今日はミュージカル部門の演出賞からお伝えします。
今年のノミネートは
Scott Ellis 「The Mystery of Edwin Drood」
Jerry Mitchell 「Kinky Boots」
Diane Paulus 「Pippin」
Matthew Warchus 「Matilda」
演出賞は新作、リヴァイヴァル関係なく選出されます。
もうここまで来ると作品の紹介はだいたい済んでるので
早々と他の賞を眺めてみます。
[Drama Desk Award Outstanding Director of a Musical]
Andy Blankenbuehler 「Bring It On: The Musical」
Rachel Chavkin 「Natasha, Pierre & The Great Comet of 1812」
John Doyle 「Passion」
Diane Paulus 「Pippin」
Emma Rice 「The Wild Bride」
Alex Timbers 「Here Lies Love」
Matthew Warchus 「Matilda」
「Kinky~」「The Mystery~」が外れてます。
「Passion」の John Doyle は「スィーニー・トッド」でトニー賞を獲得してます。
以降ソンドハイム作品を多く手がける巨匠です。
「The Wild Bride」の Emma Rice は[theatre company Kneehigh]というイギリスの劇団の
芸術監督でブルックリンの St. Ann's Warehouse という劇場に招聘された作品です。
この作品は本当にアーティスティックで面白かった。きちんと評価されてて嬉しいです。
「Here Lies Love」の Alex Timbers は今かなり売れて来てる演出家です。
「Peter and the Starcatcher」や「bloody bloody andrew jackson」などを演出してます。
今年は夏に上演されるセントラルパークのミュージカルの演出を担当します。
もう一つ
[Outer Critics Circle Award Outstanding Director of a Musical]
Warren Carlyle 「Chaplin」
Scott Ellis 「The Mystery of Edwin Drood」
Jerry Mitchell 「Kinky Boots」
Diane Paulus 「Pippin」
Alex Timbers 「Here Lies Love」
なんと「Matilda」の代わりに「Chaplin」が入ってます。
確かに「Chaplin」は演出的にはかなり頑張っていた気はするけど
「Matilda」が外れるとは・・・
Diane Paulus はどの賞にもノミネート。有力ですね。
さてそれではノミネートされた方々を紹介していきます。
Scott Ellis 「The Mystery of Edwin Drood」
Roundabout Theatre というブロードウェイで最も大きなカンパニーの
アソシエート・芸術監督という肩書きの方です。とにかく重鎮ってことですね。
舞台の仕事はもちろん最近は「30 Rocks」というテレビドラマなどを監督として
手がけていてエミー賞を獲得しています。
ただトニー賞に関して言えばノミネートは5回もされてるけどまだ獲得には至ってない。
代表作は「Curtains」「Twelve Angry Man」「She Loves Me「1776」などなど。
コメディー作品にかなり定評のある演出家です。
ちょっとお洒落なんだけどしっかりおふざけしてくれる。でもどぎつい程の下品さはない。
特に今回のノミネート作品「The Mystery~」は彼の持ち味がかなり活かされた仕上がりでした。
全体的に劇中劇のスタイルを上手く観客に馴染ませ物語を常に俯瞰して見せる事で
細かいところから丁寧に笑いを作り上げて行くことができています。
キャラクターの滑稽さもしっかり色づけできていて
犯人探しをしっかり観客が楽しめていました。
ミュージカルコメディーを上品に面白く作りあげることはなかなか難しいんですが
その難しさにあえてしっかり向き合って上手く仕上げてます。
確かに評価されるのは理解できますが特に素晴らしいというよりも
丁寧な仕事ができる演出家だという印象です。
評価はされるけど受賞には至らないのにもうなずける。
さあ今回はどうでしょうか。
Jerry Mitchell 「Kinky Boots」
振り付け家としてのキャリアの方が長い方ですね。
「La Cage aux Folles」では振り付けでトニー賞を獲得してます。
とにかくゲイ物に強いイメージです。本人が公言しているわけですからね。
振り付けとしての代表作は
「You're a Good Man, Charlie Brown」「The Full Monty」「Hairspray」
「Catch Me if You Can」「Dirty Rotten Scoundreis」「Gypsy」などなど。
元々はダンサーとしてキャリアを始めた人なので当然のキャリアです。
演出家としては「Legally Blonde」でデビュー。
オンブロードウェイ作品の演出は今回が2回目。
とは言え彼にはもってこいの作品です。相性が悪いわけがない。
ポップな振り付けが持ち味の彼ですから当然振り付けも自ら担当してます。
振り付け賞でもノミネートされてます。
今回の作品ではもうとにかくショウアップに心血を注いだという割り切りが
作品をエンターテイメントとしてばっちり成立させていました。
ドラマとしては希薄になってしまいましたがそもそもそういう物を求めてないんだ!
