チャオプラヤ河岸の25時

ビジネスマンの日記帳

ドニエプル川

2022-03-01 19:42:24 | インポート

 

ウクライナの首都キエフはドニエプル川河岸の都市だ。1943年、ソビエト赤軍とドイツ国防軍とがドニエプル川を挟み東部戦線の命運を賭けた決戦を行った。双方で400万の兵力が投入され、100万を超える戦死者と200万の負傷者を両軍に強いた。甚大な人的損失によって歴史に残る戦闘だ。レニングラード攻防戦で疲弊したドイツ軍に東部戦線を支える力はなく、赤軍の渡河作戦によって敗北し、その後のドイツの敗勢を決めた戦場である。

 ミンスク包囲戦からレニングラード攻防戦そしてドニエプル決戦、第二次世界大戦の帰趨を決めた独ソ戦の舞台は、このウクライナだった。地政学的要衝、ここに膨大なヨーロッパとロシアの血が流れてきた。プーチンはその偉大なソ連邦領土の回復、極東では習近平が中国夢と称して清朝領土の回復を国民に呼びかけている。共に恥辱の歴史を塗り替えようとする専制主義国家だ。海外から流れる情報を遮断し、日々プロパガンダによる国民の洗脳に心血を注ぐ。それは危険な歴史報復主義と受け止めるしかない。国連憲章の定める理念も、秩序を保証する国際法も、勝手に西側が作った戯言だと公言する。その2国が国連安全保障理事会の常任理事国である戦後スキームのナンセンス、国連が機能するはずはない。結果、ミンスクのあるベラルーシはロシアの属国となり、ドニエプル川のキエフはロシア侵略軍による完全包囲が目前の状態だ。

 だが、ヨーロッパの平和ボケは急速に変化を見せている。ドイツはこの10日間でノルドストリーム2の供用を断念し、年間国防費を一気に13兆円増やし、ウクライナに新鋭兵器を送った。国防政策の180度の大転換、その理由は「現実が変わったから」だった。永世中立国のはずのスイスやフィンランドまでも明確なウクライナ支持を表明し武器支援を決めている。

 ロシアの味方は今や中国に北朝鮮、ベラルーシ、ベネズエラ、シリア程度か。それだけの少数枢軸であっても、いずれ属国のベラルーシはウクライナに攻め込みEUからの補給線を遮断することだろう。その時、更に巻き込まれる国々が出る可能性は低くない。孤立したロシア相手であっても、エスニック・クレンジングを繰り返してきたヨーロッパが舞台の戦争、計算外の拡大があっても何ら不思議ではない。そのことを分かっているはずのプーチンの暴走、不安や認知の精神症状を伴うパーキンソン病の悪化が疑われてもいる。

 ドニエプル川河畔の戦争、それはヨーロッパ全域を巻き込む可能性を孕む。それぞれに濃厚な歴史の記憶が蘇るからだ。世紀前の失点をも取り戻そうする専制国家と、夥しい出血の記憶を持つ中小国。それぞれに火が付けば消しようがなく、危機のテンションが双方を思いもかけない暴走に向かわせかねない。

 ロシアによって平和が壊された以上、可能性の全てを点検すべきだ。サラエボでの一発の銃声、ドイツのポーランドへの電撃侵攻、いずれもまさか世界大戦にまで発展するとはだれも思っていなかった。つまり、NATOが隣で何が起きようとも傍観する、とするのは楽観的に過ぎる。楽園主義の平和バイアスに満たされた日本、そんな島国の常識はきっと甘い判断になるはず。ドニエプルとはそのような場所だ。

 

 

                            川口

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« SWIFT(通貨決済システム) | トップ | 連動するウクライナ »

コメントを投稿

インポート」カテゴリの最新記事