ブタに真珠

普段から、爪に火を灯すように生活している知人。
この寒い日々も、灯油がもったいないからと、首にタオルを巻き、動きやすいようにとウインドブレーカーを着て生活しているらしい。
ま、普段からそういう生活をしているせいか、身体自体が寒さに耐性ができているようで、自転車に乗って出かける時にも分厚いコートの類は着ることなく、もちろん手袋も無しである。
寒さには極端に弱い私などは、この寒さで手袋を着用せずに自転車に乗るなんてことは自殺行為に等しい、と思ってしまう。

そんな彼女が、恥かしそうに手袋をバッグから取りだした。
「これね、息子が年末にクリスマスプレゼントだと言って、買って来てくれたんや。でも、革の手袋なんて私は使ったことがないから、なんか動きにくくてはめづらいわ。」と不満げ。
見ると、なんとFU○RAのラムスキンの上等な手袋である。落ち着いたダークブラウンの革に、柔らかいファーが施されている。見るからに高級そうなその手袋は、その存在だけで奥様風のオーラを放っている。
私が、その手袋がブランド品であることを告げると、
「えーっ！そうやったん？息子が“ほい。自転車に乗る時、手袋無しで乗ってるから買うてきたったで。”ってポンと何気なくくれたから、せいぜい３千円くらいのもんかと思ってたわ。うわぁ。こりゃ、ブタに真珠やなぁ。」とたいそう驚き、撫でたり、裏返して見たりして検分していた。
ブランドとは全くと言っていいほど無縁な生活をしている人なので、それが自分の手元に届いたことも不思議そうである。ブタに真珠とは言わないまでも、やはり寒そうな装いをしているので、完全に手袋が浮いてしまっている。
私は、その手袋に込められた息子さんの思いがわかるような気がした。
あくせく働き、自分のためには絶対お金は使わない。あまったお金は少しでも貯蓄にまわす。自分はお手伝いさんのように、ちょこっとおかずの残りを食べてでも、夫や子どもにまわしてきた人だ。そんな母に、ちょっとくらいの贅沢品を持たせたかったのかもしれないし、少しは身の回りに気を使って欲しかったのかもしれない。また、自転車に手袋もなしで乗って、あかぎれをこしらえている母が不憫だったのかもしれない。そんなあれやこれやの思いがない交ぜとなって、このお母さんにしては不似合いな贅沢な手袋を贈ったのではないのか。

だが、顔立ちは不細工でもないし、けっして品の悪い顔立ちではないひとなので、それなりの格好で、この手袋を着ければそんなに似合わないこともないだろう。
器が人を作る。そうなのだ。ブタに真珠なんてことは、気持ち一つで「ヒトに真珠」となりうるのだから。
もったいながらずに、ちゃんとした格好で使ってあげてくださいな、とその人に向かってつぶやいた。