という主張が見えて来るような気がしました。
彼のカラーにぴたりとはまった作品でとてもみやすく盛り上がっています。
振り付け家であるためかやはりミザンスはわかりやすく
無駄なくはっきりしてる印象です。
緻密さというよりはインパクトをしっかり与えることができていました。
とにかくパワフル。ドラマを作らせたらまだまだなのかもしれませんが
今回の作品に関しては素晴らしい仕上げ方だと思います。
演出家としてこれからまだまだ期待の方です。
ただ、やはり振り付けの要素の方が目立ちます。
演出賞としては・・・もう一歩な気がしますが。
Diane Paulus 「Pippin」
もはやリヴァイヴァル作品と言えばの方ですね。
肩書きとしてはハーバード大学の「American Repertory Theater」の芸術監督を務めています。
この団体はハーバードの演劇科のカリキュラムとしてスタートして今では
オンブロードウェイで毎年の様に作品を上演する注目の団体です。
彼女の代表作は「The Donkey Show」「Hair」「Porgy and Bess」
最近はシルクドソレイユの演出なども手がけてます。
新しい解釈や新しい要素を取り入れてのリヴァイヴァルが特徴で
原作をかなり改変することで有名です。
「Hair」はベストリヴァイヴァル賞を獲得してますが演出賞は未だに獲得してません。
因にご結婚されていて旦那様は Randy Weiner さん。
この方はOffでカルト的な人気作 Sleep No More の演出家です。
夫婦揃って演出家ってどんな感じなんでしょうね。
今回の作品では Les 7 Doigts de la Main というモントリオールのサーカス集団の
クリエイターとのコラボレーションを行い、
原作の旅芸人一座をサーカスに置き換えて上演しています。
座長であるリーディングアクターという初演時は男性が行っていた役に
女性をキャスティングするなどまたまた新しい解釈で
彼女のカラーがしっかりと出ています。
個人的には作品の深みがやや消えてしまったという残念さはありますが
上質なエンターテイメント作品としてきちんと仕上がっていて
作品が元々持つ完成度の高さも相まってあまり非の打ちはありません。
はっきりいって好みの問題ですね。
この作品のテーマをもっと伝えたいと思うか、この2時間半魔法の世界に誘うのか。
後者を選択してとにかく観客に驚きを与えスリリングに熱狂させることができている。
一つの成功の形だとおもいます。
今年はかなり受賞のチャンスはあるんじゃないでしょうか。
確かに素晴らしい感覚の持ち主だと思います。
Matthew Warchus 「Matilda」
出身のイギリスでは古典劇からミュージカル、オペラまでなんでもこなす方です。
「Matilda」ではオリヴィエ賞を獲得してます。「Road of the Ring」なんかもこのかたです。
ブロードウェイでは
「Ghost」「Follies」「The Norman Conquests」「 God of Carnage」などが有名です。
「 God of Carnage」ではプレイ部門の演出賞を獲得してます。
因に「Matilda」で助演女優賞にノミネートされてる Lauren Ward が奥様だそうです。
とにかく緻密に隙のない仕上がり。
これは振り付けと美術の要素が多大にはありますが
なんといってもこの暖かみのある世界観の中で
しっかり夢を見せてくれるバランス感覚が素晴らしい。
子供向けの作品としてではなく
誰もが子供の目線になって楽しめるように工夫されています。
馬鹿馬鹿しいコメディー部分もしっかり計算されていて
いきなりぶつけずきちんと地ならしをしてくれていて
観客に良い意味で期待をさせてくれます。
子供の世界に観客を引き込んで行く事がコンセプトとしてはっきりしていて
それが本当に上手く利いている。
近年希に見る完成度の高さは目を見張るものがある。
隙がなく綿密に作り上げておいてコミカルなチープさで息抜きをさせる。
上手いですね。とにかくバランス感覚がいい人なんだと思います。
更に言えばややシュールな尖った部分もあえてコミカルにぶつけることで
じわじわとアイロニーが染みて来ます。
こういう感覚はなんともイギリス人らしいです。
ただ緻密に作り上げるだけではなくしっかり息抜きさせるバランス感覚。
アメリカとイギリスのハイブリッドという印象です。
個人的には作品の完成度からいってかなりのアドヴァンテージがあると思いますが
