東京クローバークラブ ブログ

東京クローバークラブのHPが休刊中、このブログをクラブ関係の情報交換の場といたします。

本番の状況報告前に

2017-07-27 11:18:27 | 日記
『HOME』『東西OB四連情報』 『八重の桜』『TCC美術館』 『練習日程』 『日韓友情』 『ウィーン発』『京都逍遥』『DOBS』『グリーの覗き窓』<『TCCコンサート情報』『50周年記念 映像ライブラリーDVDジャケット』




本番の状況報告前に、第3ステージで登場するクローバークラブの演奏曲目に関し、プログラムに書かれた指揮者小久保大輔先生の心意気がうかがえる楽曲解説をぜひご覧いただきたい。

「Messe Solennelle~荘厳ミサ~」より
作曲:A.デュオパ/指揮:小久保大輔

楽曲解説
 大学男声合唱界で広く知られた「デュオーパのミサ」。その楽譜のはじめのページには次のように書かれている。

  オルフェオン運動から生まれた荘厳ミサ曲。
  アラス大寺院のオルガニスト兼聖歌隊長でオルフェオン運動の指導者アルベール・デュオパによる。
  ローマの最高法院に出向中のオーベルニュ公へ献呈。

 ここに記されていることが、この作品について現在判明している情報のすべてである。
 作曲者デュオパ自身についてはフランス国立図書館に所蔵されている作品が数点と女声合唱曲「Notre-Dame des Miracles」の出版が確認でき、その楽譜に生没年(1832-1896)が記されているが、国際ライブラリープロジェクト(lnternational Music Score Library Project、IMSLP、12万曲所蔵)にはパブリックドメインとなっているはずの彼の作品は所蔵されていない。推測ではあるが、海外における演奏の情報が見当たらないことからも、このデュオパ作曲「荘厳ミサ曲」は国際的には「忘れられた作曲家による忘れられた作品」であると考えてよいだろう。しかしながらわが国において「デュオーパのミサ」は一定の水準にある男声合唱団の重要なレパートリーとして長らく歌い継がれてきた。

 この作品の日本における伝播は、関西学院グリークラブ出身の林雄一郎氏が戦前に楽譜を入手したことに端を発する。戦時中は秘蔵され、陽の目を見るのは終戦後の1948年第15回関学グリーリサイタルにおける「Kyrie」の演奏であった。翌年1949年には第16回関学グリーリサイタルにて林雄一郎氏の末弟林慶治郎氏指揮により全曲が初演され、関学グリーではその後もリサイタルや交歓演奏会で度々演奏されるレパートリーとなっていく。

 同志社グリークラブでは、1957年の合唱コンクールにて河原林昭良氏の指揮により「Gloria」が演奏され、同年の一般の部にて日下部吉彦氏の指揮による「Kyrie」を演奏したクローバークラブと共に優勝、後の1964年には創立60年記念演奏会において福永賜一郎氏指揮によって原調による日本初の完全演奏が行われた。

 こうして「デュオーパのミサ」はコンクール、演奏会のいずれにおいても採り上げられる作品として、慶応ワグネル、早稲田グリーら四連組のみならす立教グリーや上智グリーなど多くの大学男声合唱団のレパートリーとなっていった。そして2001年、「輸入元」である関学グリーは開学100周年記念として北村協一氏指揮のもと全曲を2年がかりで演奏し、世界初の全曲録音のCD化を遂に達成した。

 日本における「デュオーパのミサ」の受容。それは、スペインで忘れ去られた聖歌「 O Gloriosa Domina」を「ぐるりよざ」として歌い継いだカクレキリシタンさながらの「演奏」の歴史である。日本において「デュオーパのミサ」への憧れを人々にもたらし、新たな演奏を生み続ける原動力となってきたのは、「作品」の力のみならず、先述のように積み重ねられたそれぞれの「演奏」の力(と物語)によるところが大きいように思われる。数多の演奏によって次第にゆるぎない名作となっていった「デュオーパのミサ」の在り方は、演奏行為が音楽の主体であること(あったこと)を宣言するひとつの碑文と言えるのではないだろうか。

 著書「演奏の時代」において作曲の時代の終焉と演奏の時代の幕開けを看破した福永陽一郎氏は「いつか遂には、“演奏”も創造行為としての主体性を失い、人間にとって、音楽行為とは“聴く”ということだけにしか意味がなくなるのかもしれません。」と述べ、そんな時代を見るより前にこの世を去りたいと結んでいる。彼の去った後の時代を生きる私たちの歌う「デュオーパのミサ」が「忘れられた作品の忘れられない演奏」という創造行為となり得るか否か。先達の名演奏に敬意を表しつつ、楽譜の向こうのアルベールとも語りあいながら、諸先輩方の胸を借りて祈りを捧げたい。
小久保大輔


プロフィール
 東京音楽大学器楽科卒業。指揮を桐田正章、汐澤安彦の各氏に、トランペットを林昭世氏に師事。在学中よりアマチュアオーケストラの指導にあたり、2000年より東京文化会館オーケストラフェスティバルにおいて新日本交響楽団を指揮。2001年、横浜カントーレ公演オペラ「毒か薬か物語」「俊寛」を指揮。同年、20世紀音楽の研究・演奏団体「ガレリア」を設立、2004年からはプロ吹奏楽団「ガレリアウインドオーケストラ」としても活動を展開させた。2009年より劇団四季において「ウェストサイド物語」「サウンド・オブ・ミュージック」「オペラ座の怪人」|を指揮。2014年よりプロ声楽アンサンブル「レゾナンツ・カペレ」と共に合唱音楽の可能性も追求している。
 現在、マルティナショナルブラスアンサンブル音楽監督・横浜ルミナスコー各常任指揮者、鎌ヶ谷フィルハーモニック管弦楽団・藤沢福音コール・東京農業大学全学応援団吹奏楽部各指揮者。

 第21回東西四大学OB合唱連盟演奏会 第3ステージ プログラムより
(2017.7.23 於 人見記念講堂)



最新の画像もっと見る

コメントを投稿