
ええと、今回の前文はどうしようかなって思ったんですけど……前回『NYGD』その他のことを書いてて、ふと思いだしたことが。。。
『AND JUST LIKE THAT…』、そういえばシーズン2の制作が決定したとか。わたし、シーズン1の残り3話見てなかったりするのですが(汗)、例のパクリ返し含め、とりあえず面白いとは思っていて
それで、最初に『AJLT』(シーズン1)の制作決定的なニュースが流れてきた時――一番の問題点がサマンサ役のキム・キャトラルさんが出演しないっていうことで、結構物議(?)を醸していたわけですよね(^^;)
この時……というか、結構前から主人公であるキャリー役のサラ・ジェシカ・パーカーさんと不仲なんじゃないか――みたいには言われていて、それが原因なんじゃないかと噂されたり。。。
ところが、キム・キャトラルさん側から「そもそも(AJLTに対する)出演依頼自体なかった」ということが明かされるという結果に
最初によく言われてたのは、「キムに出演依頼したけれども断られた」=「キムが断ったのはキャリー役のサラ・ジェシカ・パーカーとの不仲が原因なんでは??」ということで、わたし自身は大好きな海ドラの誰それが仲悪いらしい的なゴシップって、普段あんましキョーミなかったりするんですけど……何故そう言われるかっていう理由については、4人が映画のプロモーションか何かで来日してた時、テレビ見て「あ~、なるほど!」と初めて気づいたことがありました(^^;)
いえ、4人の中でキム・キャトラルさんが一番前に前に出てしゃべろうとし、そのことに対してミランダ役のシンシア・ニクソンさんも、シャーロット役のクリスティン・デイヴィスさんも、割と「一歩後ろに下がってる感じでも、わたしたちは全然気にしない」といった優しさと気遣いがあるわけですけど……でも、サラ・ジェシカ・パーカーさんは主人公だし、制作にも名前連ねてるし――といった<立場>があるわけですよね。そういう時、サラ・ジェシカ・パーカーさんは、キム・キャトラルさんがしゃべりまくる間、とりあえず黙ってるしかないわけですけど……なんかちょっとそういう時、不機嫌そうに見えることがあったんですよ(^^;)
サラ・ジェシカ・パーカーさんも「仲が悪いとか喧嘩とか、そういうことはない」みたいにずっと否定しておられた気がしますし、ただ、サラ・ジェシカ・パーカーさんとシンシア・ニクソンさんとクリステイン・デイヴィスさんは同年代で仲も良く、キム・キャトラルさんは三人よりも年上で、キャリアも上だったことから(そもそもキャリーが主役のはずなのに、Starringの一番最初に名前来るの、キム・キャトラルさんですしね)……何かこう、気持ちに行き違いがあったのかなと思ったりするわけです(^^;)
ええと、でもわたし的に『AJLT』への出演をキム・キャトラルさんが断ったらしい――と聞いてすぐ思ったのは、そうした噂云々関係なく、「賢い判断と思う」ということだったかもしれません。内容的に『SATC』の頃の勢いとまったく同じものを作るのは難しいでしょうし、特にサマンサの役柄からいって、六十を過ぎてもマドンナと同じく二十代のイケメンとつきあってるとか、あるいは七十代の男とつきあってみたけど、七十男はこーゆーとこがイヤよね……とか、そうした恋愛模様になってくると思うわけです(^^;)
そして、そのあたりのことって、サマンサに関して言えば特に『SATC』でやり尽くしているところがあるし、そのあたりで相当面白い脚本書くっていうのは――基本的にすごく難しいんじゃないかなと思ったりもして。。。
ただ、「4人の中で一番サマンサが好き」っていうファンの方も多い中、そのあたりどうなるかと思ってたんですけど……まあ、続編の『AJLT』に関していえば、わたしがネットで見た限り、賛否両論あるといった感じかなと思ったりするというか(^^;)
わたし自身はここにサマンサが参戦していても、『SATC』時代ほど面白かったとはやはり思えず、キム・キャトラルさんが出演しなかったのは正解だったのではないか――みたいに思ってたら、ネットの記事で「そもそも出演依頼自体なかった」ことがキム・キャトラルさん側から明かされていたわけです。。。
そんで、同じ記事で見た「他の3人と友達だったことはない。仕事仲間の同僚っていう感じだったと思う」っていう意見も、「いやまー、プロの仕事として、それもひとつの正しい姿勢なのでわ」と思ったりするんですよね(^^;)
あ、それで【4】のところにクィアについて書いたんですけど……ちょっとわたしの認識に間違いがあったようで、クィアって簡単に言えば性的少数派のことであり、それが転じて今は大体それが男性のゲイの方のことでも女性のゲイの方のことでも「クィア」って呼ぶっていう、そんな感じのことみたいなんですよね。なので、一応ここで訂正しておきたいと思いますm(_ _)m
日本ではまだ男性同士のゲイの方のことをホモって呼んだり、レズビアンの方のことをレズって呼んだりすることもあるし、どうもそれって向こうでは良くないというか、偏見のある侮蔑的表現らしい……ということが広まって、その後そんなふうに表現することは控えようみたいになって、一般的に同性愛の方のことを「ゲイ」って呼ぶことになり――でも今後はこの「ゲイ」っていう言葉が「クィア」に変わっていくだろうっていう、何かそうしたことみたいです(^^;)
あとわたし、6/29から配信開始になった『Younger~ライザのサバヨミ大作戦~』の7、絶賛視聴中なのですが……これがファイナル・シーズンとあって、序盤からぶっこんできたなと思いました!!