既に獲得経験がある方です。ミュージカル部門でも獲得なるでしょうか。
Diane Paulus と Matthew Warchus の一騎打ちだと思います。
予想としては Matthew Warchus にとって欲しいけど Diane Paulus なのかなあ。
そんな気がします。
引き続き振り付け賞について
まずはノミネートを確認。
Andy Blankenbuehler 「Bring It On: The Musical」
Peter Darling 「Matilda」
Jerry Mitchell 「 Kinky Boots」
Chet Walker 「Pippin」
これはうなずけるノミネート。今年を代表するナンバーが浮かびます。
他の賞を眺めます。
[Drama Desk Award Outstanding Choreography]
Andy Blankenbuehler 「Bring It On: The Musical」
Warren Carlyle 「A Christmas Story: The Musical」
Peter Darling 「Matilda」
Josh Rhodes 「Rodgers + Hammerstein's Cinderella」
Sergio Trujillo 「Hands on a Hardbody」
Chet Walker and Gypsy Snider 「Pippin」
「Kinky~」の Jerry が抜けてます。これは意外。更にOFF作品が一つもありません。
やはりダンスメインの作品はOFFでは難しいわけですね。
「Pippin」はサーカスクリエイターの Gypsy Snider もノミネート。
「Hands on a Hardbody」の Sergio Trujillo は振り付け界では今かなりの売れっ子。
「Jerset Boys」「Next to Normal」「Memphis」「The Addams Family」などなど。
とは言え今回の作品の仕上がりはいまいちでした。
お次は
[Outer Critics Circle Award Outstanding Choreographer]
Warren Carlyle 「Chaplin」
Peter Darling 「Matilda the Musical」
Jerry Mitchell 「Kinky Boots」
Josh Rhodes 「Cinderella」
Chet Walker 「Pippin」
「Bring It On」が抜けちゃいました。
Warren Carlyle は「Chaplin」と「A Christmas Story: The Musical」で振り付け。
今年はひっぱりだこでしたね。
元はダンサーでスーザン・ストローマンのアシスタントしてキャリアを重ねてた方。
「Chaplin」「Finian's Rainbow」では演出も担当。
確かにコミカルに上手くまとまった振りの印象。
ダイナミックさやインパクトというより小技でニュアンスを伝える感じ。
「Cinderella」の Josh Rhodesは振り付けとしては今回がブロードウェイデビュー。
ダイナミックなイメージの振りが多かった気がします。これからが期待ですね。
Peter DarlingとChet Walker の一騎打ちの様相です。
ノミネートされた方々を紹介していきます。
Andy Blankenbuehler 「Bring It On: The Musical」
代表作は「In the Heights」でトニー賞。他には「 9 to 5」など。
ダンサーとしてキャリアを始めて「Bring It On」では 演出家デビュー。
「In the Heights」「9 to 5」共に本当にアグレッシブでキレのある振りが印象的。
熱気のある情熱的な振りという感じですかね。
今回の作品ではもろチアダンスがメインなので
ちょっと彼の持ち味が全面に押し出せなかった気もします。
彼の作品を観て思うのはちょっとした転換やつなぎの振りが本当に上手い。
当然メインのナンバーも迫力があってパワフルなんですが
細かいシークエンスが無駄にかっこ良くて機能的なんです。
ロッカーやベンチを利用した振りなどなかなかアイディアも面白かった。
むしろユニゾンの振りというよりは個人個人の熱量で見せる振りが得意なイメージなので
チアの振りの恐ろしい程の揃いっぷりは凄かった。
アクロバットの多様な使い方はもうスリリングで華やか。
