辻井伸行のような天才は暫くは日本に出ないと思っていたら、驚くべきことにバイオリンの演奏では吉村妃鞠と云う才能が花開いている。まだ12歳だが既に40を超える世界のコンクールで全て優勝し、11歳でアメリカの最難関音楽大学カーティス音楽院に合格して現在フィアデルフィアに居る。
妃鞠の演奏は表現し難い。音楽の神が居るとすれば、それが妃鞠の体を借りているのだろう。到底子供の演奏とは思えない情感の表現力には引き込まれざるを得ない。なぜこんな才能が存在するのか意味不明だ。欲のない表現は形而上学の世界に近く、心と云うより魂を揺さぶられる。つまり、表現し難い問答無用の感動を呼ぶ。
6才の時には既にオーケストラと協奏曲を演奏していたと云う。パガニーニもチャイコフスキーもビバルディーも完璧に弾きこなし、難解なバッハの無伴奏で聴衆を魅了できる。信じ難い。天才とは誰よりも努力する人、と云うことにはなるのだろうが1日に5,6時間、気が付けば更に数時間も練習することがあるらしい。更に驚異的なのは他の科目も優秀であり、ステージでは完璧な振る舞いでオーケストラをリードする。これを天才と云わなければ何と云えばいいのだろう。
クラシックに縁遠い方も一度ユーチューブで妃鞠のバイオリンを聞いてみることをお勧めする。疑いもない天恵、美の形而上学を納得いただけると思う。それにしても驚くべき才能を次々に産む日本の不思議、そんなものと出会えるなら長生きも悪くない。馬鹿馬鹿しさに耐えることだけが人生、と云うわけでもなさそうだ。
川口