「ミレ二アルはもう古い!!」のみならず、主人公のライザと彼女の親友ケルシーのレーベル「ミレ二アル」でさえ廃止になってる――まあ、同じミレ二アル世代のローレンが30歳になったところから話はじまるとはいえ……『NYガールズダイアリー』に対するパクリ返しもこれにて終了といったところなのでしょうか(『NYGD』の主人公三人娘は全員ミレ二アル世代だからww^^;)
なんにしても、『サバヨミ』は最後どうなるのか、今からとても楽しみにして毎話大切に見てる感じです♪
それではまた~!!
惑星パルミラ。-【11】-
「あら、部屋のほうへは通してくれないの?」
ゼンディラが、まるで彼女の姿に気づかなかったとばかり、電子ロックのナンバーを解くと――ミネルヴァは彼の服の裾を掴んでいた。
「そうですね。もしお話があるとすれば、ここで伺いましょう」
(キスされたことなど、どうとも思っていない)というように、ゼンディラがにっこり微笑むと……ミネルヴァは何故か、途端に彼のことが憎らしくなってきた。というより、実は彼がホモセクシャル側のゲイなのではないかと疑ったほどである。
「あんた、本星に一体どんな用があるってのよ?」
「さあ……正直、わたしにもよくわからないのです。わたしが故郷で非常に困っていた時、助けてくれた人物がいて、あとのことはほぼ彼らの言う通りにしたという、ただそれだけで……わたし自身、今もその自分の判断が正しかったのかどうか、よく考えてしまうくらいなのですから。もっとも、フォスティンバーグ博士の話によれば、これよりのちは自分の幸福のことだけを考え、メトシェラの他の民たちが経験しえないだろうことを大いに楽しめばよい――とのことだったのですが。とはいえ、わたしはそのことに対しても強い疑問を感じています。ただ、博士のような素晴らしい人柄の人物と出会えたり、先ほどあなた方と持った心の交流については、大変喜ばしいものとして受けとめています」
ミネルヴァは、ゼンディラのあくまで真面目なこの物言いに、半ば呆れてしまった。本当に、一国を代表する宗教を心から信奉する信心厚き僧侶なのだろう。言い換えれば、頭が石のように固い朴念仁ということでもある。
「ゼンディラ、あんたの惑星の宗教についてはよく知らないけど、それでも女性との接触はタブーなんでしょう?下位惑星のひとつにタヴエラっていう、あんたの出身惑星と同じくらいの辺境惑星があるんだけど……タヴエラ教の僧侶の生活ってのはそりゃ厳格なことで有名だそうよ。なんでも、そこの僧院では、女性はもちろんのこと、メス犬一匹、あるいは羊でも牛でもヤギでもなんでも――家畜ですらメスは飼わないし、メス猫一匹迷い込むことすら許さないそうよ」
「わたしのいたアストラシェス僧院は、そこまで厳しくはなかったですね。犬や猫やうさぎを好きな僧たちがいて、オス・メス構わず、よくエサをやっていたものです。わたしもよく、撫でたりキスしてやったりしたものでした」
「……ようするに、あんた、アレ?わたしとさっきしたキスは、メス犬やメス猫がしたのと変わりないものとしてあんたの脳内じゃ処理されてんのね?=だから罪には当たらない、みたいな……」
「いえ、わたしの信じるアスラ教の外典に、このような記述があるのです。『一度神に誓願を立ててのち、ついうっかり、出来心によってでも性的な意味をもって異性に触れてしまった場合、それは罪深いことである。だが、その後悔い改めて心の供物を捧げるのであれば許される』……拡大解釈して、どのような淫蕩な行為もあとから悔い改めて神殿に供物を捧げれば許される――といったように思う者もいると、長老のひとりが注意したことがありますが、わたしはそうは思いません。それに、ミネルヴァ、あなたのあれはそう深い意味のない、ただの悪ふざけです。ゆえに、わたしは格別の良心の呵責すら感じていません」
ミネルヴァはこの、短いゼンディラの講釈を聞き、(やれやれ)と呆れたような溜息を着いている。
「まあ、確かにあれはわたしが悪かったわ。とにかくね、わたし一応あんたに一言あやまっとこうと思ったのよ。あと、ゼンディラ、あんた体内にナノコンどころか、どんな端末も入れてないってほんと?」
「ええ。わたしの乏しい知識によりますと、むしろあなた方高位惑星系の人々が何故そんなものを体内に入れているのか、疑問にすら感じますね。裁判惑星に収監されていた頃、クイーン・メイヴに『集団マインドハック事件』について教えられたことがありますが、万一のことを考えた場合、非常に恐ろしいことだと思います」
『集団マインドハック事件』というのは、今のところ数えるくらいしか起きてはいないが、その中でも最大規模の事件が、ある地方都市で三万人もの信者を擁する宗教団体で起きた。その信者らは洗脳を受けたことで、自らウイルスに感染することを望んだと言われている。