物凄く完成度は高いんだけど振り付けとしての面白みがちょっと見せにくい作品なのが残念。
まあ受賞経験ありですからね。今回はどうなのかなあ。
Peter Darling 「Matilda」
もうこの人は彼のスタイルがはっきりと認知されていると言ってもいいですね。
映画の「リトル・ダンサー」で鮮烈な印象を焼き付けた彼。
独特のポージングの連続のような滑稽な振りはとても特徴的です。
「Billy Elliot」でトニー賞、オリヴィエ賞を獲得しています。
「Matilda」でもオリヴィエ賞を獲得。
他にも「Road on the Ring」や新作の「Charlie and the Chocolate Factory」を手がけてます。
今回の作品も彼のスタイルが全面に押し出された
とてもスタイリッシュで面白い振りばかり。
とにかく振りの良さが際立った作品と言ってもいいです。
ブランコのシーン、学校の正門でのアルファベットのシーン
授業での机を使っての生徒達のシーンなどなど
振りがしっかりと印象に残るシーンがいくつもありました。
発想力と構成力に優れた人なんだと思います。
ナンバーの中での盛り上げ方ユニゾンの使い方、一つ一つの動きの新しさ。
彼らしい斬新な仕上がりで素晴らしかった。
個人的には彼以外には考えられない。
Jerry Mitchell 「 Kinky Boots」
演出賞のところで記載してるのであまり書く事はないのですが
わかりやすい、のりやすい、キャッチーでポップな振り。
というのが彼の印象です。
難易度の高さや技巧的な部分で魅せるのではなく
全体的に絵として華やかにのりよく魅せることが上手な人。
今回はとにかくベルトコンベアーがコンセプトだったようで
視覚的になかなか面白い見せ方ができていました。
ただなんとも押しまくった印象なので
アーティスティックな雰囲気はいっさいなく
お祭り騒ぎといった感じです。
振りとして面白いかと言われると疑問かな。
Chet Walker 「Pippin」
「Fosse」という作品のクリエイターで振り付け家として有名です。
とにかくフォッシースタイルの継承者というイメージでしょうか。
当然ダンサーとしてのキャリアを重ね
数々のフォッシー作品に出演した経験を元に
名実共にフォッシーの弟子である Ann Reinking と共に
「Fosse」という作品を作り上げたわけです。
今回の作品もオリジナルはフォッシーが演出振り付けだったわけで
フォッシースタイルの振りがオリジナルの雰囲気を感じさせます。
サーカスとのコラボレーションということで様々な制約のなか
フォシッシースタイルのナンバーは
とても活き活きと躍動感に溢れていて冷たい熱さが伝わって来ました。
全体的に毒の少ない仕上がりの作品に
フォッシースタイルの振りが鋭さやシニカルさを醸し出せていて良かった。
やはり Chet Walker かPeter Darlingかという感じ。
フォッシースタイルかピータースタイルか。
もはやスタイルの戦いと言ってもいいかもしれません。
ただ斬新さや作品に対する貢献度、完成度から考えると
Peter Darling に軍配があがるのではないでしょうか。
さて今日は Outer Critics Circle Award の発表です。
どんな結果が出てるのでしょう。楽しみです。
今年のノミネートは
Scott Ellis 「The Mystery of Edwin Drood」
Jerry Mitchell 「Kinky Boots」
Diane Paulus 「Pippin」
Matthew Warchus 「Matilda」
演出賞は新作、リヴァイヴァル関係なく選出されます。
もうここまで来ると作品の紹介はだいたい済んでるので
早々と他の賞を眺めてみます。
[Drama Desk Award Outstanding Director of a Musical]
Andy Blankenbuehler 「Bring It On: The Musical」
Rachel Chavkin 「Natasha, Pierre & The Great Comet of 1812」
John Doyle 「Passion」
Diane Paulus 「Pippin」
Emma Rice 「The Wild Bride」
Alex Timbers 「Here Lies Love」
Matthew Warchus 「Matilda」
「Kinky~」「The Mystery~」が外れてます。
