人生に必要なことは、すべて梶原一騎から学んだ

人間にとって本質的価値「正直、真面目、一生懸命」が壊れていく。今こそ振り返ろう、何が大切なのかを、梶原一騎とともに。

巨人の星

2007年01月01日 | 巨人の星
昨年8月31日から始めた巨人の星名セリフ集。何とか平成18年中に終わりたかったが、なかなか思うように進まず、年を明けてしまった。そして、本日元旦に、一気に最後までこぎ着けた。

野球根性漫画としてスタートした話は、漫画の中でまさにリアルタイムに、飛雄馬の成長とともに変化していった。
厳しい父親に鍛えられる子の話から、ライバルに刺激され父親の力を借りて強くなり、世間を知り野球人生自体に疑問を感じ始め、恋を知り自我に目覚め、最愛の人を失いどん底を味わう。そして、どん底から蘇るが、その前には情け容赦無く父親が敵として立ちふさがる。指導者から敵になった父との死闘を繰り広げ、何もかも失い自暴自棄となり、人生の裏まで落ちかける。そこから愛により救われるが、最後の戦いは命をけずるものだった。自分の弱点を乗り越え、幾多の葛藤を乗り越え、行き着いた先は完全試合と野球人生の終わりだった。栄光と絶望が同時に訪れた飛雄馬の明日はどうなるのか・・・。

当初は教訓的なセリフが多かったが、最後の方は、教訓的どころか、滅びの美学が全面にでてしまい、少年の役には立たない。同時代の青年には、どう頑張っても体制には勝てないという思いがただよっていた時代には、梶原の滅びの美学は何となくしっくりした。
頑張ればうまくいくというより、どんなに頑張ってもどうにもならないことがある、それでもあきらめずにやり抜くのだというテーマは、とても大切な意味があった。
物語の最後は、言葉は少なくなっていく。川崎のぼるの卓越した画力に物語は支えられていった。

何はともあれ、巨人の星シリーズは終わった。次からは、あしたのジョーにうつる。タイガーマスクは、少し低年齢の子供を対象にしていたので、あまり響くセリフはなく、ひたすらプロレスの話を中心に話が進むので、やめておくことにした。

巨人の星 (11)

講談社

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左門の結婚

2007年01月01日 | 巨人の星

飛雄馬の願い通り、左門は京子と結婚した。見守る、左門の兄弟たち、そして、花形と明子、牧場、伴、一徹・・・飛雄馬は教会の窓からそっと、それを見守る。

「おめでとう 左門 京子さん!
巨人の星を俺の新しい人生において、今度はどんな夢の星にするかな?

寂しい、あまりにも寂しい結末である。もはや言葉は何もない・・・


親子の勝負の終わり

2007年01月01日 | 巨人の星

マウンドにうずくまる飛雄馬、そこに歩み寄る一徹。
「伴の打った後の走力までは考えず、彼の馬力を奪ったのはわしの致命的うかつ・・・負けよ!!
塁審の判定ごとき問題ではないっ わしの負け・・・
今おまえはパーフェクトにわしに勝ち、この父を乗り越えた・・・
わしら親子の勝負は終わった!!」

親子の勝負は終わった。父は完全なる負けを認め、子は野球生命を失った。そして、親子はともに球界を去ることになる。救いの無い話だ。父を越えるために何を得て何を失ったのか。失った物の大きさは・・・
理屈はよい。理屈で考えれば、悲しみと愚かさしかない。しかし、そこに、意味はないが重いものを感じるのだ。


最後の勝負

2007年01月01日 | 巨人の星
飛雄馬の命がけのピッチング、命がけのパーフェクトゲームをも一徹は打ち砕こうとしている。最後の最後で魔球の正体を理解し、伴に最後の勝負をかけさせた。長時間の逆立ちをさせ、伴のバカ力を奪い、伴の選球眼によるジャストミートをさせようという魂胆だった。最後の打席、逆立ちと三本バットの素振りによりふらふら状態で打席に立つ伴。観客は罵声を浴びせる。
そして最後の一球が放たれた。その時、飛雄馬の腕にはピシッと破滅の音が鳴った。

左門への手紙

2007年01月01日 | 巨人の星

飛雄馬が自分の野球生命を投げていることを、牧場、花形らは知ってしまった。そして、試合中、左門のところに速達が届く。試合前に手紙をだしたのだ。その目的は、大リーグボール3号の秘密を伝えることと同時に、不良少女 京子との愛を成就してほしいという物だった。

「なぜ俺が自己の宣伝がましく、あえて自分の悲劇をうちあけたか?武士道に「諌死」という言葉がある。主君をいさめたい、しかし、封建時代の主従の道として言えん。そこで切腹する。切腹という絶対の滅亡とひきかえに、主君に一世一代の言い分を聞かせる。俺もまた、こんな要求を貴兄にする資格も権利もないが、滅び行く男の必死のたのみとして耳をかたむけてほしい。できるなら京子さんと結ばれてくれっ 彼女を幸福にしてやってくれ。」

