おばちゃん聖子ちゃんになる

　うちの詰所はものすごくうるさい
箸が転がってもおかしい年頃のまま20年も30年も経過したおばちゃんばっかりが集結しているので　誰かがひとこと何か言うと　みんながてんでバラバラにゴーーーーーッと話し出す
そのすさまじいことと言ったらすさまじい
　今日は誰かが
「マーメイドじゃねーんじゃけん」と言ったので　総食らいつきだった

マーメイドの歌があったじゃろ　中学生くらいんとき
中山美穂じゃねーん
いやいや　聖子ちゃんも歌ってたはずじゃ
これか　マーーーメイドーーー
そりゃスイートピーじゃろおぉ
これじゃろ
それが美穂ちゃんじゃがー　アイドンマイン　アイドンマインじゃ
だれか聖子ちゃんのマーメイド知らんのー
あー　気持ち悪い　誰か思い出してん
あっち行って聞いてきー
サビがどんなんじゃったかな
サビがわかったら全部出てくるがなー
あー　誰か歌ってんっ
このままだったら帰れりゃせんがん

・・と　あらゆる音程のマーメイドを口々に絞り出すものの
どうしても思い出せない
えんえんとマーメイド談義が続き（もちろん仕事はしています）
ようやくたどり着いた
「小麦色のマーメイド」

そこから聖子ちゃん談義が始まり
聖子ちゃんの整形談議に発展し
みんななんだかんだ言って　青春の中に聖子ちゃんがいたことが分かった

私も別に聖子ちゃんを聴いていたわけでもないけれど
なぜか聖子ちゃんの歌はほとんど歌える
中森明菜もほとんど歌える

あの頃はもっと身近に歌があって
みんなダブルカセットをテレビの前に置いて　録音ボタンをポーズにして
後ろの家族に
「しーっ　録音するんだから　音立てないでよっ」
と言いながら　うまく録音できているかドキドキしていた

やっと録音できた大事な歌は　何度も何度も繰り返し巻き戻して　一生懸命に覚えた
聞きすぎて伸びたテープは　カセットの穴に鉛筆を入れてくるくる巻いて調整したものだ

いろんなものが貴重で大事だった
だから忘れないんだろう

・・と思いながら
おばちゃんは聖子ちゃんになったのであった