今回のエントリはTPPと言う事で、取り敢えず「週刊ダイヤモンド」の記事を貼る(記事の平仮名を漢字に変えてますので宜しく)。
TPP(環太平洋経済連携協定)の交渉参加に付いての結論が、11月上旬までに出される。
大詰めの状況にありながら、TPPに関する情報は不足している。
政府はこの点を認めつつも、本音では議論も説明もするつもり等、無さそうだ。
しかし、TPPの正体を知る上で格好の分析対象がある。
TPP推進論者が羨望する米韓FTA(自由貿易協定)である。
先ずTPPは、日本が参加した場合、交渉参加国の経済規模のシェアが日米で9割を占めるから、多国間協定とは名ばかりで、実質的には“日米FTA”とみなす事が出来る。
また、米韓FTAもTPPと同じ様に、関税の完全撤廃と言う急進的な貿易自由化を目指していたし、取り扱われる分野の範囲が物品だけで無く、金融、投資、政府調達、労働、環境等、広くカバーしている点も同じだ。
そして何より、TPP推進論者は「ライバルの韓国が米韓FTAに合意したのだから、日本も乗り遅れるな」と煽ってきた。
その米韓FTAを見れば、TPPへの参加が日本に何をもたらすかが判る筈だ。
だが政府もTPP推進論者も、米韓FTAの具体的な内容に付いて、一向に触れ様とはしない。
その理由は簡単で、米韓FTAは韓国にとって極めて不利な結果に終わったからである。
では、米韓FTAの無残な結末を、日本の置かれた状況と対比しながら見てみよう。
先ず、韓国は何を得たか。勿論、米国での関税の撤廃である。
しかし、韓国が輸出できそうな工業製品に付いての米国の関税は、既に充分低い。
例えば、自動車は僅か2.5%、テレビは5%程度しかないのだ。しかも、この米国の2.5%の自動車関税の撤廃は、もし米国製自動車の販売や流通に深刻な影響を及ぼすと米国の企業が判断した場合は、無効になると言う条件が付いている。
そもそも韓国は、自動車も電気電子製品も既に、米国に於ける現地生産を進めているから、関税の存在は企業競争力とは殆ど関係が無い。これは、言うまでも無く日本も同じである。
グローバル化によって海外生産が進んだ現在、製造業の競争力は、関税では無く通貨の価値で決まるのだ。
即ち、韓国企業の競争力は、昨今のウォン安のおかげであり、日本の輸出企業の不振は円高の所為だ。もはや関税は、問題では無いない。
さて、韓国は、この無意味な関税撤廃の代償として、自国の自動車市場に米国企業が参入し易い様に、制度を変更する事を迫られた。
米国の自動車業界が、米韓FTAによる関税撤廃を飲む見返りを米国政府に要求したからだ。
その結果、韓国は、排出量基準設定に付いて米国の方式を導入すると共に、韓国に輸入される米国産自動車に対して課せられる排出ガス診断装置の装着義務や安全基準認証等に付いて、一定の義務を免除する事になった。
つまり、自動車の環境や安全を韓国の基準で守る事が出来なくなったのだ。
また、米国の自動車メーカーが競争力をもつ大型車の税負担をより軽減する事にもなった。
米国通商代表部は、日本にも、自動車市場の参入障壁の撤廃を求めている。
エコカー減税等、米国産自動車が苦手な環境対策の事だ。
韓国は、米の自由化は逃れたが、それ以外は実質的に全て自由化する事になった。
海外生産を進めている製造業にとって関税は無意味だが、農業を保護する為には依然として重要だ。
従って、製造業を守りたい米国と、農業を守りたい韓国が、お互いに関税を撤廃したら、結果は韓国に不利になるだけに終わる。
これは、日本も同じである。
しかも、唯一自由化を逃れた米に付いては、米国最大の米の産地であるアーカンソー州選出のクロフォード議員が不満を表明している。
カーク通商代表も、今後、韓国の米市場をこじ開ける努力をし、また今後の通商交渉では例外品目は設けないと応えている。
つまり、TPP交渉では、米も例外にはならないと言う事だ。
この他、韓国は法務・会計・税務サービスに付いて、米国人が韓国で事務所を開設し易い様な制度に変えさせられた。
