一寸・英吉利 333 × 242 F4号
「画家で一番好きな人いますか」。と聞かれたら「レンブラントです」と即答します。
皆さんもレンブラントと言うオランダの画家を耳にしたり或いは画集で見たりしたでしょうか。
光と影の明暗を明確に表現する技法を最も得意とする1600年代のオランダの画家です。
闇の中に美しく表現される世界観がとても素晴らしいんです。
ある日、私の好きなレンブラントの思いを打ち破った一人の洋画家が居ました。
その人は日本人洋画家です。
もう。 40年以上前の出来事ですが良かったら聞いてください。
当時の私は横浜の港に絵を描くため週末毎に通っていました。
横浜の港には、やはり週末私同様に多くの画家達が通い様々な場所で絵を描いています。
今、思いだしてもいい時代だと懐かしさが体内で高まります。
現在はMM21で見事に現代的な変貌に姿を変え当時の面影は残念ながら感じません。
ある年の夏、ある女性から (面識は既にありました) 「来週末妙義山へ一泊で絵を描きに行きませんか」
突然声を掛けられキョトーンとしている私の顔を覗きながら更に「私都庁へ勤めていて都の絵画クラブ
で絵を描いている小百合と言います」面識はあったものの初めての会話が唐突過ぎます。
「画家さんに合わせたい先生が居るんです。その先生に是非会ってください」熱望アピールに負け承諾してしまった。
妙義山は秋の佇まいでとても艶やかに着飾っていました。
都の絵画クラブの皆と挨拶を終え小百合さんと共にイーゼルを立て居ると先生が「もう長いのかね、絵は」
と声掛けをしてくれる「中々思うようには・・・」と謙遜すると「そうか そうか」一区切りして
「小百合君が、連れて来るんだから何かあると思うんが」謎を残しながら他の生徒へと移って行く。
秋の暖かい日差しと幸福に満ちた時間の中で絵は着実に進んでいきます。
その時私の背で「なるほど、そう言う事か」と先生は独り言のように呟いた。
「画家君、付いてきなさい」と言うなりソクソクと歩きだしその後を私は追う。小百合さんも何故か付いて来る。
先生が描いている場所には先生の絵がイーゼルに掛かっているカンバスに描かれた絵の色具合が私の色具合に似ていた
いや、失礼も甚だしい先生の足元にも及ばない私の絵をいやしくも同じように思うとは何たる事かと自分を戒めた。
「ねっ、先生世の中には偶然だとしてもこんなにも似ているんですね」と笑った。
「こちらの先生は I.T先生よ」
「I.Tさんですか? 名前は存じていましたが最初から先生だと知っていたらきっとココへは来ていないかも」
「小百合さんも人が悪いですよ」TVドラマのような会話をしたのを思い出す。
私の絵は先生の絵には遠く及ばないが、先生の素晴らしい色使いを私に見せて付け感動を打ち付けた。
何気ない描きこみにも鋭くも優しい色をスッと描く技術には舌を巻くしかなかった。
I.T先生の裸婦像の肌の色は健康的な肌をしている、明るく健康的な肌をどのように思いついたのだろうか。
小柄で優しくて画家としての自信が人としての重みになり、信頼と希望を私にくれた。
先生は平成10年に90歳で永眠しました。
今回はこの辺で。
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