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資本が自己増殖しないゼロ金利で資本主義はオワル…ケインズと利子革命

2017-08-07 20:55:42 | 読むもの

ケインズといえばニュートンやアインシュタインのように有名。また日本ではケインズ理論に沿って政府が政策を行ったといわれるバブル期が世界レベルの経済現象でもあり、良くも悪くも歴史に残る事象としてケインズの名とともに語り継がれていくかもしれません。資本主義と経済が抽象度を上げるにしたがってケインズはマルクスの墓地のあるハイゲートを散歩しながら考え抜いたとも…。そのケインズがさりげなく、しかし確実に資本主義のオワリを予期していたことを、水野和夫氏はフルに援用しながら日本と世界のポスト資本主義を探究していきます。

 

閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済 (集英社新書)

著:水野 和夫
参考価格:¥ 842
価格:¥842
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   宇沢弘文が『ケインズ『一般理論』を読む』のなかでこう記しています。
   「ケインズは、資本主義における利子生活者階級は、過渡的な存在にすぎず、
   資本の蓄積にともなってやがて消滅する運命を辿ると考える」。
                (『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』(水野和夫)
                「第五章「無限空間」の消滅がもたらす「新中世」」
                「▼国民国家は移行期に発生した一時的な政治形態」P198)


 この「利子生活者階級」というのは一般的にいう資本家の一部(特にマネーを持っている金融資本家やいわゆるお金持ち)だと考えられます。自己の資本を貸し出すことで、その利子を収入として得ている階級であり、企業活動のジャンルでいえば銀行に相当します。宇沢弘文氏がケインズがそれを「過渡的な存在」だとしているのが紹介されています。

 本書の中ではさらに、ケインズがそのいちばん価値あるラジカルな面で、繰り返し援用されています。


   ケインズは、ゼロ金利になることを望ましいことだと考えていました。
   それは、資本の希少性に人間が翻弄されなくなるからです。
                (『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』「おわりに――茶番劇を終わらせろ」P251)


 ケインズ的な意味で、ゼロ金利は資本主義の終わりを意味しています。それは資本を置いておくことだけで金利がつくという資本の自己増殖が成立しない状態だからです。ゼロ金利では資本は増えません。

 ここに政治の位相からみると危険な事実が見えてきます。(つまり国家の解体です)
 ゼロ金利では預金は目減りする可能性があります。いわゆるマイナス金利という事態です。日本では現実化してしまったこの事態がどれほどラジカルな現象であるのか…。マイナス金利によって預金を減額できる日銀は、そのことによって国民から財を収奪(徴収)してるワケで、これは徴税権の行使と同等です。中央銀行が国家に代わって徴税権を行使するという事態。それは国家の微細?ながら確実な分解を意味しています。

 極左派のイデオローグであるネグリ=ハートが『<帝国> グローバル化の世界秩序とマルチチュードの可能性』で示唆したよりも、より確実により速く、そしてなによりも現実に、この日本で、近代国家機能の分散にみえる分解が始まっているともいえるでしょう。もちろん超高度資本主義の状態ではボードリヤールのように国家(行政サービス)はハイパーマーケットに吸収されていくという指摘はありました(この時最終決定権は消費者にあることを示唆したのが吉本隆明です。同時に『資本論の解釈からは最終的に全国民が資本家になることが示されました)。しかし資本の自己増殖率(利子率)のレベルの変化で資本主義の変遷を示すことができ、あるボーダーを超えればそれはラジカルな構造変換であることを示唆しているのはこの利子革命と呼ばれるものだけかもしれません。社会経済の分析や考察に有用であることは間違いないでしょう。

必要なのはセイの法則を否定することからスタートすること…



<帝国> グローバル化の世界秩序とマルチチュードの可能性

翻訳:水嶋 一憲 , 他
参考価格:¥ 6,048
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