「まあね。端的にそうした危険性についてのみ教えられたとすればそんなものかもしれないわね。でも、基本的には極めて安全性の高いシステムなのよ。なんにしても、わたしが言いたかったのはそんなクソ真面目なことじゃないの。あんたがナノコンを体内に入れてたら、わたしの連絡先なんて、ネット経由で送ればいいだけのことでしょ?でも、それが出来ないから、しょうがなく紙とペンなんてものに久しぶりに頼ることにしたわ」
そう言って、ミネルヴァはピッと制服の胸ポケットから紙片を取り出し、それをゼンディラに押しつけて寄こした。
「これは……?」
「わたしの、本星にある住所や電話番号なんかよ。あんた、まだエフェメラのどこらへんに住むことになるのかとか、所属はどこになるのかとか、てんでわかってなんかいないんでしょ?軍には色んな研究機関があるし、その中には既知宇宙内における全宗教を網羅し研究しているところもある。少なくともわたしたちの中に、アスラ神なんていう名前の神、聞いたことのある兵員はいないでしょうね。こんなことを聞くのは酷なことかもしれないけど……どうなの?あんたの信仰心って、それでもまったく揺るがないもの?この宇宙にはね、存在する惑星の数と同じくらい多くの神々が存在するわ。そして、自分が今まで信じていた神が、そんな数多くの神々のひとつに過ぎない、しかも、その名を宇宙に轟かせてさえいない――となったらどう?神なんてものは、結局のところ人間の脳が生み出した妄想に過ぎない……そういうことになるんじゃなくて?」
ゼンディラは優しく微笑んだ。どうやら彼女のことを自分は誤解していたらしいと気づいたのである。頭に血が上ると短絡的な行動に走りやすい女性なのだろうと思っていたが、ジョナサン=ミラー大尉が言っていたとおり、実はなかなかに頭の切れる将校なのだろう。
「中に……入りますか?どうやら、長い話になりそうですし」
「いいの?わたし、ふたりっきりになってそこにベッドがあったら、あんたのこと襲っちゃうかもしれないけど」
ここで、ゼンディラが困ったような顔をしてみせたので、ミネルヴァも思わず笑った。どうやら彼は、やはりなんでも杓子定規に捉えるタイプの人間らしい。
「もちろん冗談よ!とにかく、どんな宗教でも信者を増やすために誰彼となく布教するものでしょ?ゼンディラ、あんたまずわたしで練習してみたら?それで、もしわたしをナノコンに対するウイルスなしで洗脳することが出来たとしたら……それはわたしの部下たち全員をも十分洗脳できる力を、あんたの神が持ってるってことなんですからね」
「わたしは、誰のことをも洗脳することもなければ、信仰を強要することもしません。ただ、どう説明したらいいのか……」
そう言って、ゼンディラはまず自動扉を通り、ミネルヴァのことをそこへ招いた。ゼンディラ自身の知りうる経験で言えば――そのスペシャル・キャビンと呼ばれる場所は、アストラシェス僧院の、王侯貴族たちが宿泊する部屋によく似ていたと言える。前時代のアンティークな雰囲気を備えたソファやテーブルといった家具調度品類等々……だが、唯一、床と天井に据え付けられる形となっている寝室のベッドだけは、ゼンディラに心のトラウマを想起させるものであったに違いない。
「ふうん。わたしたちの機能的な個室とは違って、随分贅沢な造りになってるのね。わたし、惑星間航行はこれが初めてじゃないけど、上官たちのプライヴェートルームとここへは艦内で唯一来たことがないかもしれないわ」
ミネルヴァが周囲をきょろきょろ見渡しているのとは違い、ゼンディラは、先に運びこまれてあった少ない荷物の中から、アスラ聖典とその外典二冊を取り出していた。
「もちろんミネルヴァ、あなたにこのような物を見せても意味のないことはわかっています。何故といって、メトシェラにだけ特有の言語で書かれたものですし、あなたたちの持つ優れた翻訳機能を持ってしても、これらの聖典を訳すのはきっととても骨の折れることでしょうから」
「確かにそうね。でも、とても興味深いわ。ゼンディラ、あんたの出身惑星の言語なんて、まだ既知宇宙内のほとんどの人が知らないでしょうしね。そうだわ!軍にはね、そうした全宇宙の言語を研究してる文化機関もあるのよ。あんたの住んでたメトシェラの言語について、そこの研究機関の研究員たちはそりゃ面白がって学びたがることでしょうよ」
螺鈿細工のテーブルの上にゼンディラはアスラ聖典とその外典を静かに置いた。ミネルヴァは、「触ってもいい?」と聞いてから、ゼンディラが「どうぞ」と言うのを待ち、至極丁寧な手つきでそれを持ち上げ、そっとページを捲った。
「ああ、そうでした。わたしが言いたかったのはね、ミネルヴァ。アスラ聖典のまずはこの箇所なのです」
