人気流行作家の赤川次郎が,以前,次のような宣言をしました。
「今までも、ヒューマニズムを物語に反映させてきたが、社会的言動を避けてきた。けれど、もうそんな時期ではない。本業の小説を通して言いたい事を言おう。」
そして,さらに「作家が一番自由な立場にいないといけない。会社などでしがらみのある人達の代わりに発言するべきだ。」とも語りました。
2004年,印税をアムネスティーの活動に寄付する企画,人気ミステリー作家7人によるアンソロジー「七つの危険な真実」を主導。
今年,「こころの手をつなごうえー」を彼の監修でコモンズから発行しました。
この本は,アムネスティの作文コンクールに寄せられた日本の子供達のメッセージです。
作文の一つをアムネスティー・インターナショナル・ジャパンの谷口さんの許可をいただいてご紹介します。
宮城県の高校三年生の女の子の作品です。
『私たちにできる第一歩』
「チョコレートは子どもたちの汗と血と涙からつくられる」。
ある本に書かれていたこの言葉に,私は衝撃を受けた。私の大好きな,手軽にコンビニエンスストアで買えるようなお菓子は,たくさんの子どもたちの犠牲の上に成り立っていたのだ。
チョコレートの原料・カカオは,外国の農園で多くの子どもたちによって栽培され,摘みとられている。働かされている子どもたちは,先祖代々奴隷として働かされている子や,遠い村から売られてきた子どもがほとんどだ。中には,十歳未満の子どももいる。また,生活していける賃金も支払われず,いつも空腹の子どもや,早朝から夜中まで働く子ども,病気になっても病院へ行けずに命を落とす子どももいる。
日本という豊かな先進国に生きる私は,知らない間に子どもを傷つけていた。子どもたちの苦しみや悲しみから作られたお菓子を食べて,「おいしい」と思い,笑っていた。その甘いお菓子を一度も食べることなく,命を終える子どももいるというのに。
世界には,十億人以上もの子どもたちが生きている。しかし,その中で先進国の子どもたちはごくわずか。ほとんどが貧困に耐え,学校への行けない発展途上国の子どもだ。物にあふれた国に生きる私たちは、満腹になる幸せも、今日こうして生きていられる幸せも、忘れてしまっている。だが、今という同じ時間を、空腹に耐えながら働いている子も、今日生きぬくために自らを売る子も、一緒に生きているのだ。過去のことでもなく、違う世界のことでもなく、この世界のどこかで生きているのだ。私たちと同じ世界に生きる、同じ「子ども」が。
カカオや紅茶の農園、危険な鉱山などでの児童労働は、何故なくならないのだろうか。私は一部のおとなたちが子どもたちを、幸せに生きる権利を持った一人の人間として、とらえていないからだと考える。私たちの中にもあたり前に生きられることを幸せと感じず、児童労働なんて自分に無関係だと思っている人が少なくない。
お菓子ひとつをとっても、それをどんな人々が作っているのか、知らない人がほとんどだ。私たちだって、子どもたちが作った商品を買って、需要を上げている。需要が上がれば、もっと多くの商品を供給するために、さらに子どもたちが働かされる。私たちは無意識のうちに、加害者になっているのだ。
だからといって、「子どもたちが作った物を、ひとつも買わない」というのは不可能に近い。不当な労働ではなく、妥当な賃金を払って作られた商品を取り引きする「フェアトレード」という取り引きも出てきているが、まだ少ない。
私たちが第一歩としてできることは、あたり前に生きられる日常の大切さを知り、実感することではないだろうか。そして。この世界には、いろいろな子どもたちが一生懸命に生きていることを忘れずに、児童労働、戦争といった悲しい現実から決して逃げないこと。現在起こっている事実を知り、自分に置き換えて想像する。何故起こるのか、よく考えて、自分のできることを実行する。これらのことは、どれも小さなことだけれど、たくさんの人がそうすれば、きっと子どもたちが幸せに生きられる世界になるはずだ。
私はもうすぐ十八歳になる。「子ども」ではなくなるからこそ、しっかり現実を見て、世界中の子どもたちと、一緒に歩んでいけるようなおとなになりたい。
-「こころの手をつなごうえー」(赤川次郎監修 アムネスティー・インターナショナル日本編 発行:コモンズ)p.84より。
(まぐまん)
参考URL:
◎「こころの手をつなごうえー」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4861870216/dennsishoseki-22/503-2052640-8099163?creative=1615&camp=243&adid=05KPCDB1K65K0HEJ7MYZ&link_code=as1
◎七つの危険な真実
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