話の種

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最高裁が旧優生保護法に違憲判決

2024-07-14 11:48:31 | 話の種

「最高裁が旧優生保護法に違憲判決」

先日(7/3)このニュースを目にしたとき意外な感じがした。
というのも、三権分立にもかかわらず、最高裁ではこれまで国に配慮した判決がしばしばなされ、腹立たしく思うことが多かったから。(国会議員の選挙区定数是正の問題など)
またこの旧優生保護法の問題については、最高裁自身が「除斥期間」が適用されるとの判断を下しており、これまでの裁判では被害者側の損害賠償請求を認めてこなかったこともある。
(しかし、2022年の大阪高裁や東京高裁の判決以降潮目は変わってきたが。)

この問題を簡単に振り返ってみると、

1996年: 旧優生保護法が廃止され、「母体保護法」に改正された。これにより強制不妊手術の規定は削除されたが、被害者への補償措置は取られなかった。
2000年代以降: 被害者団体や人権団体が問題を提起し、旧優生保護法の被害者救済を求める運動が続けられたが、当時は具体的な訴訟には至らず、主に行政や立法府への働きかけが中心だった。

2018年:宮城県の女性が初めて国に賠償を求めて提訴。
これ以降、優生手術等に関する国家賠償請求訴訟が全国各地で提訴されてきたが、仙台、東京、大阪、札幌、神戸の各地方裁判所では、訴訟提起時には改正前民法第724条後段の除斥期間が経過していたことを理由に、原告の請求を棄却。
2019年: 被害者に一律320万円を支給する一時金支給法が成立。
(しかしこれは賠償ではなく、一種の見舞金という性格のもの)
2022年:大阪高等裁判所、東京高等裁判所において、除斥期間の適用を認めることは著しく正義・公平の理念に反するとして、除斥期間の適用を制限し控訴人への賠償を命じ、これ以降各地裁判所で同様の判断が続く。)
(しかし政府はあくまでも補償はしないという立場で、こうした判決を不服として原告側は控訴、上告を重ねる。)
2024年:今回の最高裁判決。

今回の判決の朝日新聞(7月4日付)の見出しと判決内容・理由を簡単に記しておくと、

(新聞の見出し)
「強制不妊 最高裁「違憲」」
「国に賠償命じる判決」「人権侵害重大 請求権消滅せず」

(判決骨子)
・旧優生保護法の強制不妊手術に関する規定は、個人の尊厳と人格の尊重の精神に著しく反し、特定の障害がある人への差別で、憲法13条、14条に違反する。
・国民の憲法上の権利への侵害が明白な規定をつくった国会議員の立法行為は違法。
・今回の事案で「除斥期間」を理由に国が賠償責任を免れることは、著しく正義・公平の理念に反し容認できない。

*旧優生保護法:
1948年に「不良な子孫の出生防止」などを目的に議員立法で成立。遺伝性疾患や障害などがある人に本人の同意なく不妊手術の実施を認めていた。1996年に強制不妊手術に関わる条項は削除された。国によると、旧法下の手術は約2万5千件。(しかし本年5月末時点で1,110件に過ぎない。これは国が支給対象者に個別に通知していないことが理由でもある。)

*除斥期間:
法律で定められた期間のうち、その期間内に権利を行使しないと権利が消滅する期間。 
時効と異なり、中断や停止することはなく、期間の経過のみで権利が消滅する。

改正前の民法には、不法行為による損害賠償の請求権は不法行為から20年経つと失われるとの規定があり、最高裁は1989年、この規定について、中断や停止がある「時効」でなく、画一的な年月の経過である「除斥期間」との解釈を示していた。

(2020年4月に施行された改正民法では、この規定は時効と明示され除斥期間ではなくなったが、但し、改正民法の施行前に20年を過ぎた問題には遡って適用されないとしている。)

今回の判決が評価されるのは、
・「立法時点で既に違憲」と初めて明示し、法を作った国会の責任を断じていること。
・「除斥期間」として35年前に最高裁自身が下した判断(判例)自体を変更したこと。

また違憲判決の理由も明快で(それまでに各地高裁の判断があったとはいうものの)、これが15人の裁判官全員の結論というのも喜ばしい。
なぜもっと早くこのような判断を下さなかったのかと言うそしりは免れないが、ともかく国に対してこのような判決を下したということは評価される。

今回の判決で特に注目されるのは「除斥期間」の適用の制限と言うことで、今後他の訴訟にも影響してくることは必至である。

(参考)

昨日(7/9)最高裁長官交代(7/8付)の報道があった。
後任には今崎幸彦・最高裁判事(66)を指名する人事を内定したとのこと。(8月10日以降就任予定)
この人は最高裁刑事局長や同事務総長、東京高裁長官を経て、2022年6月に最高裁判事に就任。
戸籍上の性別変更に生殖能力を失わせる手術を必要とする性同一性障害特例法の規定を「違憲・無効」とした昨年10月の最高裁大法廷決定や、旧優生保護法を「立法時点で違憲」とした今月3日の大法廷判決に加わっている。
また、戸籍上は男性だが女性として暮らすトランスジェンダーの経済産業省職員が、省内での女性トイレの使用を制限されたのは違法だと訴えた訴訟で、制限を認めた人事院の判定を違法とした昨年7月の最高裁判決で裁判長を務めている。期待したい。

 


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