日本で一番美味しいパンが食べられるのは、東京・富ヶ谷の「ルヴァン」だと思っている。
たまに、あたかも恋するような気持ちで
「あぁ、今ルヴァンのメランジェが食べたいなぁ」なんて思う。
そう、その気持ちは主に、4月から5月にかけての、さわやかな晴れた日の遅い朝にやって来る。
けれど、今は東京から離れたので、行きたいけれど、行けない。
行って買うことができないのなら、答はひとつ。作るしかない。
ずっと前に買ったルヴァンのレシピ本を出して来て、慎重にゆっくり気長に酵母を起すこと、
2週間。やっと元気のいい酵母が育ったので、今日一日かけてパンを焼いた。
もちろんルヴァンには及ばないけれど、私の「ルヴァン欲」をなだめる効果はあった。
そしてこの本にもあったとおり、いちから自分で「育てた」パンのかわいいこと!
「パンがかわいい」なんて、なんだかおかしなものだけれど、
手と心とをかけて作り上げたものは、一様に独特のいとおしさ。
それにしても。
「時間のかかる」ことが、どうしてこんなにも好きなのか?
パンにせよ、銅版画にせよ、ペン画にせよ、畑にせよ、
なにしろとにかく時間がかかる。
...と、考え始めて、はたと気付く。
「時間のかかることが」好きなのではなく、
「かけた時間そのものに価値があると思えることが」好きなんだ。
正しいと信じたものに、今生きているこの「時間」を惜しみなく使えること。
全ては、そのため。