「Passion」の John Doyle は「スィーニー・トッド」でトニー賞を獲得してます。
以降ソンドハイム作品を多く手がける巨匠です。
「The Wild Bride」の Emma Rice は[theatre company Kneehigh]というイギリスの劇団の
芸術監督でブルックリンの St. Ann's Warehouse という劇場に招聘された作品です。
この作品は本当にアーティスティックで面白かった。きちんと評価されてて嬉しいです。
「Here Lies Love」の Alex Timbers は今かなり売れて来てる演出家です。
「Peter and the Starcatcher」や「bloody bloody andrew jackson」などを演出してます。
今年は夏に上演されるセントラルパークのミュージカルの演出を担当します。
もう一つ
[Outer Critics Circle Award Outstanding Director of a Musical]
Warren Carlyle 「Chaplin」
Scott Ellis 「The Mystery of Edwin Drood」
Jerry Mitchell 「Kinky Boots」
Diane Paulus 「Pippin」
Alex Timbers 「Here Lies Love」
なんと「Matilda」の代わりに「Chaplin」が入ってます。
確かに「Chaplin」は演出的にはかなり頑張っていた気はするけど
「Matilda」が外れるとは・・・
Diane Paulus はどの賞にもノミネート。有力ですね。
さてそれではノミネートされた方々を紹介していきます。
Scott Ellis 「The Mystery of Edwin Drood」
Roundabout Theatre というブロードウェイで最も大きなカンパニーの
アソシエート・芸術監督という肩書きの方です。とにかく重鎮ってことですね。
舞台の仕事はもちろん最近は「30 Rocks」というテレビドラマなどを監督として
手がけていてエミー賞を獲得しています。
ただトニー賞に関して言えばノミネートは5回もされてるけどまだ獲得には至ってない。
代表作は「Curtains」「Twelve Angry Man」「She Loves Me「1776」などなど。
コメディー作品にかなり定評のある演出家です。
ちょっとお洒落なんだけどしっかりおふざけしてくれる。でもどぎつい程の下品さはない。
特に今回のノミネート作品「The Mystery~」は彼の持ち味がかなり活かされた仕上がりでした。
全体的に劇中劇のスタイルを上手く観客に馴染ませ物語を常に俯瞰して見せる事で
細かいところから丁寧に笑いを作り上げて行くことができています。
キャラクターの滑稽さもしっかり色づけできていて
犯人探しをしっかり観客が楽しめていました。
ミュージカルコメディーを上品に面白く作りあげることはなかなか難しいんですが
その難しさにあえてしっかり向き合って上手く仕上げてます。
確かに評価されるのは理解できますが特に素晴らしいというよりも
丁寧な仕事ができる演出家だという印象です。
評価はされるけど受賞には至らないのにもうなずける。
さあ今回はどうでしょうか。
Jerry Mitchell 「Kinky Boots」
振り付け家としてのキャリアの方が長い方ですね。
「La Cage aux Folles」では振り付けでトニー賞を獲得してます。
とにかくゲイ物に強いイメージです。本人が公言しているわけですからね。
振り付けとしての代表作は
「You're a Good Man, Charlie Brown」「The Full Monty」「Hairspray」
「Catch Me if You Can」「Dirty Rotten Scoundreis」「Gypsy」などなど。
元々はダンサーとしてキャリアを始めた人なので当然のキャリアです。
演出家としては「Legally Blonde」でデビュー。
オンブロードウェイ作品の演出は今回が2回目。
とは言え彼にはもってこいの作品です。相性が悪いわけがない。
ポップな振り付けが持ち味の彼ですから当然振り付けも自ら担当してます。
振り付け賞でもノミネートされてます。
今回の作品ではもうとにかくショウアップに心血を注いだという割り切りが
作品をエンターテイメントとしてばっちり成立させていました。
ドラマとしては希薄になってしまいましたがそもそもそういう物を求めてないんだ!