知的財産権制度は、米国の要求を全て飲んだ。その結果、例えば米国企業が、韓国のウェブサイトを閉鎖する事が出来る様になった。
医薬品に付いては、米国の医薬品メーカーが、自社の医薬品の薬価が低く決定された場合、これを不服として韓国政府に見直しを求める事が可能になる制度が設けられた。
農業協同組合や水産業協同組合、郵便局、信用金庫の提供する保険サービスは、米国の要求通り、協定の発効後、3年以内に一般の民間保険と同じ扱いになる事が決まった。
そもそも、共済と言うものは、職業や居住地等、ある共通点を持った人々が資金を出し合う事で、何かあった時にその資金の中から保障を行う相互扶助事業である。
それが解体させられ、助け合いの為の資金が米国の保険会社に吸収される道を開いてしまったのだ。
米国は、日本の簡易保険と共済に対しても、同じ要求を既に突き付けて来ている。
日本の保険市場は米国の次に大きいのだから、米国は韓国以上に日本の保険市場を欲しがっているのだ。
さらに米韓FTAには、いくつか恐ろしい仕掛けがある。
その一つが「ラチェット規定」だ。
ラチェットとは、一方にしか動かない爪歯車を指す。ラチェット規定は即ち、現状の自由化よりも後退を許さないと言う規定である。
締約国が、後で何らかの事情により、市場開放をし過ぎたと思っても、規制を強化する事が許されない規定なのだ。
このラチェット規定が入っている分野を見ると、例えば銀行、保険、法務、特許、会計、電力・ガス、宅配、電気通信、建設サービス、流通、高等教育、医療機器、航空輸送など多岐に渡る。
どれも米国企業に有利な分野ばかりである。
加えて、今後、韓国が他の国とFTAを締結した場合、その条件が米国に対する条件よりも有利な場合は、米国にも同じ条件を適用しなければならないと言う規定まで入れられた。
もう一つ特筆すべきは、韓国が、ISD(「国家と投資家の間の紛争解決手続き」)条項を飲まされている事である。
このISDとは、ある国家が自国の公共も利益の為に制定した政策によって、海外の投資家が不利益を被った場合には、世界銀行傘下の「国際投資紛争解決センター」と言う第三者機関に訴える事が出来る制度である。
しかし、このISD条項には次の様な問題点が指摘されている。
ISD条項に基づいて投資家が政府を訴えた場合、数名の仲裁人がこれを審査する。
しかし審理の関心は、あくまで「政府の政策が投資家にどれ位の被害を与えたか」と言う点だけに向けられ、「その政策が公共の利益の為に必要なものかどうか」は考慮されない。
その上、この審査は非公開で行われる為、不透明であり、判例の拘束を受けないので結果が予測不可能である。
また、この審査の結果に不服があっても上訴出来ない。
仮に審査結果に法解釈の誤りがあったとしても、国の司法機関は、これを是正する事が出来ないのである。
しかも信じ難い事に、米韓FTAの場合には、このISD条項は韓国にだけ適用されるのである。
このISD条項は、米国とカナダとメキシコの自由貿易協定であるNAFTA(北米自由貿易協定)に於いて導入された。
その結果、国家主権が犯される事態が次々と引き起こされている。
例えばカナダでは、ある神経性物質の燃料への使用を禁止していた。同様の規制は、ヨーロッパや米国の殆んどの州にある。
ところが、米国のある燃料企業が、この規制で不利益を被ったとして、ISD条項に基づいてカナダ政府を訴えた。
そして審査の結果、カナダ政府は敗訴し、巨額の賠償金を支払った上、この規制を撤廃せざるを得なくなった。
また、ある米国の廃棄物処理業者が、カナダで処理をした廃棄物(PCB)を米国国内に輸送してリサイクルする計画を立てた所、カナダ政府は環境上の理由から米国への廃棄物の輸出を一定期間禁止した。
これに対し、米国の廃棄物処理業者はISD条項に従ってカナダ政府を提訴し、カナダ政府は823万ドルの賠償を支払わなければならなくなった。