「最後に繰り返すが、引っ込み思案をすて、京子さんと幸福になってください。初恋に殉ずるのだから、野球の魔球に殉じた男には、うらやましいかぎり・・・消えゆく男が祈る、ひたすら祈る!」

もはや野球漫画ではない。野球の技術も勝負も関係ない。飛雄馬の滅びの美学に向かって物語は突き進んでいく。


ピシッと音が

2007年01月01日 | 巨人の星

飛雄馬は試合に先立って、病院を受診していた。医者は、前腕の伸筋と屈筋がぼろぼろだと告げる。そして、野球ばかりが人生ではない、すぐにやめろと説得する。
しかし、すでに飛雄馬はただごとではないことは理解し、悲劇的結果は覚悟していた。このまま、野球を続けていても、自分の体格ではプロでは通用しないことはもはや明らかである。それならば、最後の最後には輝いて、前のめりに朽ち果てたいという滅びの美学であった。
医者はいう
「このうえ野球を続ければ、ピシッと音がして・・伸筋と屈筋が切れ、左手の指は永久に動かなくなる」

 

「ピシッと音がするのですかっ ピシッと音が・・・」

 

これが有名な破滅の音だ。これを漫画で見たときは、子供心にそんな馬鹿なと思ったものだ。
最近、日本ハムファイターズから野球を引退した新庄選手が引退後、自分の満身創痍な体について語り始めた。メジャーで活躍している時、走塁中に左大腿筋が切れたと言うのだ。部分断裂だったわかだが、ビシッと音がしたと言っていたような気がする。うわー本当だったんだと、あらためて驚いた。


エラー

2007年01月01日 | 巨人の星

大リーグボール3号は、誰にも攻略の手がかりもつかませぬままシーズンの終わりを迎えた。そして、運命の中日-巨人戦が始まった。大リーグボール3号は、その完全さの背後には地獄が隠されていた。親指と小指の力だけで、ボールを押し出すという極めて不自然な力をかけることで、左前腕の筋群は悲鳴を上げていた。もはや、自分の限界が近づいている。飛雄馬は未来がないことを覚悟していた。試合の途中、パーフェクトゲームの可能性が高まる中、川上はパーフェクトゲームができると選手に檄を飛ばした。緊張感を和らげる意味で、「星のことだから、あまり意識せず気楽にやってくれと、みんなをいたわるんだろうが」と言うと、飛雄馬はベンチで選手に向かって言った。

「エラーしてもらっては困るんだっ いいですか、断じてエラーをせぬようお願いしておきます!」

と言いはなった。しかも、その場にいなかった長島にも、よく伝えておいてくれと。

そして、物語は緊迫感をどんどん増していく。


完全なる敵

2007年01月01日 | 巨人の星

大リーグボール3号は、野球の常識を越えた物だった。一徹ですら、何が起こっているのか理解できず、仮説を立てることすらできなかった。
そして、一徹は、もしもそれが大リーグボール3号であるなら、今度こそ完全なる独立だという。
大リーグボール1号は、一徹に幼少期からしこまれた、針の穴も通す絶妙のコントロールをもってなしえた。大リーグボール2号は一徹があみだした、魔送球を応用した物だった。

 

「こんどばっかりは、やつは突如の下手投げ転向をやってのけ、しかもコントロールを失い、ボールを連発・・・すなわち、この星一徹の野球を根底からくつがえし、やつの野球、やつの血でつづった挑戦状をたたきつけてきちょる!」

「完全な別人・・完全な敵じゃ!!」

 

そういいながら、一徹は涙を流す。
「子が完全に親を乗り越えて対等の敵となる・・父親の喜び、これにまさるものなし」


子は、良きにつけ悪しきにつけ、父の教え、親の教えに沿って成長する。そこから逸脱することは、強い不安と恐れを感じさせる。しかし、そこにとどまってはそれ以上の進歩はない。
青は藍よりいでて藍より青し
いつまでも、子が自分の言うことを聞くことを期待する親、弟子が自分の上に行くことを許さない師、不自然にゆがんだ関係がはびこっている。人は自分にとって重要な人物との葛藤を乗り越えて成長する。葛藤の中で、何かを得るために、何かを失うことを学ぶ。そして、その苦しさとむなしさと、悔しさと悲しみに耐えられる力を身につけていく。大人が子供の前に立ちふさがることができずして、子供の成長はない。そういった健全な厳しさを我々は失ってしまったわけだ。一度失った物を取り戻すのは、大変な努力と覚悟が必要になるだろう。