食の歴史 by 新谷隆史ー人類史を作った食の革命

脳と食を愛する生物学者の新谷隆史です。本ブログでは人類史の礎となった様々な食の革命について考察していきます。

1・2 人類は雑草を進化させて穀物を生み出した(1)

2019-11-26 17:51:53 | 第一章 先史時代の食の革命
約20万年前から約1万年前まで、人類は狩猟・採集生活を営んでいた。このような生活を一変させたのが農耕の開始だ。これは人類史上きわめて大きな革命と言える。農耕の開始は、採集に頼ってきた食料の調達を自らが生産することになったことを意味する。つまり、獲得経済から生産経済への大きな転換点が農耕の開始なのだ。

先史時代の人口変化
狩猟・採集生活の間、人口はゆっくりとしか増えなかったと考えられている(図表3)。ところが、約1万年前に人類が農耕生活を始めると急速に人口が増え始めた。なぜだろうか。


一つ目の理由が、農耕生活への移行による死亡率の低下だ。

狩猟・採集生活では食料が安定して手に入るわけではない。時には、満足に食べ物にありつけない日が何日も続くときがあったと考えられる。その結果、餓死した人や、栄養失調で病気になり死亡した人も少なくなかったはずだ。

現代の狩猟・採集民族では、狩猟・採集中に事故により死亡したり、仲間同士の争いで死亡したりすることがたびたび見られるそうだ。食料となる動物や植物が安全な場所で見つかる保証はない。また、獲物の逆襲に会うこともあるだろう。さらに、獲物を狩るための毒矢や槍などで命を落とすこともあったと考えられる。同じように、狩猟・採集生活では死亡率が高かったと考えられる。

一方、農耕生活では、保存がきくコムギやコメなどの穀物が栽培されており、食べ物が安定して存在していた。このため、十分量の作物を収穫できていれば、一年を通して飢えに苦しむことはなかったはずだ。

また、農耕は安全な農地で営まれるため、狩猟・採集生活で見られる事故は少ない。さらに、たとえ喧嘩が起こっても、手に持っている道具は人を殺せるほどのものではなかった。このような理由から、狩猟・採集生活から農耕生活への移行にともなって死亡率は減少したと考えられる。

農耕生活で人口が増加した二つ目の理由が、農耕生活にともなって出生率が上昇したことだ。移動生活が中心だった狩猟・採集生活では、子供は移動の足かせになりかねない。このため、避妊などによって子供の出産数をコントロールしていたと考えられている。また、栄養状態の悪化によって、女性の排卵が抑制されることもあっただろう。さらに、男は獲物を追いかけるためにパートナーと離れている時間も長かったはずだ。こうして、狩猟生活では妊娠する確率は低かったと考えられる。

一方、農耕生活では、狩猟・採集生活で妊娠を妨げていた要因がすべて無くなった。安定した生活で愛するパートナーがそばにいたらどうなるか、想像に難くない。さらに、農耕のための労働力を増やすために子作りが奨励されたと考えられる。この結果、出生率が増加したのだ。

ただし、農耕生活の開始初期で安定した食料生産ができなかった地域では、死亡率の上昇が見られたようだ。新しい農耕生活に適応できた人たちだけが生き延び、子孫を残すことができたのかもしれない。


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