メキシコでは、地方自治体がある米国企業による有害物質の埋め立て計画の危険性を考慮して、その許可を取り消した。
すると、この米国企業はメキシコ政府を訴え、1670万ドルの賠償金を獲得する事に成功したのである。
要するに、ISD条項とは、各国が自国民の安全、健康、福祉、環境を、自分たちの国の基準で決められなくする「治外法権」規定なのである。
気の毒に、韓国はこの条項を受け入れさせられたのだ。
このISD条項に基づく紛争の件数は、1990年代以降激増し、その累積件数は200を越えている。
この為、ヨーク大学のスティーブン・ギルやロンドン大学のガス・ヴァン・ハーテンなど多くの識者が、このISD条項は、グローバル企業が各国の主権そして民主主義を侵害する事を認めるものだ、と問題視している。
米国はTPP交渉に参加した際に、新たに投資の作業部会を設けさせた。
米国の狙いは、このISD条項をねじ込み、自国企業がその投資と訴訟のテクニックを駆使して儲ける事なのだ。
日本はISD条項を断固として拒否しなければならない。
ところが信じがたい事に、政府は「我が国が確保したい主なルール」の中にこのISD条項を入れているのである(民主党経済連携プロジェクトチームの資料)。
その理由は、日本企業がTPP参加国に進出した場合に、進出先の国の政策によって不利益を被った際の問題解決として使えるからだという。
しかし、グローバル企業の利益の為に、他国の主権(民主国家なら国民主権)を侵害する等と言う事は、許されるべきではない。
それ以上に、愚かしいのは、日本政府の方がグローバル企業、特にアメリカ企業に訴えられて、国民主権を侵害されるリスクを軽視している事だ。
政府やTPP推進論者は、「交渉に参加して、ルールを有利にすれば良い」「不利になる事項に付いては、譲らなければ良い」等と言い募り、「先ずは交渉のテーブルに着くべきだ」等と言ってきた。
しかし、TPPの交渉で日本が得られるもの等、多寡が知れているのに対し、守らなければならないものは数多くある。
その様な防戦一方の交渉がどんな結末になるかは、TPP推進論者が羨望する米韓FTAの結果を見れば明らかだ。
それどころか、政府は日本の国益を著しく損なうISD条項の導入をむしろ望んでいるのである。
こうなると、もはや、情報を入手するとか交渉を有利にすると言ったレベルの問題では無い。
日本政府は、自国の国益とは何かを判断する能力すら欠いているのだ。
米韓FTAに付いて、オバマ大統領は一般教書演説で「米国の雇用は7万人増える」と凱歌を挙げた。
米国の雇用が7万人増えたと言う事は、要するに、韓国の雇用を7万人奪ったという事だ。
他方、前大統領政策企画秘書官のチョン・テイン氏は「主要な争点に於いて、我々が得た物は何も無い。米国が要求する事は、殆んど一つ残らず全て譲歩してやった」と嘆いている。
この様に無残に終わった米韓FTAであるが、韓国国民は、殆ど情報を知らされていなかったと言われている。
この状況も、現在の日本とそっくりである。
オバマ大統領は、李明博韓国大統領を国賓として招き、盛大に歓迎してみせた。
TPP推進論者はこれを羨ましがり、日本もTPPに参加して日米関係を改善すべきだと煽っている。
しかし、これだけ自国の国益を米国に差し出したのだから、韓国大統領が米国に歓迎されるのも当然である。
日本もTPPに参加したら、野田首相もアメリカから国賓扱いで、もてなされることだろう。
そして政府やマス・メディアは、「日米関係が改善した」と喜ぶのだ。
だが、この度し難い愚かさの代償は、とてつもなく大きい。
それなのに、現状はどうか。政府も大手マス・メディアも、既に1年前からTPP交渉参加と言う結論ありきで進んでいる。
11月のAPECを目前に、方針転換するどころか、議論をする気も無いし、国民に説明する気すらない。
国と言うものは、こうやって衰退して行くのだ。
