはアナーキーなものしかありません。
トッドは触れていませんが、ウクライナではロシア革命時に活躍したアナーキズムのマフノ運動がありました。
貧農の息子であったネストル・マフノは最盛時には2万人のアナーキスト軍の率いて、赤軍のトロツキーを圧倒していました。

 

ウクライナはソ連崩壊後、しばらくスターリン的なニュアンスをも温存していましたが、30年以上経た現在もまともな何かが形成されていません。そのスキにネオナチが入り込んでしまいました。
ソ連の工業の3分の1を担い、ソ連崩壊後にフランスやドイツと同レベルの経済力を期待された国家でもあったのです。
しかし現実には連邦の資産を売り払うだけの刹那的な国家となり、欧米にもロシアにも援助を求めました。

ウクライナのEU化、NATO化をめぐる混乱は先鋭化し、英米がバックアップするキエフ政権から親ロシアである東部地域への軍事攻撃が8年間も続き、事態を収拾しようとするロシアが22年2月24日に軍事侵攻しました。これを巡って世界は東西冷戦終結以来の最大の危機を迎えています。トッドはそれを「第三次世界大戦はもう始まっている」と評しました。

西側あるいは先進国からは冷戦が終わった後も東側やロシア圏は分かりにくいものがあります。その根本的な理解のためにトッドのアプローチは大変貴重で、しかも適確な観点を示してくれています。その方法である家族形態に基づく分析は、世界のどの地域や国家、民族を対象にしても有効なもので、個別の科学である経済や政治に関する学を超えているかもしれません。トッドの入門書も兼ねて、その家族形態論が説明されている「エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層」(鹿島茂)は社会科学をはじめ世界や社会を考える時に最有力な著作です。一読した後で、あらためて他の社会科学に触れると新鮮な再発見があるかもしれません。

 


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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2022-11-28 15:19:06
国家を形成したことが無いウクライナ???
ウクライナ人民共和国とか知らないの?酷い無知w
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