「囀あふれ」
初御空富士真っ白に晴れ渡り
ベッドより伸ばす左手初明り
春立つ日新しき刃が髪を断つ
菜の花を広場に咲かす五年生
高窓に囀あふれ処置室へ
囀も陽も高窓を零れくる
花曇青の自転車赤のバギー
糊利きし白衣四月の病院に
病牀に今日も長閑という遊び
花冷えや一指を象牙の鍵盤に
ざく切りのリズム弾ける春きゃべつ
車椅子速めに走り五月来る
〈高窓抄〉
高窓に囀あふれ処置室へ
初御空富士真っ白に晴れ渡り
ベッドより伸ばす左手初明り
春立つ日新しき刃が髪を断つ
菜の花を広場に咲かす五年生
高窓に囀あふれ処置室へ
囀も陽も高窓を零れくる
花曇青の自転車赤のバギー
糊利きし白衣四月の病院に
病牀に今日も長閑という遊び
花冷えや一指を象牙の鍵盤に
ざく切りのリズム弾ける春きゃべつ
車椅子速めに走り五月来る
〈高窓抄〉
高窓に囀あふれ処置室へ
「水彩の青」
水彩の青の刷られしサンドレス
また晴れし十三回忌青葉風
命日の夕べざくざくきゃべつ切る
街へ来ぬ素足にかるきハイヒール
空蝉のふんばり碧き羽を背負う
剃刀のあたる襟足夏の雲
髪切って胡瓜どっさり冷や汁に
爽やかにコンテスタント調弦す
竜胆のふれれば傾ぐやわらかさ
初時雨しろき天井仰ぎみる
日向ぼこ猫がそうしていた部屋で
からからと笑うヘルパー小春風
冬日抄
水彩の青の刷られしサンドレス
水彩の青の刷られしサンドレス
また晴れし十三回忌青葉風
命日の夕べざくざくきゃべつ切る
街へ来ぬ素足にかるきハイヒール
空蝉のふんばり碧き羽を背負う
剃刀のあたる襟足夏の雲
髪切って胡瓜どっさり冷や汁に
爽やかにコンテスタント調弦す
竜胆のふれれば傾ぐやわらかさ
初時雨しろき天井仰ぎみる
日向ぼこ猫がそうしていた部屋で
からからと笑うヘルパー小春風
冬日抄
水彩の青の刷られしサンドレス
俳句を始めたのは二〇〇五年、ピアニストの活動を休み、長期入院中のことでした。高橋信之先生と正子先生に初歩から学べましたのは、この上ないご縁だったと存じます。両先生のお導きで俳句を知るうち、演奏ができなくても俳句なら音楽と同じ道を歩める、同じところを目指せる、と光を見出しました。投句のペースは落ちましたが、今なお「花冠」は希望の場です。
十二年前に父が急死して以来、傍らに死が続きました。祖母、主治医、母、愛猫、ピアノの師。かつては失えば生きられないと想った者の死を、図らず受容している自分に驚きを覚えます。それはおそらく、俳句を通して、自然や季節を見続けた結果なのでしょう。失うのではない、季節が巡るように重なりゆくのだ、そう死を捉えるようになっていました。
花の散る様を、ただ「落ちる」と詠んだ拙句に、正子先生から
「散る」ことも「散る力」なのです。
とご指導をいただいたことがありました。進行性の難病ゆえ、体の機能はつぎつぎ衰えますが、今はそれも力であると信じられます。
音楽も俳句も命も、自然に倣い、同じ道をゆくのですね。迷わずに進めそうです。拙く遅い歩みですが、これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。
十二年前に父が急死して以来、傍らに死が続きました。祖母、主治医、母、愛猫、ピアノの師。かつては失えば生きられないと想った者の死を、図らず受容している自分に驚きを覚えます。それはおそらく、俳句を通して、自然や季節を見続けた結果なのでしょう。失うのではない、季節が巡るように重なりゆくのだ、そう死を捉えるようになっていました。
花の散る様を、ただ「落ちる」と詠んだ拙句に、正子先生から
「散る」ことも「散る力」なのです。
とご指導をいただいたことがありました。進行性の難病ゆえ、体の機能はつぎつぎ衰えますが、今はそれも力であると信じられます。
音楽も俳句も命も、自然に倣い、同じ道をゆくのですね。迷わずに進めそうです。拙く遅い歩みですが、これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。