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ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

095. キンタに泊ろう

2019-01-24 | エッセイ

ポルトガルに戻ってきて、あれこれ溜まっていた雑用をこなしている途中、ハッと気が付けばもう6月。
普通ならもうからからに枯れているはずの空き地や草原だが、今年はかなり涼しいので、まだ野の花が咲いているかもしれない!
急いで行かなくちゃ!
どこへ?
近場の田舎道を走ろう。
日帰りではなく、一泊。
ということで、さっそくネットでホテル探し。
エストレモスの近くの村に良さそうなホテルが見つかった。
写真を見ると、大きな煙突のついた平屋で、アレンテージョの典型的な農家の作りだ。
朝食付きで、二人で40ユーロと安いし、プールもある。
キンタ(大規模農場)を所有する地主が自分の敷地内に作った宿泊施設だ。
このごろこういう施設がどんどん増えている。
今まで、そういう所に泊ったことはないから、興味津々。

ネット予約をして、さっそく出発。
途中でカフェに入ったり、地図を見ながらなるべく交通量の少なそうな田舎道を選んで走った。
草原に広がる野の花畑はもうかなり枯れ果てて、面影しか残っていないが、それでも道端のあちこちに色鮮やかに咲いている花の集団が目に付き、そのたびにクルマを停めてカメラに収める。
ほとんどが今まで見た花だが、初めて発見した花もいくつかあった。
そういう花は目に見えないほど小さくて、ちょっとの風でもゆらゆらゆれるので、ピントがなかなか取れなくて苦労する。
ピント合せに夢中になってやっと撮った写真が、あとで見るとゴミがいっしょに写っていたりで、せっかくの苦労が水の泡になることもある。

その日は一日中花を求めて走り回り、4時ごろホテルのある村に向った。
6月の4時ごろはまだ陽が高い、というか、真夏のようにかんかん照り。
ネットに載っていたホテルの地図を頼りに村のメインストリートを走ったが、それらしきホテルは見当たらず、あっという間に村を出てしまった。
もう一度引き返してクルマを停め、通りがかりの人に尋ねたら、「国道を横切って真っ直ぐに行ったら、サン・ペドロ教会があるから、そのあたりだと思うよ」
教えてもらったとおりに行くと、小さな礼拝堂があった。
でもそれはとっくの昔に廃墟となった建物だ。
その後ろには人家があるが、最近建ったばかりの個人の別荘のようで、門はぴったり閉まり、人の気配はない。
表札もなく、ホテルらしき看板も何もない。
どうも様子が違う。
その近くに二軒の農家民宿の看板があったので、そこで尋ねようと思って行ってみたが、二軒とも門が閉まり、応答がない。
目指すホテルに電話をかけたが、「使われていません」というメッセージ。
困り果ててしまった。
予約当日なので、もうキャンセルはできないし、ホテルと連絡は取れないし~。

とにかくもう一度村に戻って、カフェにでも入ろう。
カフェで尋ねたら誰か知っているかもしれない。
ガソリンスタンド併用のカフェで尋ねたら、店主も知らないという。
こんな小さな村で誰もそのホテルを知らない~ということは、もう絶望的だ。

その時、店にいた男のお客が、「俺が知っているから、案内するよ。俺のクルマについておいでよ」と声をかけてくれた。
天の助け!
でも彼はビールを飲んでいたけど~。
飲酒運転でだいじょうぶだろうか。

男のクルマは、村を抜け、国道を渡り、やがてさっきのカペラの廃墟の後ろに建っている別荘風の門の前に停まった。
「ここ?」
「シン、シーン、ここだよ」
でもホテルの看板も何もない!

