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「平和百人一首」とこのシリーズについての解説は、初回記事と2回目の記事をご参照ください。前回記事はこちらで見られます。
なお、かなづかいや句読点は原文のままとするので、読みづらい点はご了承ください。
平和百人一首
出坑を待ちてゐたりと妻の呼ぶ 声は明るし麦田のなかに
福島県好間村 矢内 直
私が一日の坑内作業を終へて帰つてくる姿を、青く延びた麦田の中に働いていた妻が見つけ手を振りながら明るい声で私を呼んでいるのです。出坑を待つていましたと私は坑内の疲れも何も忘れてしまひました。ささやかですが妻の希望で二毛作の田を借り受けて作つた麦が青々と芽生えているのです。
坑夫である自分も、坑内の疲れを忘れて妻に協力した。麦の出来栄にすつかりうれしくなりました。真の平和とはこんな状景を言うのではないかと、いやそうである。これこそ真実の平和の姿であると思はず作歌意欲が湧き、
出坑を待ちゐし妻が手をあげて
われを呼びをり麦田の中に
と詠んで見ましたがどうも平和な私の感じが表れていませんので、事実を事実として表記の入選歌の如く改作しました。
特殊なる炭坑生活者の真の平和は此処より発すると申しても過言ではないと思ひます。
(直)