ミネルヴァが外典のひとつを今度はぱらぱら捲るのを見て――それは金箔押しの、実に見事な装丁をしていた――アスラ聖典のある箇所を指で指して言った。もちろん、彼女に読めないことは承知の上で。
「『私、アスラ=レイソルは神ではない』と、はっきりそう書いてあるのです。続いて、『だが、私は宇宙の神ソステヌより神命を受け、この地に参った者である。私は諸国の戦乱をおさめるためにやって来た、正義の使者であり戦乱の王である』と、のちにアスラ神と呼ばれることになる彼は、自らそう名乗っているのです」
「あ~、また来たわね。宇宙の神って奴が……わたしたちが平和事業を行なってきた、ザカール=オルディアにもいたわよ。『偉大なる宇宙の創造神にしてその覇者、オーヴァルよ』なんて具合にね。さっきわたしが言った惑星タヴエラにも、ターヴとエイラなんていう双子の神さまがいなさるらしいわ。こんなこと言って、気を悪くしないでね、ゼンディラ。つまり、その大昔――地球から人類が宇宙へ飛び出して、宇宙開発事業が着々と軌道に乗り始めていた頃……その惑星によって事情は異なるにしても、特に最初の頃はまだ、惑星開発って今以上に時間がかかって大変だったらしいの。だから、人々の心をひとつにまとめあげるための文化っていうのかなあ。その象徴として何かの神を造り出して拝むっていうのが、一番手っ取り早かったってわけなのよ。そしたら、何かの不幸な事故で仲間が死んでも、『今彼の魂は宇宙の神ゼンディラの懐に抱かれて憩っているに違いない』なんて具合にね、何かこう体裁がいい感じするでしょ?死後は宇宙空間のような虚無で、人間には魂などなく、一度死んだらそれキリである……なんていうのより、ずっとね」
「わたしも……裁判惑星にいた頃、暇な時間にあなた方の高位惑星系、そして中位惑星系の神々について、すべてではありませんが、翻訳したものを読んで、少しずつ理解を深めました。ですから、ミネルヴァ、あなたの言っていることが真理の一面であることは理解します。ですが、真理というものは、人の心の数と同じか、それ以上の数存在するものです。ですから、アスラ神も神の真理の一面であり、また神というものを信じない無神論の状態というのもまた……真理の一面なのでしょう。また、この宇宙に幾百幾千幾万の神々が存在するというのであれば、それらもまた、ひとつひとつが宇宙の真理の一端を映しだす鏡なのであろう……というのが、わたし個人の理解の及ぶ限界です」
「ふうん。やっぱりあなた、ただ者じゃないっていうか、ただの田舎惑星の一僧侶ってわけじゃなのね。そりゃ本星が欲しがるはずだわ」
このあと、ゼンディラは惑星メトシェラにおいて多くの民に信じられているアスラ教について、わかりやすいよう順に説明をした。大聖典と呼ばれるもののうち、一冊は、のちにアスラ神と呼ばれるようになるアスラ=レイソルの言行録を記したものであり、もう一冊は彼が現れる以前までの、惑星メトシェラの歴史書であること、外典についてはこれらふたつの大聖典を解釈その他の点で補うものであること、また守るべき祭儀や祭式、あるいは礼拝時の作法について書き記されたものであることなど……それから、アスラ=レイソルは神でないと自らそう名乗っているにも関わらず、彼を神と呼び、アスラ神が昇天して以後も彼を信じる信仰者が絶えないのが何故か――ということについて、ミネルヴァに順を追って説明していったわけである。
「ふうん、なるほどね。戦乱に苦しむ民草を救うため、自ら汚れ役を買うようにして当時四十九にも分かれていた国を統一していったと。そして、その不可能事業をたったの三十五年で成し遂げたこと、数え切れないほどの戦争をしたにしても、アスラ=レイソル本人はそのことで身を千々に引き裂かれるような苦悩や苦痛を味わい続けたこと……また、そうした人間としての苦悩を味わいつつも――ううん、違うかな。そのような苦痛を極限まで経験していた彼であればこそ、出来得る限り征服した国の人々に心を配ることが出来た……まあ、そういうことなんでしょうね。そして、最初は大小四十九もの国をまとめ上げるなんて不可能事業のように思われたわけだけど、戦乱の神にして平和の神でもあるアスラ=レイソルの評判を伝え聞き、自ら降伏する国もあれば、アスラ=レイソルの名前を聞いただけで軍人たちは縮み上がり、自分から捕虜になったりする事態まで起きたと……なかなか興味深いわ。そして、こうして彼が惑星メトシェラにあったほとんどの国を平定に導いたにも関わらず、王位に就いていた期間は短く、各事業については優秀な部下の将軍たちに任せたってわけなのね。他に、自分の双子の妹を女王の座に据え、自らは今までの戦乱で流した血の浄化のために僧院へ引きこもったというのも――並の人物でなかったことを偲ばせるエピソードって感じがするわね」
