農耕の開始から少し遅れて家畜の飼育(牧畜)が始まったと考えられている。牧畜は、それまでは狩猟で得ていた動物の肉をいつでも食べられるように生み出された。牧畜の開始から少しして、家畜の乳を利用することも始まった。
肉や乳には動物が生きるために必須の栄養素であるタンパク質が豊富に含まれている。穀物や果実などの植物性食品にもタンパク質は含まれているが、肉や乳に比べると圧倒的に少ない。このため、家畜はタンパク質の貯蔵庫としての重要な役割を果たしていたと言える。
草原の動物たちの家畜化
ヤギやヒツジ、ウシが食べる牧草のほとんどが雑草だ。例えば、現在牧草としてよく栽培されているイネ科のチモシーやマメ科のクローバーは、野原などに普通に見られる雑草だ。
そして、ヤギ・ヒツジ・ウシはすべて「反芻動物」だ。反芻動物は四つの胃を持ち、口で咀嚼したものを第1胃と第2胃に送って部分的に消化した後、再び口に戻して咀嚼するという作業を繰り返す。この過程で、植物繊維(セルロース)を胃の中にいる微生物によって分解してもらう。その後、食べ物は第3胃を経て第4胃に送られると、増殖した微生物も一緒に胃の消化酵素によって消化されて吸収される。こうして反芻動物は、私たちが食べられない雑草から効率的に栄養を獲得することができるのだ。
人類にとってヤギやヒツジ、ウシの先祖は草原で見慣れた動物で、狩りの対象だった。そして人類は、これらの動物を子供のうちに捕まえて雑草を与えておけば、やがて成長してたくさんの肉になることに気づいたのだろう。
また、動物は子供の頃から育てると、人になつきやすい。例えば、人を襲うオオカミでも、小さい頃から育てるとイヌのように飼い主になつくそうだ。人になつくと、当然飼育しやすくなる。
このような理由から、野生動物の子供を囲い込むことで家畜化が始まったと推測される。
囲い込んだ動物に与える餌には、雑草のほかに収穫したムギやイネなどから種子を除いた藁(わら)も含まれていたはずだ。このように反芻動物は人間と食べ物を競合しないし、不必要な藁を餌に利用できるという点で家畜にするには格好の動物だった。
やがて人類は、オスとメスを交配させて子供を産ませることを始めたと考えられる。そして、より扱いやすい個体や太りやすい個体を選び出して繁殖を重ねることで、人類にとって好ましい動物に改良して行った。これが家畜化の過程だ。
農耕が始まって1000年ほどたってから、ヤギやヒツジ、ウシなどが家畜化されて飼育されるようになった。最初は肉を得るために家畜を飼育していたが、やがて乳や毛などの利用価値にも気がついて家畜の用途は広がって行く。そして家畜は人類にとってなくてはならない存在になった。
その結果、家畜化された動物たちは、人類とともにその数を増やして行くことになる。ちなみに、現代における地球上のウシの総重量は人類の総重量よりも大きいことが、現代社会におけるウシの重要性を物語っている。