その時、門の壁の内側から女性がぬ~っと顔を出し、
「お泊りのお客様ですか?それだったらこの入り口ではなく、カペラのところを曲がってもう一つの門から入ってください」と言った。
「そんな案内板はなかったよ~」と、言いかけたが、ぐっとがまん。
カフェから連れてきてくれた男はクルマを引き返して、廃墟のカペラの所でわざわざ停まり、
「ここを曲がるのだよ」と示してくれた。
親切な男だ。
「オブリガーダ~」とお礼を言って別れた。

それにしてもなんと不親切なホテルだろう。
門にはホテルの名前もなく、入り口の矢印もなにもない!
もし予約をしていなかったら、もしキャンセル料を取られないのだったら、さっさと他のホテルを探すのに。

裏門から入ると、宿の経営者らしい中年の男が、「よくいらっしゃいました」と、握手を求めてきた。
そのとたん、私の喉にひっかかっていたものが一気に飛び出した。
「ここの門の前を何度も通ったのに、ホテルの名前も何も書いてないから分からなかった。
おまけに電話を掛けても通じないし~」
私はとうとう爆発したのだ。
経営者の男は「ええ~、そんな~。じょうだんでしょう」と、たじたじ。
”冗談じゃないよ、まったく~”
私は怒りが収まらない。

いかにも人の良さそうな、金持ちのぼんぼんが、趣味で、今流行の農家ホテルを始めたような感じだ。
しかもネットの予約も受け取っていない。
私たちは部屋を予約してあって、当日でキャンセルもできないので、必死でホテルを探し回っていたというのに~。

私達の予約した紙を見せると、部屋は三つしかなく、すでに二組は入っていて、最後の部屋しか無いという。
案内された部屋は、モダンなシステムキッチンがあり、ひとそろいの鍋や食器がある。
小さなデジタルTVとソファ、そしてアレンテージョ特有の大きな煙突が大きな口を開いていた。
本来なら煙突の下にあるはずのカマドも暖炉もなく、がら~んとした使い道のない空間が広がっている。
風呂付を予約したのに、シャワーしか付いていない。

部屋の前にはプールがあり、泊り客らしい男女が寝椅子に座っている。
でも風が強く、パラソルが倒れそう。
プールで泳ぐどころではない。
敷地内には農家風の平屋がもう一棟あり、3人の職人達が働いていた。
もう仕事を終わる時間なのに、止める様子がない。
突貫工事で仕上げを急いでいるらしい。

夕食後にシャワーを浴びようとすると、お湯が全然出ない!
プール脇でパラソルをたたんでいたぼんぼん経営者に言うと、彼はのけぞった。
彼は部屋に入って蛇口をひねり、戸棚に収納してある大きなボイラーをいじったり、庭にある井戸小屋を調べたりしていたが、いっこうにらちがあかない。
とうとうボイラーの納入業者を呼ぶことになった。

30分ほどして、業者がやってきて、あれこれ1時間以上も修理して、やっとボイラーに火がついて、私達がシャワーを浴びたのはもう夜も10時を過ぎていた。

このホテルはネットでお客を募集するのが早すぎたのだ。
受け入れ態勢がちゃんとできていないのを知らずにやって来たお客は大変な目に遭う。
門前までやって来たお客に対して、せめて宿の名前を書いた張り紙を門に貼り付けてあったら、
私達もすぐに分かっただろうに。

たぶんホテルの看板はデザイナーに頼んで、かっこいい看板ができあがるのを待って取り付けるつもりなのだろう。
でもそれでは、ネットを見てやってきたお客は、宿がどこか分からずにぐるぐる尋ねまわり、不快な思いをするはずだ。

やはり旅の宿は、接客、設備が整った、プロが経営するホテルが居心地が良い。

数日後、ネットのホテル紹介業者からいつものようにアンケートが届いた。
ふつうなら10点満点で、9点以上付けるのだが、今回は回答を送らなかった。
何も文句を言いたくないし、あのぼんぼん経営者も彼なりに一生懸命やっていることだろうし、
ただ、素人の悲しさ、やることなすこと、歯車が会っていないのだ。
いまのところ~。

MUZ
2012/06/28

©2012,Mutsuko Takemoto
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(この文は2012年7月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)

 

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