ミネルヴァはアスラ教が当初想像した以上に『よく出来ている』と感じ、感心した。中でも、自分の妹を女王に据えて以後は、母権制社会を構築するよう歴史の流れを変えたことは、ミネルヴァにとっても強く心惹かれるところがあったと言える。何分、男中心の社会では、今後も戦禍は絶えまいとして――十人の男の命よりも、子供を生める可能性を秘めたひとりの女性の命のほうが価値として重いと、聖典の律法の書にはっきりそう書き記されてあるというのだのから(=これは、その女性がまだ赤ん坊でも幼女でも少女でも、将来子を産む可能性があるという意味で、成人男性よりも存在価値が上であると、法律でもそのように明文化されることに繋がったという)。
「そうなんです。だから、惑星メトシェラの住民たちは、自分たちの人生で苦悩する時、アスラ=レイソルの人生について思いを馳せるのですよ。彼は人間的に考えられうるありとあらゆる苦悩や苦痛を経験した……あちらの王の立場を立てれば、こちらの国の宰相の面目が潰れといった戦略上の悩みについてのみならず、正しい側が裁判で負けて恥まで負わされたというので、アスラ=レイソルに直訴してきたりと、仮に自分が直接経験しなかった苦悩でも、民たちの苦しみや悩みであれば、数え切れないほど多く目にして、その苦しみを自分のもののように感じ、悩むことの出来る人だったのです。もっとも、彼は人間的に立派で高潔な人物だったから、神にまで祀り上げられた――という、ただそれだけではありません。彼はこうした背景に、バスラ=ギリヤークという、悪鬼とも悪魔ともつかない、霊的な存在を常に感じ続けていたのです。また、自らの神通力を使ってバスラ=ギリヤークと戦うことを通じ、彼に打ち勝つことで戦争にも勝利してゆきました。アスラ=レイソルはその人生の中で苦境に立たされたことなど、一度や二度ではありませんでした。そして、そのような苦しい状況へ追い込む元凶が、他でもないこのバスラ=ギリヤークだったのです」
「ええと、霊的存在っていうことは、ようするに目に見えないってことよね?」
(やれやれ)と思いつつ、ミネルヴァはソファの隣に座るゼンディラにそう聞いた。彼はアスラ聖典のあるページに目を落としたまま、話を続けている。
「そうです。バスラ=ギリヤークの存在は、人間の肉体の目によっては視認できないようなのですが、唯一アスラ=レイソルにだけ、彼の存在は肉体の目を通しても見ることが出来たと言います。これって、すごくつらくて大変なことだと思いませんか?わたしだったらこう思うと思います。『ほれ見よ、あのような者が存在していて人心を惑わすから、この世というところは災禍が絶えんのだ』とでも、指を差してみんなに示すことが出来たとしたら、どんなに気が楽だったろうかと思います。ところが、彼の姿はアスラ=レイソルにしか見えない……また、そのことを彼が話したとすれば、気違いのようにしか思われなかったでしょうね。けれど、彼に心からの忠誠を誓う将軍や部下たちの中には、アスラ=レイソルの言うことを理解する者が出てきます。その中でも、アスラ=レイソルの側近中の側近であり、一番の親友ともいえるナハティ=ターンシトラは、このバスラ=ギリヤークに惑わされ、四十九国平定ももはや間近という時に、彼のことをもっとも手痛い形で裏切るのです……結局のところ、アスラ=レイソルにとってナハティ=ターンシトラを失ったことは、それまでに経験したどの苦しみよりも、つらい痛みを彼の魂にもたらしました。このことが、彼がのちに僧院にこもることになった直接の原因だったのではないかと考える僧たちも数多くいます。アスラ=レイソルは言いました。『彼を失うくらいなら、自分が死んだほうがまだましだった』と。それまで、アスラ=レイソルはバスラ=ギリヤークを殺す機会ならばいくらもあったのですが……また、彼の語ることを信じる将たちも幾度となくこう助言しました。そのような者など、今すぐ殺してしまえば良いと。けれど、『あのような者でも、この世界を構成する一要素なのだ』として、アスラ=レイソルは何度もバスラ=ギリヤークのことを見逃しています。ところが、その結果のことを思い知り、激怒した彼はとうとうバスラ=ギリヤークと直接対決し、そして勝利を得ます。ですが、バスラ=ギリヤークは不滅の存在なのです。それが何故なのか、わかりますか?」
「さあ……どうしてかしら?ようするに、人間の悪しき欲望の源であるようなバスラ=ギリヤークは、わたしたち人間ひとりひとりの心の奥深くに住んでいるものだから――実は何度滅ぼしても無意味だっていうこと?だって、それでいくと彼を滅ぼすためには、人間のすべてをも滅ぼさないことには不可能ですものね」
