タイトル「晩秋の白馬三山」 610 × 318 cm F6号
久々にのんびりと白馬三山への山旅です。
上野の森美術館へ出品するための100号のカンバスへ食らいつきやれこれ1ヶ月
作品の持ち込み審査日まで残すこと1週間、バイトを終えてから午前3時までの毎夜余念なく絵の最終仕上げに筆を走らす。
傍らの小さなテーブルには牛乳パックとコッペパンが無造作に置かれそれを、思い出したように飲み頬張る。
50年も前の私の生活の一部です。
白馬三山縦走、いつもの岳友Cと久々の登山だ。
猿倉から白馬大雪渓を登り荵平で一服とる。
このような書き進めでは何の変哲もない山日記を書いているようなものである。
このブログファンの方々の為に決して期待は裏切らない。
荵平までやっとのことで辿り着いた私は既にへばっていたのです。
「C 俺は動けん。 ここで少し休むから先に行ってくれ」と喉を絞るように云い伝えた。
「じゃぁ ゆっくり登ってゆくよ」と言い残しCは心配顔で応え登ってゆく。
歩こうとするが身体が言う事を聞かない鉛と化した身体は俺を横たわる岩の一部に変えようと企てる。
減なりとした眼で恨めしくどこを見るでもなく眺める俺を楽しそうに登山を楽しむ人々の憐れむような蔑むような
眼が恥ずかしく身に突き刺さる。
公募展へ間に合わすため昼はバイト夜は絵の制作で10日間は殆ど睡眠を取っていない付けがこの白馬大雪渓
荵平で清算しなければならないのかとどうにもならない気持ちが空を掴むが掴むものなど何もない。
時計を見る12時を少し過ぎていたので1時間半ほど登山道脇で寝てしまったようだ。
寝たせいで身体もいくらか軽く感じる他の登山客の姿も少なくなった登山道をエッコらと歩みの進める。
ようやく稜線へと辿り着き村営小屋へザックを下すと、すかさずCが笑顔をほころばせながら肩を叩き迎えてくれた。
「何か飲むか」とぶっきらぼうに聞く。
「おぉ!缶ビール、缶ビール」と俺は甘える。
良く冷えたビールを受け取るとプルトップを摘み一気に開ける、口に運ぶ琥珀の液体は喉の渇きを潤わせながら体内へと
流れてゆく。
「うまい・・・」
えっ!なんだ、心臓の音がドックン、ドックンと正常時より大きく波立って耳元で鳴っている。
そして俺の鼓動の音が徐々に小さく心拍はゆっくりと消えそうに感じ周りは明かりを絞るように
暗くなってゆく。
「 M大丈夫か! どうしたんだ M」とCの声は脳を揺さぶるようにハッキリと聞こえる。
俺の周りを取り囲む他の人達の心配そうな声も多重に聞こえる。
そして遂に鼓動は停止して世界は闇となり俺は崩れ行く。
そんな中でも俺自身は躊躇することもなく冷静でいられる不思議な空間に身を投じているのだった。
そして奈落の底へ辿り着く。
何か温かさを感じてきた。
そうか血液が動き出したんだな、はっ、聞こえる俺の鼓動だ、心臓が動き出したんだな。
俺の世界に明かりが戻ってくる。幸福感が生じる、生命が負けずに頑張ってくれた。
白馬三山は様々なルートを単独行や多数のパーティーで歩いたが一番の危険を伴った山行を書いてみました。
じゃぁ また。
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