先月27日、衆議院厚生労働委員会での児玉龍彦東大教授の参考人陳述には驚かれた方も多いと思う。福島のメルトダウン以降、その深刻さの広報も、対策も怠ってきた政府を厳しく指弾する内容だった。
児玉氏の東大アイソトープ研究所の試算によれば、原子炉から放出された放射能の総量は広島型原爆の実に29・6個分。原爆のそれが1年で1000分の一に減るのに対し、原子炉からのものは十分の一にしか減らない。これが岩手の稲わら、静岡のお茶までも汚染しているのに、首都圏にはそれらしい警報すら流さなかった。本当に、これは許されてよい内容なのだろうか?
長期にわたって浴びることになる放射線の危険性は実は深刻なものだ。20年後には疫学的データーが揃うのだろうが、土に定着した放射線はDNAを破壊し、20年後あたりにはがん多発が避けられない。二重らせん構造のDNAは放射線による破壊にも安定的だが、細胞分裂の際には一重となるため、放射線での剪断に弱くなる。つまり、胎児と成長期の子供だ。
政府は何もしなかった・・・、そのことは長く記憶されるだろう。細胞分裂の活発な乳幼児、妊婦の退避指示は首都圏にまで及ぼすべきだったはず、そう思う。
とてつもない量の16日の放射能の霧、21日の降雨、その首都圏を襲った危機について「できるだけ」屋内退避、以上のシリアスな警告をせず、メルトダウンを隠し、直ちに健康に影響はないを繰り返していた。正に科学的洞察にも責任感にも欠けた、最低の統治であった。
避難地域には信じ難い高濃度汚染地区がある。そして、やっと1都21県の汚染状況調査が上空から始まった。少しずつ真実を国民が知ることになる。初期にメルトダウンを洞察し、その結果を予測し対策していた者はほんの少数だった。大多数は政府の発表を信じ、深刻な対処などしていなかった。
食品の汚染調査もわざわざ時代遅れの非効率な密閉式カウンターを使わずとも、島津の半導体ビジュアル検査機であればコンベアーに乗せ、大量に個別連続の検査ができる。何も知らない者による、滅茶苦茶な対応と呆然自失。福島で起こったことは、そのような悲劇であった。
あの日、何処にいて何をしていたのか、首都圏退避を決断できなかった若者にはそれを記憶いただき、しかるべき検診を受け続けてもらうしかない。ヨウ素は甲状腺に、セシウムは腸管と膀胱に蓄積する。蓄積する総量が問題であり、その日の放射能の霧そのものが何ミリシーベルトだったのかはさほど関係ない。留意願いたい。
パンドラの箱は原爆29・6個分と云う、信じ難い量の汚物を日本中に撒き散らした、それが事実だ。取り返しのつかない事故と失政、真実と向き合わねばならない。
川口