ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

無防備都市

2022年06月29日 | 誰も逆らえない巨匠篇


第二次大戦中、ナチス占領下におかれていたローマ開放直後に撮られたという本作は、その後イタリア映画界にネオリアリズモという潮流を生んだ魁となった作品だ。連合軍の爆撃を受け映画の都チネチッタは壊滅状態、自らもレジスタンスに加わり銃を握ったロッセリーニのナチスドイツに対する怒りが炸裂している1本といってもよいだろう。まともな撮影機材も揃わない資金難の状況が続き、ついに撮影はストップ。その時アメリカ人のプロデューサーから偶然援助の手がさしのべられるという、にわかには信じがたい奇跡によって本作は完成にこぎ着けるのである。

本作に描かれている、ナチス兵士による妊婦(アンナ・マニャーニ)の射殺や、レジスタンスの逃亡に手を貸していた神父(アルド・ファブリッツィ)の銃殺などは、実際に起きた戦時中の事件をベースにしているという。次作『戦火のかなた』のように本作も当初はオムニバス形式にする予定だったとか。多少エピソードとエピソードの継ぎ目にあらさが目立つものの、なんとか1本の映画にまとめあげようとする当時の製作及び出演俳優陣のパッションが勝っていたからであろうか、それを覆い隠してあまりある出来になっている。

本作を見たイングリッド・バーグマンが、家族を捨ててロッセリーニと駆け落ち婚したのは有名な話。男女の不倫を毛嫌いするハリウッドの性向を無視した行動の真意についてはいまだに謎の部分が多く、 バーグマンが書いた自伝の中でも深く語られてはいない。人気が落ち目になった女優の起死回生策だとか、ハリウッドに吹き荒れたレッドパージを回避するためだとか臆測をめぐらせる人も多かったと聞く。このロッセリーニの反戦映画に、ゲシュタポ本部に出入りする将校の愛人が登場していたのを覚えていらっしゃるだろうか。その役名もずばり“イングリッド”。

この役を演じた女優さんの髪型やファッションスタイルが、どことなくバーグマンを意識しているような気がするのである。スウェーデンとドイツのハーフであり、祖母にユダヤ人の血が混ざる複雑な家庭に産まれたバーグマンは、幼くして父母を亡くし近親者に育てられたという。ナチス時代にはドイツ映画にも出演経験があったようなのだが本人の口は重く、ナチスとの関係が語られることは全くなかったらしい。劇中のイングリッドは、レジスタンス幹部の居場所をその愛人の女に密告させるという黒―い役どころ。バーグマンがナチスのスパイであったかどうか今となっては知るよしもないが、大女優は痛くもない腹を深くさぐられることをただ嫌がっていただけなのかもしれない。

無防備都市
監督 ロベルト・ロッセリーニ(1945年)
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