このはなさくやひめ
「木花咲耶姫」 揖保川にまつわる話
閲覧数1,195件(2010.4.15~2019.10.28)
木花咲耶姫
西山で、さかんな歌垣が行われています。燃えさかる炎をかこみ、銅鐸の音に合わせて大勢の男女が今年の豊作をよろこび歌い踊るのです。このにぎやかな祭りをよそに、川のほとりで今宵も人待ち顔でたたずむ美しい姫の姿があります。
それは、去年の歌垣の夜のことでした。
踊りの輪の姫に、一人のたくましい男が近づき、「わたしは川向いの伊和の君というものじゃがそなたの名は」と、声をかけました。凛々(りり)しい瞳に見つめられた姫は思わず
「はい、わたしは木花咲耶姫といいます」と答えました。
こうして、伊和の君と木花咲耶姫は結ばれました。
「今夜もお待ちしています」
朝霜を踏んで帰っていく伊和の君の後ろ姿をいつまでも見送る姫。
あれから一年。姫のもとに通いつづけた夫の足はある日突然とだえてしまいました。伊和の君は、大和朝廷から急な国替えを命じられ、最愛の姫に別れを告げることもできず、ひそかに出雲の国へと一人旅立っていたのです。
それとは知らぬ姫は、ひたすら恋い、悩み、かなしみ、思い出の歌垣のざわめきをよそに揖保川に身を投げてしまいました。
すると、その波紋の中から一羽の鶴が飛び立ち、伊和三山の空を何度も舞うと、恋しい夫の屋敷があった伊和の森に舞い降りました。
ところがあたりに鶴の姿はなく、森の奥まったところに鶴に似た石が一つさみしく横たわっていました。
後に人々はこの石を「鶴石」と呼び、ここに出雲の国に向かった北向きの社を建て、播磨国一宮岩神社と称(たた)えました。
(ハリマ一宮農協民話シリーズ)