領土問題は収まりどころを失くしつつある。統治者の器が試される問題だが、相互にナショナリズムを悪戯に煽り立てるばかり、危険な領域に踏み込んでいる自覚があるのかすらが怪しい。
日本に到っては党の代表選挙の真最中、島内どころか井の中の蛙状態だ。およそ外の気配に戦略を持って対処する政治は機能しておらず、火が付いても気が付くのかすらが心配な有り様だ。
日系企業や日本人が大量に人質状態にあるグローバル経済下の領土軋轢。頻繁に政治家が往来し調整すべきだが、そんな動きは更々ない。国内向けの分かりきったコメントを井戸の中でつぶやく無能ぶりだ。民主党政権は既に瓦解しているが、その政治空白目掛けて、中国の攻勢は勢いを増す。来週には1,000隻の中国大漁船団が尖閣に向かうはずだが、政権にその対応策が準備されているようには思えない。
そもそも何を意図した国有化なのかすらがまともに説明できていない。邪推が邪推を呼ぶ外交関係、その扱いの初歩のレベルをすら野田は知らない。河原の石よりもひどい無能、それが民主党政権というものの正体ということだろう。
18日には盧溝橋事件の記念日を迎え、中国の反日機運は更に盛り上がることになる。既に全土106都市で反日デモが行われ、日系企業が襲撃されたり略奪にあったりしている。江沢民が始めた「愛国教育」、洗脳とも表現されるその教育の申し子達に、客観的な歴史を議論しても始まらない。硬く信じているのだから。
中国指導部は10月に習近平体制にと移行する。その前後に対日妥協はあり得ない。9人から7人に減員される常務委員達にとって、対日政策が宥和的と看做されたらそこで政治生命は断たれるからだ。過去に失脚した胡耀邦などの民主派は、結局解放軍各軍区の長老達から対日宥和派のレッテルを貼られ、政治の表舞台から葬られることになった。
習近平は保守派上海閥の解放軍人脈が押し上げた江沢民の系譜に連なる対日強硬派であり、現時点で既に政策実務を取り仕切っていると伝えられている。決意を持って軍事衝突も辞さずの対峙をするのか、中間的な落としどころに誘導するのか、明確な着地目標なしに向き合って良い相手ではない。
中国は軍管区の均衡なども微妙に対外政策に影響を及ぼす。所詮は解放軍の政権であり、その軍は国の軍隊ではなく、党の軍隊である。対外政策はこの集団の意向が反映され、更に民度の問題もあって領土問題では考えられないほど柔軟さを欠く事情にある。
戦後、彼等が隣接するすべての国との武力紛争を経験しているのは偶然ではない。チベット、ウイグル、朝鮮戦争、金門馬祖、ベトナム、インド、ロシアとのウスリー島簒奪戦、南沙、西沙、絶え間なく全ての国境で領土紛争を繰り返してきた直近の歴史、これこそが中国共産党政権の本質と云える。
清王朝時代の領土を奪回する、それ以外には眠れる獅子の時代に失ったプライドを取り戻す方法が見いだせないのだろう。社会主義インターナショナリズムとは無縁の、あくまでも中華帝国主義のメンタリティーである。尖閣では、中国は二次大戦後の分割結果を受け入れず、なんと日清戦争に遡った不満を云っている。そのことの意味を見誤ってはならない。
この中国という場所で日系企業が直接的に仕事をする、ということは一体どのようなことを意味するのだろう。良く考えて欲しい。民主化といっても、それが疑似民主化に終わらざるを得ない事情を、政権それ自体が抱えている。一党独裁以外に広大な国土と蒙昧な大衆を制御する術はない、そう固く信じている軍将官達の政権。国の本質において、中国の十全な民主化などはあり得ない。
その一党独裁を正当化している唯一の理由が、抗日戦勝ということになっている。内政が混乱しかければ毎年のように反日は登場し、国民のガス抜きに利用される。企業人として責任ある判断をするなら、関わり合って良い世界ということにはならない。相互に利用主義的動機で始まったのであれば、利用価値が終わればそれで終わる。関係というものは始まった質でしか、終わることができないのだ。
企業活動がそのようなもので良いとは思わない。そこに立地したからには、その国と地方に利益をもたらし、歓迎される存在となり、永続の根拠を持たねばならない。私利私欲での奮闘になど、所詮限りがあるからだ。
作られ、操縦され、煽られた反日暴動。そこから邦人救出、権益保護にと進めば、それはいつか来た道に他ならない。中国はアヘン戦争の頃から変わらぬ病の中に在り、未だに全治などしていない。「阿Q正伝」の世界と、本質において何も変わることができていない。最低限、愛国教育の放棄が宣言されるまで、その時が来たことにはならない。日本もまたひどいレベルの政権なのだ。その相乗効果のリスクたるや、並みのもので収まるはずがない。
その時が来ていると思うのは、欲ゆえの錯覚に過ぎない。表層の成長や巨大市場のお祭り騒ぎで、中国の抱える本質的問題をスルーするなど馬鹿げている。日系企業が重い投資をして良い場所ではない。甘い贖罪意識や友好スタンスは、余りにも危険に過ぎる。
中国という世界に千年王国の奇跡などは起こらない。あるのは厳密に論理的な帰結、当然そうなるはずの、並外れたスケールでの経済社会の崩壊でしかない。無論、日本の外交が島国レベルを克服するにも、まだまだとてつもない時間を必要としている。掛け合わせて出る答えは、余りに明白なものだ。
川口