「そうです。だからこそ、アスラ=レイソルは度重なる部下たちの助言にも関わらず、バスラ=ギリヤークのことを忌々しいと感じながらも見逃してきたのです。そして、アスラ=レイソルは一度は自分の正義の力のすべてを持って、バスラ=ギリヤークにとどめを刺したものの……バスラ=ギリヤークは存在の消えゆく中で、こう捨て科白を残して去ってゆきます。『いつの日か、私は再び復活するだろう。人の心に悪しき思いが存在する限り、私という存在もまた、不滅にして不死なのだ』と、そう言うのですね」
「ほんと、忌々しい奴ね。あのね、ゼンディラ。わたしは今のあんたの話、聞いててなかなか感心したし、面白いとも思ったわ。あんたが今後、もし僧としてのあり方を捨て、誰かと結婚したいと思うけど、そのためにはアスラ教を心から信じている女性でないと絶対ダメだ……とか言いだしたら、わたし、一生懸命この四冊の聖典を勉強して、その他季節ごとの祭儀とか、色々守るべき礼拝やなんだ、あるんでしょうから――そうしたことも一緒に守ったって構わない。でね、こんなのわたしだけじゃなく、今後ともあんたの人生に起きてきそうだと思うから聞いときたいんだけど……あんた、今後そんな予定がありそうだなとか、そんなふうに思ったりする?」
「いえ、100%絶対にありえません」ゼンディラははっきりとそう言って、首を振った。「わたしは故郷メトシェラからいかに遠く離れようとも、これからもアスラ=レイソルが晩年そこに篭もっていたと言われるアストラシェス僧院の一僧侶です。それは死ぬその瞬間を迎えるまで、決して変わらないことでしょう。人の心の奥深くには、その時々で色々なバスラ=ギリヤークがいます。憎しみのバスラ=ギリヤーク、嫉妬のバスラ=ギリヤーク、憤怒のバスラ=ギリヤーク、無慈悲なバスラ=ギリヤーク、自己憐憫のバスラ=ギリヤーク……そうですね。わたしの心の中にもそうしたバスラ=ギリヤークが確かに存在しています。ですが、このことのうちにはあるパラドックスが存在してもいるのですよ。ミネルヴァ、あなたの言葉から類推するに、あなたの宗教観によれば、神も悪魔も存在しない――そうしたことでしたね?」
「ええ、そうよ。神も悪魔も天国も地獄ない……というのが、わたし個人の宗教観にもっとも近いものでしょうね。それでね、ゼンディラ――さっきのあなたの話の、最終的な結論を先に言っときましょう。つまりね、この宇宙には幾百万という惑星の数だけ、いいえ、それ以上の数の無数の神々が存在する。あなたはさっき、その神々のひとつひとつが、宇宙の真理を構成する一面だと言ったわ。じゃあ、こうは考えられない?その無数の神々を包括する、すべてのものの真理の上に君臨する神が――その名前はなんだって構わないわ。宇宙神ソステヌであれ、オーヴァルであれ、ターヴとエイラだって、なんだっていいのよ。なんだったらゼンディラ、あなたの名前だってね。でも、それらのものの上にいる唯一の神が、もしかしたらいるのかもしれない。もっとも、こんな宇宙の片隅にいる、アリよりも小さく、細菌よりもより小さい存在に、その神が御心とやらを留めたり、いちいち慈悲深くその祈りの声に耳を傾けるかどうかは知らないわ。わたしたちに細菌の話し声やアリのしゃべってる言葉が聞こえないみたいに、神にはわたしたちの声が聞こえてないのかもしれない。そのくらい、この宇宙は広くて、わたしたちが既知宇宙と呼んでる場所だって、全宇宙の広大さに比べたら――吹けば飛ぶような夢の泡のようなものに過ぎないのよ。わたしの言ってること、わかる?」
「ええ。大体は……コートⅡにいた頃、『宇宙惑星列伝』という本を、五百数十巻すべてではありませんが、そのあたりのことを読んで、知識としては一応理解しているつもりです。また、ミネルヴァ、あなたの知識の多さや大きさ、また洞察力の鋭さにも感服するばかりですが、わたしもさっき自分の言ったことの話の続きです。わたしが自分の心の内になんらかのバスラ=ギリヤークの存在を感じれば感じるほど……それは、取りも直さずこの世界、あるいは宇宙のどこかに神が存在していることの証明ともなることなのです。何故なら、悪鬼や悪魔や悪霊が存在しないのであれば、神だって必要ないし存在しないかもしれない。けれど、二元論による対立項目としての神と悪魔といったことでなく……やはり神は存在するのです。ミネルヴァ、あなたが今言ったように、名称や信じ方、宗教様式やその祭儀の守り方などは関係ありません。この世から、人の心から善を行いたいとする心や、慈悲を施したい、愛を追い求めたいという心がある限り、バスラ=ギリヤークが不滅にして不死であるように、神もまたやはり不滅であり不死なのです。そして、バスラ=ギリヤークに神を倒す力はないが――だって、神でない人間に過ぎないアスラ=レイソルの前に、一時的にせよ彼は敗れたのですから――神そのものである方には、バスラ=ギリヤークを一瞬にして、永遠に滅ぼす力がある。つまりはそういうことです」