という主張が見えて来るような気がしました。
彼のカラーにぴたりとはまった作品でとてもみやすく盛り上がっています。
振り付け家であるためかやはりミザンスはわかりやすく
無駄なくはっきりしてる印象です。
緻密さというよりはインパクトをしっかり与えることができていました。
とにかくパワフル。ドラマを作らせたらまだまだなのかもしれませんが
今回の作品に関しては素晴らしい仕上げ方だと思います。
演出家としてこれからまだまだ期待の方です。
ただ、やはり振り付けの要素の方が目立ちます。
演出賞としては・・・もう一歩な気がしますが。
Diane Paulus 「Pippin」
もはやリヴァイヴァル作品と言えばの方ですね。
肩書きとしてはハーバード大学の「American Repertory Theater」の芸術監督を務めています。
この団体はハーバードの演劇科のカリキュラムとしてスタートして今では
オンブロードウェイで毎年の様に作品を上演する注目の団体です。
彼女の代表作は「The Donkey Show」「Hair」「Porgy and Bess」
最近はシルクドソレイユの演出なども手がけてます。
新しい解釈や新しい要素を取り入れてのリヴァイヴァルが特徴で
原作をかなり改変することで有名です。
「Hair」はベストリヴァイヴァル賞を獲得してますが演出賞は未だに獲得してません。
因にご結婚されていて旦那様は Randy Weiner さん。
この方はOffでカルト的な人気作 Sleep No More の演出家です。
夫婦揃って演出家ってどんな感じなんでしょうね。
今回の作品では Les 7 Doigts de la Main というモントリオールのサーカス集団の
クリエイターとのコラボレーションを行い、
原作の旅芸人一座をサーカスに置き換えて上演しています。
座長であるリーディングアクターという初演時は男性が行っていた役に
女性をキャスティングするなどまたまた新しい解釈で
彼女のカラーがしっかりと出ています。
個人的には作品の深みがやや消えてしまったという残念さはありますが
上質なエンターテイメント作品としてきちんと仕上がっていて
作品が元々持つ完成度の高さも相まってあまり非の打ちはありません。
はっきりいって好みの問題ですね。
この作品のテーマをもっと伝えたいと思うか、この2時間半魔法の世界に誘うのか。
後者を選択してとにかく観客に驚きを与えスリリングに熱狂させることができている。
一つの成功の形だとおもいます。
今年はかなり受賞のチャンスはあるんじゃないでしょうか。
確かに素晴らしい感覚の持ち主だと思います。
Matthew Warchus 「Matilda」
出身のイギリスでは古典劇からミュージカル、オペラまでなんでもこなす方です。
「Matilda」ではオリヴィエ賞を獲得してます。「Road of the Ring」なんかもこのかたです。
ブロードウェイでは
「Ghost」「Follies」「The Norman Conquests」「 God of Carnage」などが有名です。
「 God of Carnage」ではプレイ部門の演出賞を獲得してます。
因に「Matilda」で助演女優賞にノミネートされてる Lauren Ward が奥様だそうです。
とにかく緻密に隙のない仕上がり。
これは振り付けと美術の要素が多大にはありますが
なんといってもこの暖かみのある世界観の中で
しっかり夢を見せてくれるバランス感覚が素晴らしい。
子供向けの作品としてではなく
誰もが子供の目線になって楽しめるように工夫されています。
馬鹿馬鹿しいコメディー部分もしっかり計算されていて
いきなりぶつけずきちんと地ならしをしてくれていて
観客に良い意味で期待をさせてくれます。
子供の世界に観客を引き込んで行く事がコンセプトとしてはっきりしていて
それが本当に上手く利いている。
近年希に見る完成度の高さは目を見張るものがある。
隙がなく綿密に作り上げておいてコミカルなチープさで息抜きをさせる。
上手いですね。とにかくバランス感覚がいい人なんだと思います。