以上がダイヤモンドの記事、これに付いては何れ書きます。では。
【ネッタイムス・東坊京門・作】
TPP(環太平洋経済連携協定)の交渉参加に付いての結論が、11月上旬までに出される。
大詰めの状況にありながら、TPPに関する情報は不足している。
政府はこの点を認めつつも、本音では議論も説明もするつもり等、無さそうだ。
しかし、TPPの正体を知る上で格好の分析対象がある。
TPP推進論者が羨望する米韓FTA(自由貿易協定)である。
先ずTPPは、日本が参加した場合、交渉参加国の経済規模のシェアが日米で9割を占めるから、多国間協定とは名ばかりで、実質的には“日米FTA”とみなす事が出来る。
また、米韓FTAもTPPと同じ様に、関税の完全撤廃と言う急進的な貿易自由化を目指していたし、取り扱われる分野の範囲が物品だけで無く、金融、投資、政府調達、労働、環境等、広くカバーしている点も同じだ。
そして何より、TPP推進論者は「ライバルの韓国が米韓FTAに合意したのだから、日本も乗り遅れるな」と煽ってきた。
その米韓FTAを見れば、TPPへの参加が日本に何をもたらすかが判る筈だ。
だが政府もTPP推進論者も、米韓FTAの具体的な内容に付いて、一向に触れ様とはしない。
その理由は簡単で、米韓FTAは韓国にとって極めて不利な結果に終わったからである。
では、米韓FTAの無残な結末を、日本の置かれた状況と対比しながら見てみよう。
先ず、韓国は何を得たか。勿論、米国での関税の撤廃である。
しかし、韓国が輸出できそうな工業製品に付いての米国の関税は、既に充分低い。
例えば、自動車は僅か2.5%、テレビは5%程度しかないのだ。しかも、この米国の2.5%の自動車関税の撤廃は、もし米国製自動車の販売や流通に深刻な影響を及ぼすと米国の企業が判断した場合は、無効になると言う条件が付いている。
そもそも韓国は、自動車も電気電子製品も既に、米国に於ける現地生産を進めているから、関税の存在は企業競争力とは殆ど関係が無い。これは、言うまでも無く日本も同じである。
グローバル化によって海外生産が進んだ現在、製造業の競争力は、関税では無く通貨の価値で決まるのだ。
即ち、韓国企業の競争力は、昨今のウォン安のおかげであり、日本の輸出企業の不振は円高の所為だ。もはや関税は、問題では無いない。
さて、韓国は、この無意味な関税撤廃の代償として、自国の自動車市場に米国企業が参入し易い様に、制度を変更する事を迫られた。
米国の自動車業界が、米韓FTAによる関税撤廃を飲む見返りを米国政府に要求したからだ。
その結果、韓国は、排出量基準設定に付いて米国の方式を導入すると共に、韓国に輸入される米国産自動車に対して課せられる排出ガス診断装置の装着義務や安全基準認証等に付いて、一定の義務を免除する事になった。
つまり、自動車の環境や安全を韓国の基準で守る事が出来なくなったのだ。
また、米国の自動車メーカーが競争力をもつ大型車の税負担をより軽減する事にもなった。
米国通商代表部は、日本にも、自動車市場の参入障壁の撤廃を求めている。
エコカー減税等、米国産自動車が苦手な環境対策の事だ。
韓国は、米の自由化は逃れたが、それ以外は実質的に全て自由化する事になった。
海外生産を進めている製造業にとって関税は無意味だが、農業を保護する為には依然として重要だ。
従って、製造業を守りたい米国と、農業を守りたい韓国が、お互いに関税を撤廃したら、結果は韓国に不利になるだけに終わる。
これは、日本も同じである。
しかも、唯一自由化を逃れた米に付いては、米国最大の米の産地であるアーカンソー州選出のクロフォード議員が不満を表明している。
カーク通商代表も、今後、韓国の米市場をこじ開ける努力をし、また今後の通商交渉では例外品目は設けないと応えている。
つまり、TPP交渉では、米も例外にはならないと言う事だ。
この他、韓国は法務・会計・税務サービスに付いて、米国人が韓国で事務所を開設し易い様な制度に変えさせられた。