(参った)というように、ミネルヴァは溜息を着くと、どっと疲れた……とばかり、隣のゼンディラの肩に身をもたせかけた。
「わたし、何もあんたに宗教論議をけしかけに来たってわけじゃないのよ。ただ、『本星にいるんなら、暇な時にデートでもしましょうよ、うふっ』てな話をしに来ただけだってのに、この色気のまったくない話は一体なに?まあ、いいわ。とにかくね、わたしが相手なら、そこそこ知的な話も出来るってことが、これでわかったでしょ?今後、わたし以外にもゼンディラ、あんたを誘惑しようとする色欲のバスラ=ギリヤークが現れるに違いないけれど、その時には一度、わたしのことも思いだして欲しいのよ。『この子も悪くないけど、軍艦アルテミスβで出会ったミネルヴァ=ハイザーって少佐は、もっと色々なことに理解が利いて、知的な会話も出来る面白い相手だった』みたいにね」
「いえ、今後ともわたしはどのような女性とも、結婚を考えたりすることなどありえません。ただ、ミネルヴァ、あなたが素晴らしい女性であることだけは、間違いなく確かなこととは思います」
まったく脈なしといった態度のゼンディラに呆れつつ、ミネルヴァは一旦席を立つことにした。彼とフォスティンバーク博士がいつ頃コールドスリープ装置に入るのかはわからない。だが、どんなにそれが早くとも、今日明日ということだけはあるまい。そう考えて、ミネルヴァは一度退却することにしたわけである。話すことならば、今聞いたアスラ教のことでも、アスラ=レイソルの人生のことでもなんでも――今後、彼と話せそうなことはいくらでも出来たと、そう思ったというのが、ミネルヴァが一度退散することにした理由である。
こののち、ミネルヴァと入れ違いになるようにして、フォスティンバーグ博士が戻ってきた。彼もまた、ゼンディラとふたりきりになったあと、話したいことがたくさんあったのである。
「そこの角のところで、ハイザー少佐とすれ違ったけど……ゼンディラ、何か君に話でもあったのかい?」
「ええ、まあ。アスラ教について教えて欲しいというので、軽く宗教談義していたところです」
そう言って、ゼンディラはアスラ聖典に手を伸ばし、アスラ=レイソルが戦争時に戦士らを鼓舞するために歌ったと言われる詩の言葉を目で追った。実をいうと、アスラ神に仕えていた主だった十二人の将のうち、ひとりは女性であったと言われている。彼女、ルドラ=ミシュカは剣法と拳法の達人であったが、「男に土をつけられたことがない」ことを誇りとしていたのに、アスラ=レイソルに一対一で完全に敗れたことが、ルドラが彼の後を追うきっかけとなった……と、聖典にはそのように書き記されている。そして、ルドラが男顔負けの戦姫として、勇猛な将の首を討ち取った時、アスラ=レイソルが彼女に贈ったと言われる『ルドラの歌』という詩の言葉があるのだった。
何故なのだろう。ゼンディラにとってミネルヴァは、このルドラ=ミシュカを思わせるところがあり――それで彼は、アスラ聖典の中のその箇所を読みたくなったわけだった。
「やれやれ。客人にコーヒーも淹れなかったところを見ると、よほど宗教の話に熱中していたんだね」
フォスティンバーグ博士は、呆れたように力なく笑った。成りゆき上といえ、自分にキスしてきた女性が訪ねてきたというのに――おそらく彼は色気のある対応など一切しなかったのだろう。
「はい。コーヒーについては、淹れ方がわかりませんでした。ですが、ミネルヴァとは、なかなかに有意義な意見交換をすることが出来たと思っています」
「ふうん。そりゃ大いに結構……ん?というか君、この小さな紙切れに書いてあるのはもしや、ミネルヴァ=ハイザー少佐殿の本星での連絡先かね?ほうほう、彼女は思った以上に君にお熱と見える。いやいや、ゼンディラ、これは実に喜ばしいことだよ。ハイザー少佐殿と是非ともつきあいたまえよ、なんてことじゃなく、例の特殊部隊員のヨセフォスの他に、またひとり故郷の星以外の場所で友達が出来たということがね」
「そうですね。エフェメラというところがどんな場所なのかすら、今のわたしにはわかりませんが……でも、もしそのような暇な時間が与えられたとすれば、ヨセフォスが無事メトシェラから帰還できたかどうか、直に会って確かめたいとは思っています。まあ、ミネルヴァは単に、面白半分にからかっただけなんだと思いますよ」
(本当にそれだけと思うかね?)――フォスティンバーグ博士はそう聞いてもよかったが、やめておいた。とにかく彼としては、本星で<もし何かあった場合>ゼンディラにはこれで避難場所が二箇所確保できたということが、より重要であるように思えていたのである。