更に言えばややシュールな尖った部分もあえてコミカルにぶつけることで
じわじわとアイロニーが染みて来ます。
こういう感覚はなんともイギリス人らしいです。
ただ緻密に作り上げるだけではなくしっかり息抜きさせるバランス感覚。
アメリカとイギリスのハイブリッドという印象です。
個人的には作品の完成度からいってかなりのアドヴァンテージがあると思いますが
既に獲得経験がある方です。ミュージカル部門でも獲得なるでしょうか。
Diane Paulus と Matthew Warchus の一騎打ちだと思います。
予想としては Matthew Warchus にとって欲しいけど Diane Paulus なのかなあ。
そんな気がします。
引き続き振り付け賞について
まずはノミネートを確認。
Andy Blankenbuehler 「Bring It On: The Musical」
Peter Darling 「Matilda」
Jerry Mitchell 「 Kinky Boots」
Chet Walker 「Pippin」
これはうなずけるノミネート。今年を代表するナンバーが浮かびます。
他の賞を眺めます。
[Drama Desk Award Outstanding Choreography]
Andy Blankenbuehler 「Bring It On: The Musical」
Warren Carlyle 「A Christmas Story: The Musical」
Peter Darling 「Matilda」
Josh Rhodes 「Rodgers + Hammerstein's Cinderella」
Sergio Trujillo 「Hands on a Hardbody」
Chet Walker and Gypsy Snider 「Pippin」
「Kinky~」の Jerry が抜けてます。これは意外。更にOFF作品が一つもありません。
やはりダンスメインの作品はOFFでは難しいわけですね。
「Pippin」はサーカスクリエイターの Gypsy Snider もノミネート。
「Hands on a Hardbody」の Sergio Trujillo は振り付け界では今かなりの売れっ子。
「Jerset Boys」「Next to Normal」「Memphis」「The Addams Family」などなど。
とは言え今回の作品の仕上がりはいまいちでした。
お次は
[Outer Critics Circle Award Outstanding Choreographer]
Warren Carlyle 「Chaplin」
Peter Darling 「Matilda the Musical」
Jerry Mitchell 「Kinky Boots」
Josh Rhodes 「Cinderella」
Chet Walker 「Pippin」
「Bring It On」が抜けちゃいました。
Warren Carlyle は「Chaplin」と「A Christmas Story: The Musical」で振り付け。
今年はひっぱりだこでしたね。
元はダンサーでスーザン・ストローマンのアシスタントしてキャリアを重ねてた方。
「Chaplin」「Finian's Rainbow」では演出も担当。
確かにコミカルに上手くまとまった振りの印象。
ダイナミックさやインパクトというより小技でニュアンスを伝える感じ。
「Cinderella」の Josh Rhodesは振り付けとしては今回がブロードウェイデビュー。
ダイナミックなイメージの振りが多かった気がします。これからが期待ですね。
Peter DarlingとChet Walker の一騎打ちの様相です。
ノミネートされた方々を紹介していきます。
Andy Blankenbuehler 「Bring It On: The Musical」
代表作は「In the Heights」でトニー賞。他には「 9 to 5」など。
ダンサーとしてキャリアを始めて「Bring It On」では 演出家デビュー。
