本当の賢治を渉猟(鈴木 守著作集等)

宮澤賢治は聖人・君子化されすぎている。そこで私は地元の利を活かして、本当の賢治を取り戻そうと渉猟してきた。

「賢治研究」のさらなる発展のために

2017-01-18 09:00:00 | 常識でこそ見えてくる






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*****************************なお、以下はテキスト形式版である。****************************
 「賢治研究」のさらなる発展のために
 さて、「羅須地人協会時代」において常識的に考えておかしいと思われる事例等のいくつかを取り上げてここま検証作業等を行ってきた。その結果、『現 賢治年譜』や賢治の「通説」の中にはおかしなものが少なからずあるということを私は実証できたりしたつもりだ。また、いくつかの新たな「真実」等も明らかにできたと確
信している。
 そして正直に言えば、私のこれらの検証結果の方が実は「真実」ではなかろうか、ということをもっと広く世に訴えることのできる機会と場があればなと思わないでもない。しかし、これらの検証結果の中にはあまりにも「通説」とは異なっているので、「仮説検証型研究」で検証できたからといってそれが百%正しいと言えるのかと訝る人も多かろうから、今直ぐにはそれは無理だろうということはもちろん承知している。
 さりながら、そんなことよりも何よりも、私はまずは真実を識りたいという一念だったから、自然科学者の端くれとして、「仮説検証型研究」によっていくつかの「真実」を明らかにできたことだけで満足できたし、それで十分だった。しかも結果的にではあるが、「羅須地人協会時代」の賢治は「己に対してはストイックで、貧しい農民のために献身した」と以前の私は思い込んでいたが、一連の実証的な考察結果から導かれる賢治像はそれとは違っていて、それこそ「不羈奔放」だったとした方が遥かにふさわしい面も少なくないのだということを識ることができ、《創られた賢治から愛すべき真実の賢治に》より近づいたということで私自身はとても嬉しかった。
 ところが、ある時ある式辞を知ってからはこのままではいけないと、私は考えを改めた。
 その式辞とは、平成27年3月のある大学の卒業式における教養学部長石井洋二郎氏の式辞のことであり、その中で同氏は、あの有名な「大河内総長は『肥った豚よりも痩せたソクラテスになれ』と言った」というエピソードを検証してみたところ、
 早い話がこの命題は初めから終りまで全部間違いであって、ただの一箇所も真実を含んでいないのですね。にもかかわらず、この幻のエピソードはまことしやかに語り継がれ、今日では一種の伝説にさえなっているという次第です。
という思いもよらぬ結果となったことを紹介していた。私は愕然とした。その「幻」をまさに信じてきたからだ。そして石井氏は続けて、
 あやふやな情報がいったん真実の衣を着せられて世間に流布してしまうと、もはや誰も直接資料にあたって真偽のほどを確かめようとはしなくなります。
 情報が何重にも媒介されていくにつれて、最初の事実からは加速度的に遠ざかっていき、誰もがそれを鵜呑みにしてしまう。
〈「東大大学院総合文化研究科・教養学部」HP総合情報平成26年  度教養学部学位記伝達式式辞(東大教養学部長石井洋二郎)〉
と戒め、警鐘を鳴らしていた。
 私はこの式辞を知って、賢治に関する「通説」や「年譜」のいくつかにおいてまさに石井氏の指摘どおりのことが起こっていると首肯し、共鳴した。たしかにこれらの中にはあやふやな情報を裏付けも取らず、あるいは検証もせぬままに、それが真実であるかの如くに断定調で活字にして世に送り出されたものなどが少なからずあることを、ここ10年間ほどの検証作業を通じて私は痛感してきたからだ。例えば、あの「昭和二年はまた非常な寒い氣候が續いて、ひどい凶作であつた」はあやふやな情報だったのだが、当時の盛岡測候所長福井規矩三の証言であるという「真実の衣を着せられて」その証言が「賢治年譜に」、しかもその上段に載せられてしまうとたちまちそれ事実であったかの如くに「世間に流布して」しまい、「もはや誰も直接資料にあたって真偽のほどを確かめようとはしなくなります」ということが起こっているように。
 そして、石井氏は更に続けて、
 本来作動しなければならないはずの批判精神が、知らず知らずのうちに機能不全に陥ってしまう。
と懸念しているのだが、たしかにその通りで、以前例に挙げた、
・昭和二年は…(筆者略)…未曾有の大凶作となった。
・一九二七(昭和二)年は、多雨冷温の天候不順の夏だった。
というような、福井規矩三の事実誤認の証言を露ほども疑わずに、鵜呑みしたかの如き記述が今でも横溢していることは先に列挙した通りである。
 さりながら、この実態を今更嘆いてばかりいてもしようがない、そのような批判精神を今後作動させればよいだけの話だ、ということもまた私は石井氏から気付かされた。そこでこれからは、自己満足という殻に閉じこもってばかりいないで、間違っていることは間違っていると世にもっと訴えるべきだと私は考えを改めた。
 そしてこのことは、実はこの式辞を知って、今までの私のアプローチの仕方は間違っていないから自信を持っていいのだと確信できたことにも依る。それは、石井氏は同式辞を、
 あらゆることを疑い、あらゆる情報の真偽を自分の目で確認してみること、必ず一次情報に立ち返って自分の頭と足で検証してみること、この健全な批判精神こそが、文系・理系を問わず、「教養学部」という同じ一つの名前の学部を卒業する皆さんに共通して求められる「教養」というものの本質なのだと、私は思います。
と締めくくっているのだが、次のようなことから、この「本質」と私のアプローチの仕方は通底していると思ったからだ。
 以前から私は、「学問は疑うことから始まる」と認識していたので、一般に「賢治に関する論考」等においては、裏付けも取らず、検証もせず、その上典拠を明示せずにいともたやすく断定表現をしている個所が多過ぎるのではなかろうかということを私は懸念していた。そこで私は、自分で直接原典に当たり、実際自分の足で現地に出かけて行って自分の目で見、そこで直接関係者から取材等をしたりした上で、自分の手と頭で考えるというアプローチの仕方を心掛けてきた。そしてその結果、特に「羅須地人協会時代」の賢治に関してのあやかしや、知られざる「真実」のいくつかを明らかにできたものと思っている。
 とはいえ、私の主張が全て正しいと言い張るつもりはない、所詮いずれも一つの仮説に過ぎないからだ。だが私が主張しているものはまず仮説を立て、次に、定性的な段階にとどまらずにできるだけ定量的な考察によって検証できたものだ。だから当然、反例が提示されれば私は即その仮説を棄却するし、されなければしない。ましてや、『現 賢治年譜』には前掲の「三か月間の滞京」を始めとしていくつかの反例が存在しており、一方で、それに対応する私の立てた仮説には反例が存在しないとなれば、同年譜は大幅な修訂が不可避だろう。

