山の雑記帳

山歩きで感じたこと、考えたことを徒然に

静岡の一等三角点

2024-07-16 11:38:23 | エッセイ

一等三角点「坂部村」(坂部高根山)

 師走の「おはようハイク」は、坂部高根山に行った。担当の河野君お薦めの展望所からは、高草山の上に富士山が、また北には大井川筋の山々と申し分無い眺望だった。目的地の坂部高根山頂には白山神社の祠があり、藤枝蔵田の高根白山神社との関連も窺えて興味が湧くと共に、もう一つここには一等三角点(点名:坂部村)と、県内ではここだけという天測点(かつて三角測量の位置座標を補正するための天文測量に用いられた測量標、全国で48点)が埋設されている。現在は木立に囲まれ山頂からの展望は望めないが、この場所が地図測量において重要な地点だったと推測される。
 三角測量の原理は、三角形の2点間の長さと内角が分れば、もう1点の位置(残り2辺の長さ)が分るというものだが、ここで必要になるのは正確な2点間の距離(基線)となる。国土地理院によれば「基線は3㎞から10㎞という直線と平坦な地域が確保できるところを選び、4mから25mの伸縮の少ない正確な物差し(基線尺)を使用して、その長さを慎重に測りました。特に温度による伸縮を少なくするため、明治末期までは氷漬けにして温度を0度に保った基線尺を使用したといわれます。」(地理院HP「一等三角測量とは」)とある。
 坂部高根山は牧之原台地末端の、山というより丘陵部の僅かな出っ張りに過ぎないが、地形図を眺めると南東側の川尻より静波の海岸に沿った平坦地から望めば明瞭な目標点となるピークに思える。仮にこの海岸部に基線を設けたとすると距離は約7㎞となり充分に条件を満たすわけで、坂部高根山は三角点網の基点としての役割を果たすことになる。顕著な山でもない場所に一等三角点が存在するのは、こういう訳があるようだ。坂部高根山(坂部村)をはじめとして静岡県の一等三角点を探してみよう。
 おはようハイクの折、先述の展望所で富士山や大井川の奥山の他に二つの山を探していた。北東方向の富士山やや左には静岡市のランドマークで、担当のK君のフィールドでもある「竜爪山」が見えた。反対側の北西方向には島田の街の向こう側に「八高山」が見えた。この2峰と城跡でもある高天神山(高根山北面の展望所からは見ることはできない)が、一等三角点「坂部村」と共に三角点網を形成する地点となる。
 静岡県内(県境を含む)の一等三角点(補点を含む)は次の通り。(地図参照)
①神石山(324.95m)
②富巻山(563.49m)*富幕山
③神ケ谷(37.58m)
④都田村(86.11m)*2016年3月支障撤去
⑤白倉山(1027.40m)
⑥上野巳新田(33.63m)
⑦熊伏山(1653.67m)*長野県
⑧黒法師岳(2068.09m)
⑨八高山(832.38m)
⑩高天神山(220.86m)
⑪坂部村(150.53m)*高根山
⑫大無間山(2329.62m)
⑬赤石岳(3120.53m)*長野県(県境上)
⑭竜爪山(1040.84m)*文珠岳
⑮毛無山(1945.40m)
⑯羽鮒村(320.71m)
⑰愛鷹山(1187.54m)
⑱達磨山(981.83m)
⑲岩科村(520.09m)
⑳万城岳(1405.63m)*万三郎岳

 その間隔は約40㎞間隔で本点、25㎞間隔の密度に補点といわれるが、地図を見ると必ずしもそのようにはなっていないようだ。しかしながら、海岸部の小さな三角から、山間部に向けて段々と大きな三角形になっていく傾向は見て取れる。また、点名が山名である一等三角点は里山、奥山に拘らず、いずれも山座同定の標準となる特徴を持った(隣接の一等三角点からよく確認できる)山であり、静岡を代表する山が含まれる。私自身は、この内「熊伏山」が未踏であるから、本年はこれを訪れ、静岡一等三角点峰達成としたいものだ。また、会の20周年では春合宿で「毛無山」を訪れる。ここからの隣接一等三角点「赤石岳」「大無間山」の眺望も楽しみである。(2016年2月記)

【追記】2024年7月14日

 会のLINEトークの中で、O・Kさんから「行ったことのない県内一等点の場所を地形図で見ました。都田村が??このあたりと見当はつくが、見過ぎて目に入らない?」とのメッセージ。調べてみると一等三角点「都田村」は2016年3月、支障撤去されていました。

おらが町の自慢の一つ「一等三角点」

一等三角点があったのは、都田浄水場の東隣の場所

 さらに、国土地理院の基準点体系分科会は2024年を目途に「少数の三角点を除き測量の基準としての用途を廃止する方針」を報告しています。“支障”がない限り既存の三角点標石が撤去されることはないでしょうが、測量の基準点という役割は終えられ、衛生測位システム(GNSS)を利用した電子基準点に置き換えられてゆくということでしょう。静岡県内の一等三角点の内、現在、電子基準点が取りつけられているのは、愛鷹山、達磨山、万城岳(万三郎岳)、岩科村の4点。また国土地理院は「電子基準点、三角点、水準点等の基準点の標高成果について、令和7年4月1日に衛生測位を基盤とする最新の値に改定します」と予告しています。標高が変わるお山も出てくることでしょう。

全国の標高成果の改定【予告】国土地理院

「野原の三角点は三角点を知らぬ人に、山の三角点は三角点を読む人に掘り取られてしまいつつあるのは誠に惜しい事ではありませんか。これらの三角点は国宝でありますから少なくとも我々だけは三角点を愛してやりましょう。」(加藤文太郎『単独行』より)



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