食の歴史 by 新谷隆史ー人類史を作った食の革命

脳と食を愛する生物学者の新谷隆史です。本ブログでは人類史の礎となった様々な食の革命について考察していきます。

ウマの家畜化ー1・3家畜は肉の貯蔵庫(6)

2019-12-02 08:06:56 | 第一章 先史時代の食の革命
ウマの家畜化
ウマは今まで見てきたヤギ・ヒツジ・ウシ・ブタとは少し趣の異なる動物である。

狩猟・採集生活では、ウマは肉を得るために狩猟の対象となっていた。ウマの家畜化は約6000年前に現在のウクライナで始まったと考えられているが、その目的も肉を得るためだったと推察される。また、「馬乳」も利用されていた。

ところが、移動・運搬での際立った有用性に人類が気付いたことで、ウマは人類史に大きな影響を与える家畜へと成長して行った。

ウマの祖先はアメリカ大陸で進化した。そして、約250万年前にベーリング陸橋を経由して、ユーラシア大陸へと渡り、現在のウマの祖先に進化する。一方、南北アメリカ大陸に残ったウマ科の動物は約1万年前までに絶滅した。

ウマの祖先はヤギ・ヒツジ・ウシと同じように、草原で主に雑草を食べて生活していたと考えられている。ウマは長い盲腸を持っており、そこに生息する微生物を使って植物繊維を分解している。ところが、反芻動物の四つの胃に比べると、食物繊維の消化効率は半分程度とかなり低い。このため、反芻動物との生存競争に勝てず、生存数を減らしていたと考えられる。おそらく、人類がウマを家畜化しなければ、ウマは絶滅していたであろう。

ウマの最大の特長が、長距離を高速で移動できることだ。例えば、1キロメートルの距離であれば時速60キロメートル以上で走り、100キロメートルの持久走でも時速25キロメートルを維持できると言われている。高速で疾走できるのは、そのための骨格と筋肉を進化させたからだ。一方、長距離を移動できるのは、汗をかけるからだ。

どういうことだろうか。

人に加えてウマは、体温調節のために大量の汗をかくことができる珍しい動物だ。普通の動物はあまり汗をかくことができない。このため、運動を続けると次第に体温が上昇し、ついには動けなくなってしまう。一方、ウマと人では、かいた汗が蒸発する時に気化熱を奪うことで体が冷却されるので、持久的な運動が可能なのだ。

ウマは人を乗せることができる。また、荷車を引くこともできる。この時に重要な器具が、ウマの口につける「ハミ」だ。ウマの歯並びは変わっていて、前歯と奥歯の間に隙間がある。この隙間に棒をさし込む器具を作れば、ウマの頭部をしっかりと固定できる。これがハミだ。

ハミを作り出したことで、人はウマの動きを自由にコントロールできるようになった。約5500年前のカザフスタンのボタイ遺跡からは、ハミの使用によって削れた歯を持つウマの遺体が見つかっている。

こうしてウマは、機械式の車が発明されるまでの長い間、移動・運搬手段として大活躍した。特に、騎馬遊牧民族が成立するためには、ウマは無くてはならない存在だった。


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