知的財産権制度は、米国の要求を全て飲んだ。その結果、例えば米国企業が、韓国のウェブサイトを閉鎖する事が出来る様になった。
医薬品に付いては、米国の医薬品メーカーが、自社の医薬品の薬価が低く決定された場合、これを不服として韓国政府に見直しを求める事が可能になる制度が設けられた。
農業協同組合や水産業協同組合、郵便局、信用金庫の提供する保険サービスは、米国の要求通り、協定の発効後、3年以内に一般の民間保険と同じ扱いになる事が決まった。
そもそも、共済と言うものは、職業や居住地等、ある共通点を持った人々が資金を出し合う事で、何かあった時にその資金の中から保障を行う相互扶助事業である。
それが解体させられ、助け合いの為の資金が米国の保険会社に吸収される道を開いてしまったのだ。
米国は、日本の簡易保険と共済に対しても、同じ要求を既に突き付けて来ている。
日本の保険市場は米国の次に大きいのだから、米国は韓国以上に日本の保険市場を欲しがっているのだ。
さらに米韓FTAには、いくつか恐ろしい仕掛けがある。
その一つが「ラチェット規定」だ。
ラチェットとは、一方にしか動かない爪歯車を指す。ラチェット規定は即ち、現状の自由化よりも後退を許さないと言う規定である。
締約国が、後で何らかの事情により、市場開放をし過ぎたと思っても、規制を強化する事が許されない規定なのだ。
このラチェット規定が入っている分野を見ると、例えば銀行、保険、法務、特許、会計、電力・ガス、宅配、電気通信、建設サービス、流通、高等教育、医療機器、航空輸送など多岐に渡る。
どれも米国企業に有利な分野ばかりである。
加えて、今後、韓国が他の国とFTAを締結した場合、その条件が米国に対する条件よりも有利な場合は、米国にも同じ条件を適用しなければならないと言う規定まで入れられた。
もう一つ特筆すべきは、韓国が、ISD(「国家と投資家の間の紛争解決手続き」)条項を飲まされている事である。
このISDとは、ある国家が自国の公共も利益の為に制定した政策によって、海外の投資家が不利益を被った場合には、世界銀行傘下の「国際投資紛争解決センター」と言う第三者機関に訴える事が出来る制度である。
しかし、このISD条項には次の様な問題点が指摘されている。
ISD条項に基づいて投資家が政府を訴えた場合、数名の仲裁人がこれを審査する。
しかし審理の関心は、あくまで「政府の政策が投資家にどれ位の被害を与えたか」と言う点だけに向けられ、「その政策が公共の利益の為に必要なものかどうか」は考慮されない。
その上、この審査は非公開で行われる為、不透明であり、判例の拘束を受けないので結果が予測不可能である。
また、この審査の結果に不服があっても上訴出来ない。
仮に審査結果に法解釈の誤りがあったとしても、国の司法機関は、これを是正する事が出来ないのである。
しかも信じ難い事に、米韓FTAの場合には、このISD条項は韓国にだけ適用されるのである。
このISD条項は、米国とカナダとメキシコの自由貿易協定であるNAFTA(北米自由貿易協定)に於いて導入された。
その結果、国家主権が犯される事態が次々と引き起こされている。
例えばカナダでは、ある神経性物質の燃料への使用を禁止していた。同様の規制は、ヨーロッパや米国の殆んどの州にある。
ところが、米国のある燃料企業が、この規制で不利益を被ったとして、ISD条項に基づいてカナダ政府を訴えた。
そして審査の結果、カナダ政府は敗訴し、巨額の賠償金を支払った上、この規制を撤廃せざるを得なくなった。
また、ある米国の廃棄物処理業者が、カナダで処理をした廃棄物(PCB)を米国国内に輸送してリサイクルする計画を立てた所、カナダ政府は環境上の理由から米国への廃棄物の輸出を一定期間禁止した。
これに対し、米国の廃棄物処理業者はISD条項に従ってカナダ政府を提訴し、カナダ政府は823万ドルの賠償を支払わなければならなくなった。