「In the Heights」「9 to 5」共に本当にアグレッシブでキレのある振りが印象的。
熱気のある情熱的な振りという感じですかね。
今回の作品ではもろチアダンスがメインなので
ちょっと彼の持ち味が全面に押し出せなかった気もします。
彼の作品を観て思うのはちょっとした転換やつなぎの振りが本当に上手い。
当然メインのナンバーも迫力があってパワフルなんですが
細かいシークエンスが無駄にかっこ良くて機能的なんです。
ロッカーやベンチを利用した振りなどなかなかアイディアも面白かった。
むしろユニゾンの振りというよりは個人個人の熱量で見せる振りが得意なイメージなので
チアの振りの恐ろしい程の揃いっぷりは凄かった。
アクロバットの多様な使い方はもうスリリングで華やか。
物凄く完成度は高いんだけど振り付けとしての面白みがちょっと見せにくい作品なのが残念。
まあ受賞経験ありですからね。今回はどうなのかなあ。
Peter Darling 「Matilda」
もうこの人は彼のスタイルがはっきりと認知されていると言ってもいいですね。
映画の「リトル・ダンサー」で鮮烈な印象を焼き付けた彼。
独特のポージングの連続のような滑稽な振りはとても特徴的です。
「Billy Elliot」でトニー賞、オリヴィエ賞を獲得しています。
「Matilda」でもオリヴィエ賞を獲得。
他にも「Road on the Ring」や新作の「Charlie and the Chocolate Factory」を手がけてます。
今回の作品も彼のスタイルが全面に押し出された
とてもスタイリッシュで面白い振りばかり。
とにかく振りの良さが際立った作品と言ってもいいです。
ブランコのシーン、学校の正門でのアルファベットのシーン
授業での机を使っての生徒達のシーンなどなど
振りがしっかりと印象に残るシーンがいくつもありました。
発想力と構成力に優れた人なんだと思います。
ナンバーの中での盛り上げ方ユニゾンの使い方、一つ一つの動きの新しさ。
彼らしい斬新な仕上がりで素晴らしかった。
個人的には彼以外には考えられない。
Jerry Mitchell 「 Kinky Boots」
演出賞のところで記載してるのであまり書く事はないのですが
わかりやすい、のりやすい、キャッチーでポップな振り。
というのが彼の印象です。
難易度の高さや技巧的な部分で魅せるのではなく
全体的に絵として華やかにのりよく魅せることが上手な人。
今回はとにかくベルトコンベアーがコンセプトだったようで
視覚的になかなか面白い見せ方ができていました。
ただなんとも押しまくった印象なので
アーティスティックな雰囲気はいっさいなく
お祭り騒ぎといった感じです。
振りとして面白いかと言われると疑問かな。
Chet Walker 「Pippin」
「Fosse」という作品のクリエイターで振り付け家として有名です。
とにかくフォッシースタイルの継承者というイメージでしょうか。
当然ダンサーとしてのキャリアを重ね
数々のフォッシー作品に出演した経験を元に
名実共にフォッシーの弟子である Ann Reinking と共に
「Fosse」という作品を作り上げたわけです。
今回の作品もオリジナルはフォッシーが演出振り付けだったわけで
フォッシースタイルの振りがオリジナルの雰囲気を感じさせます。
サーカスとのコラボレーションということで様々な制約のなか
フォシッシースタイルのナンバーは
とても活き活きと躍動感に溢れていて冷たい熱さが伝わって来ました。
全体的に毒の少ない仕上がりの作品に
フォッシースタイルの振りが鋭さやシニカルさを醸し出せていて良かった。
やはり Chet Walker かPeter Darlingかという感じ。
フォッシースタイルかピータースタイルか。
もはやスタイルの戦いと言ってもいいかもしれません。
ただ斬新さや作品に対する貢献度、完成度から考えると
Peter Darling に軍配があがるのではないでしょうか。
さて今日は Outer Critics Circle Award の発表です。
どんな結果が出てるのでしょう。楽しみです。