 そこでそのために今までとは多少考え方を改め、何よりも「賢治研究」の更なる発展のために、おかしいところはやはりおかしいと、私は粘り強く主張し続けることにした(多分ドンキホーテの如き闘いになるとは思うが)。そこでさしあたって現時点ではまず、
『現 賢治年譜』の「羅須地人協会時代」については少なくとも早急に再検証せねばならない実態にある。
ということを声を大にして言い、問題提起をしたい。それは、私たちがそのことを怠れば「賢治研究」のさらなる発展は望めないということは歴史が教えてくれているところだからでもあり、もしかすると、「創られた偽りの宮澤賢治像」が未来永劫「宮澤賢治」になってしまう虞もあるからだ。
 さりながらそう簡単に解決できるものばかりだとも一方では思っていない。そこで、前掲の㈠~㈤等については、ある一つの事柄を除いては、どう決着がつくかは時間を要するだろうから歴史の判断を俟ちたい。
 ではその残されたその一つの事柄とは何か。それは、捏造された〈悪女・高瀬露〉のことであり、この捏造〈悪女・高瀬露〉の流布に関しては人権に関わる重大事だから、前掲の事柄とは根本的に違うのである。
***************************** 以上 ****************************

《鈴木 守著作案内》
◇ この度、拙著『「涙ヲ流サナカッタ」賢治の悔い』(定価 500円、税込)が出来しました。
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 あるいは、次の方法でもご購入いただけます。
 まず、葉書か電話にて下記にその旨をご連絡していただければ最初に本書を郵送いたします。到着後、その代金として500円、送料180円、計680円分の郵便切手をお送り下さい。
       〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木 守    電話 0198-24-9813
 ☆『「涙ヲ流サナカッタ」賢治の悔い』                ☆『宮澤賢治と高瀬露』(上田哲との共著)           ★『「羅須地人協会時代」検証』(電子出版)

 なお、既刊『羅須地人協会の真実―賢治昭和二年の上京―』、『宮澤賢治と高瀬露』につきましても同様ですが、こちらの場合はそれぞれ1,000円分(送料込)の郵便切手をお送り下さい。
 ☆『賢治と一緒に暮らした男-千葉恭を尋ねて-』      ☆『羅須地人協会の真実-賢治昭和二年の上京-』     ☆『羅須地人協会の終焉-その真実-』


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