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ポジティブな私 ポジ人

塩味のリンゴ

スーパーのワゴンに安いリンゴがあった。4個入り400円。1個100円。とても安い。ビニール袋の上から、まんべんなく眺めて、腐っていないことを確認してからカゴに入れた。

数年前は、リンゴはこの程度の値段だったはずだ。でも、最近は通常だと1個200円前後の値段が付いている。庶民の身近な果物だったのに、随分と高級な果物になった。アップルパイも、おいそれと作ることが出来ない。

久しぶりにリンゴをむきながら、娘が小さかった頃の些細な出来事を思い出した。

リンゴは皮をむいてそのまま放置しておくと、空気に触れて酸化して茶色っぽくなる。
おばであったろうか、誰であったか、むいたリンゴが変色しない方法を教えてくれた。それは塩水にサッとくぐらせること。そうすると、時間が経ってもリンゴは色が変わらない。

信頼を寄せる大人が教えてくれることは、だいたい鵜呑みにする私だ。
それ以降、食べるまでに少し時間がかかるような場合は、むいたリンゴを必ず塩水にくぐらせる習慣がついた。

だからリンゴは食べた時、少し塩味がする。でも、“こうするものだ”と思っているから、多少の塩味も気にせずにいた。

娘が小学生の頃だったと思うが、むいたリンゴを食べたくないと言った。理由を聞くと、しょっぱい味が嫌だと言う。
私は声に出して言わなかったが、内心ちょっと娘はわがままな子だなとその時は感じた。

その一件があってから、私はむいたリンゴの塩水処理はしない事にした。だから、食べ残して冷蔵庫に保存しておくと、リンゴは少し赤茶色に変色した。でも、変色してもリンゴの味は変わりがなく、塩味がしないし、美味しい。

今日、リンゴをむきながらつくづく娘をわがままだと感じた自分が恥ずかしくなった。
“見栄え”は食べ物の場合、大切かも知れない。美味しそうに見えたほうが良い。でも、味も大切。娘は正直に自分の気持を言っただけだった。
長い間何の疑問も持たずに、盲目的にリンゴの変色防止に努めた自分の、ある種の鈍感さに気付かされ、娘をわがままだと思った当時の自分を情けなく思ったりもした。

私が子供の頃のリンゴは、むいてそのままにしておくと、信じられない程茶色に変色するようなリンゴだった。けれども現在の品種改良した良質なリンゴは、変色の度合いが昔ほどには変わらない。ほんの少しの変色だ。塩水につけるまでも無いだろう。

あの時、娘の一言が無かったら、私は今でもきっとむいたリンゴを塩水にダイブさせていたと思う。

私のささやかな“しょっぱい思い出”だ。




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