ダニエル・フォスティンバーグ博士にゼンディラのカウンセリングを依頼してきたのは、情報諜報庁ESP部門の長官だったわけだが……博士自身、ESP部門のことについては何も知らなかった。ただ、昔はよく人体実験紛いのことをしている組織だとの噂があり――フォスティンバーグ博士にしても、そのあたりのことを彼にどう説明すればいいのかわからなかったのである。
とにかく博士としては、<既知宇宙内で知らないことは何もない>とすら評される、本星情報諜報庁に目をつけられるわけにはいかない……といった事情から、命令には従う以外ないのだ。仮に今どんなに、この目の前にいる辺境惑星の僧侶に好意を持ち、友愛の情を抱いていたとしても。
(そうだな。そう考えた場合、避難場所なんて言っても、あくまで一時的なものだ。ヨセフォスという男は諜報庁の対惑星担当の特殊部隊員なのだろうし、ハイザー少佐は軍のエリートだ。上層部から圧力をかけられれば、ゼンディラの身柄のことは引き渡す以外ないだろうしな……)
「だが、ゼンディラ。君は本当に――まあ、相手はミネルヴァ=ハイザー少佐じゃなくても構わないよ。だが、何か運命の出会いを感じさせる女性がいてさえ……もう自分は故郷の星を遠く離れた身なのだからと考えて、結婚したりとか、いや、結婚しなくてもいいんだよ。そのような関係性を持とうとは思わないのかね?」
何度となく行なったカウンセリングを通して、ゼンディラが同性愛者でないことはフォスティンバーグ博士にもわかっていた。最初、(本人がそうと気づいてないだけかもしれない)と博士も思っていたが、彼はもし自分が去勢していなければ、間違いなく恋愛対象は女性であるということを明言していたし、それは彼の他の言動からも十分察せられることだったのである。
「ええ。わたしの生涯は今に至るまで常に神とともにあり、それは今後とも変わらない、わたしの生き方のありようなのです。ただ、ミネルヴァにはキスされて良かったのかもしれない……と、一応そうは思っているのですよ」
「ほう。それはまた、何故だね?」
(おや、これは案外脈がないこともないのかな?)と、フォスティンバーグ博士は一瞬思ったが、ゼンディラは頬を微かに赤らめつつも、やはり彼らしいことを口にしていた。
「初めてにして、最後に唇を重ねあわせた相手が……男性で、しかもその直後にひどい形で殺してしまったとあっては――なんとも惨めな感じがします。もちろん、ダリオスティンさまのことを思えば、こんなことは口にすべきことではないかもしれません。でも、それでも……そうした意味で、彼女がキスしてくれたことは、わたしにとって良いことだったのです」
「なるほどね。そんなふうに考えられるというのは確かに、いい徴候だと私も思うよ。まあ、私の精神科医としての助言としてはね、もし今後、相手が女性であれ男性であれ――運命と感じられる相手が現れたとすれば、なんの罪悪感を感じるでもなく、心の思うままのところに従えばいいということさ。ついでに、そのダリオスティンさまのこともすっかり忘れ去ってしまうことだね。何度も同じことを言うようだが、彼のことに関して、君に非はない。あとは、もし星府(スタリオン)のほうで、ゼンディラに特別な待遇を用意してくれるのだとしたら……一切の良心の呵責を感じることなく、彼らの与える住居にでも住んで、贅沢に暮らしたらいいよ」
「ですが、わたしにはそもそも、その相手が誰であれ、そこまで良くしていただく権利もなければ、何かの才能や技能に恵まれているというわけでもありません。超能力といっても、わたしにはそのような力があるとは今も思えませんし、もし仮にあったとしても、二度と使ってはいけないと思っています。ですから……本星の星府のほうで、わたしのことが用なしとなったとすれば――故郷へ帰らせてもらえるのかどうか、そのことが今とても気になっています」
「…………………」
フォスティンバーグ博士は黙り込んだ。こうしたことについて、彼は今までも説明してきており、何度も同じことを語ってもきた。エフェメラでは決して、他星から招いた者を邪険に扱うことはないし、いつかあるかもしれない惑星間交渉のことを想定して――この場合は、仮にESP能力なしとして、その部分でゼンディラのことを不要と感じたにせよ、惑星メトシェラの文化その他をよりよく知るために、そうした研究機関にゼンディラは送られることになるだろう。
簡単にいえば、フォスティンバーグ博士が心配しているのは次のようなことだった。無理にゼンディラからESP能力を引き出そうとして、投薬等により、何か非人間的暴力が彼に加えられたとしたらどうすれば良いのかという……唯一そのことだけが博士は心から心配だったのである。
>>続く。