メキシコでは、地方自治体がある米国企業による有害物質の埋め立て計画の危険性を考慮して、その許可を取り消した。
すると、この米国企業はメキシコ政府を訴え、1670万ドルの賠償金を獲得する事に成功したのである。
要するに、ISD条項とは、各国が自国民の安全、健康、福祉、環境を、自分たちの国の基準で決められなくする「治外法権」規定なのである。
気の毒に、韓国はこの条項を受け入れさせられたのだ。
このISD条項に基づく紛争の件数は、1990年代以降激増し、その累積件数は200を越えている。
この為、ヨーク大学のスティーブン・ギルやロンドン大学のガス・ヴァン・ハーテンなど多くの識者が、このISD条項は、グローバル企業が各国の主権そして民主主義を侵害する事を認めるものだ、と問題視している。
米国はTPP交渉に参加した際に、新たに投資の作業部会を設けさせた。
米国の狙いは、このISD条項をねじ込み、自国企業がその投資と訴訟のテクニックを駆使して儲ける事なのだ。
日本はISD条項を断固として拒否しなければならない。
ところが信じがたい事に、政府は「我が国が確保したい主なルール」の中にこのISD条項を入れているのである(民主党経済連携プロジェクトチームの資料)。
その理由は、日本企業がTPP参加国に進出した場合に、進出先の国の政策によって不利益を被った際の問題解決として使えるからだという。
しかし、グローバル企業の利益の為に、他国の主権(民主国家なら国民主権)を侵害する等と言う事は、許されるべきではない。
それ以上に、愚かしいのは、日本政府の方がグローバル企業、特にアメリカ企業に訴えられて、国民主権を侵害されるリスクを軽視している事だ。
政府やTPP推進論者は、「交渉に参加して、ルールを有利にすれば良い」「不利になる事項に付いては、譲らなければ良い」等と言い募り、「先ずは交渉のテーブルに着くべきだ」等と言ってきた。
しかし、TPPの交渉で日本が得られるもの等、多寡が知れているのに対し、守らなければならないものは数多くある。
その様な防戦一方の交渉がどんな結末になるかは、TPP推進論者が羨望する米韓FTAの結果を見れば明らかだ。
それどころか、政府は日本の国益を著しく損なうISD条項の導入をむしろ望んでいるのである。
こうなると、もはや、情報を入手するとか交渉を有利にすると言ったレベルの問題では無い。
日本政府は、自国の国益とは何かを判断する能力すら欠いているのだ。
米韓FTAに付いて、オバマ大統領は一般教書演説で「米国の雇用は7万人増える」と凱歌を挙げた。
米国の雇用が7万人増えたと言う事は、要するに、韓国の雇用を7万人奪ったという事だ。
他方、前大統領政策企画秘書官のチョン・テイン氏は「主要な争点に於いて、我々が得た物は何も無い。米国が要求する事は、殆んど一つ残らず全て譲歩してやった」と嘆いている。
この様に無残に終わった米韓FTAであるが、韓国国民は、殆ど情報を知らされていなかったと言われている。
この状況も、現在の日本とそっくりである。
オバマ大統領は、李明博韓国大統領を国賓として招き、盛大に歓迎してみせた。
TPP推進論者はこれを羨ましがり、日本もTPPに参加して日米関係を改善すべきだと煽っている。
しかし、これだけ自国の国益を米国に差し出したのだから、韓国大統領が米国に歓迎されるのも当然である。
日本もTPPに参加したら、野田首相もアメリカから国賓扱いで、もてなされることだろう。
そして政府やマス・メディアは、「日米関係が改善した」と喜ぶのだ。
だが、この度し難い愚かさの代償は、とてつもなく大きい。
それなのに、現状はどうか。政府も大手マス・メディアも、既に1年前からTPP交渉参加と言う結論ありきで進んでいる。
11月のAPECを目前に、方針転換するどころか、議論をする気も無いし、国民に説明する気すらない。
国と言うものは、こうやって衰退して行くのだ。
以上がダイヤモンドの記事、これに付いては何れ書きます。では。
【ネッタイムス・東坊京門・作】