
【キリストの変容】ラファエロ・サンティ
今回は、ラファエロとミケランジェロとゴッホとゴーギャンの絵画の名前が割と出てくるんですけど……「並べるのなんか面倒くさいなー」ということもあって、端折ろうかと思います(殴☆
)。
というか、割と有名な絵のほうが多い気がするので、「ああ、アレね」とわかるような気がするので(^^;)
でも、全部とはいかずとも少しくらいは貼っておきますか
【システィーナの聖母】ラファエロ・サンティ
【一角獣を抱く貴婦人】ラファエロ
【聖ゲオルギウスと竜】ラファエロ
【騎士の夢】ラファエロ
【三美神】ラファエロ
【アダムの創造】ミケランジェロ・ブオナローティ
【聖家族】ミケランジェロ
【原罪と楽園追放】ミケランジェロ
【聖アントニウスの苦悩】ミケランジェロ
【最後の審判】ミケランジェロ
【頭に包帯をした自画像】フィンセント・ファン・ゴッホ
【光輪と蛇の自画像】ポール・ゴーギャン
【アルルの寝室】フィンセント・ファン・ゴッホ
【黄色いキリスト】ポール・ゴーギャン
【星月夜】フィンセント・ファン・ゴッホ
【タヒチの女】ポール・ゴーギャン
【3人のタヒチ人】ポール・ゴーギャン
【死霊が見ている】ポール・ゴーギャン
あ、それでも大体のところ割と貼れたような(^^;)
さて、ここからは全然関係のない話。。。
>>AIが抱える『弱点』の一つは、「フレーム問題」だ。フレーム問題は、AIが決められた枠組(フレーム)の中でしか命令をうまく処理できないという問題である。
アメリカの哲学者、ダニエル・デネット(1942~)が思考実験で示した、フレーム問題の例を見てみよう。その設定は、AIを搭載したロボットを洞窟に送りだし、時限爆弾が乗ったバッテリーを取ってこさせるというものだった。
AIは人間と同じような常識を持つことが困難。
まず、1号機に「バッテリーを取ってこい」と命令した。すると、AIが時限爆弾ごと運んできたため、爆発が起きてしまった。
そこで今度は、2号機に、「何か行動するときには、それによっておきる2次的な要素も考慮しろ」と命令を追加した。バッテリーを運べば時限爆弾がいっしょについてくるという「2次的要素」が理解できれば、AIがうまくバッテリーだけを取ってくると予想したのだ。
しかし、AIはバッテリーの前で立ち止まってしまった。バッテリーを持ちあげたら天井は落ちないか、一歩踏みだしたら壁の色は変わらないか……。そんな突拍子もない2次的要素を含めて、ありとあらゆることを延々と考慮してしまったのだ。人には常識でわかるような「今回の命令に関係のある要素はどれか」がAIにはわからなかった。
そこで3号機には、「命令に関係のあるものと無関係のものを分けてから行動しろ」と命令した。すると、AIは洞窟に入る前に立ち止まってしまった。空気の成分、壁の色、太陽の位置……。命令に無関係のことが周囲に無数にあったため、選別が終わらなかったのだ。
AIは、人のように「適当に考えること」ができないため、枠組やルールのない問題では、あらゆる想定をして、無限に思考しつづけてしまうのだ。これがフレーム問題である。
(「ゼロからわかる人工知能・完全版」ニュートン別冊より)
というのがAIのフレーム問題ということらしく。。。
自動運転車なども、いわゆるトロッコ問題(突然目の前に自転車が飛び出してきた。だが、右へハンドルを切ると対向車にぶつかり、左へハンドルを切ってもそちらには歩く子供がふたりいる。さて、AIはどう判断するのが正解なのか、といった問題)の他に、道ゆく歩行者や自転車やバイク、車や標識など、あらゆることを考慮に入れると、止まったまま動かなくなる……みたいな話を、以前テレビでちらっとやってたような記憶があります
その~、この時一緒にいた方が「AIなんてまだそんな程度なんだね~」みたいにおっしゃってたのですが(ちなみにChatGPTが登場するかなり前のお話)、その後わたし、AIについて書かれた本などを読んでいて――「実はこれは人間でも結構あるんじゃないかな
」と思ったりしました。
「AIは物事を曖昧にしておけない」とか、「AIには常識がないため、そうした判断が難しい」など……「人にもそういう曖昧にしておけない、白黒はっきりさせたがるグレーゾーンが我慢できない人っているよね~」とか、「人間にだって常識のない奴っているじゃん
」といったような、ある種の傾向というよりも……もしわたしたち人間が朝起きてから夜眠るまでの間、「何もかも曖昧にせず、すべてを完璧にこなしたい」と思ったとしたら、物事は遅々として何ひとつ前へ進まない気がしませんか?(^^;)
「わたしは完璧な姿勢で起きるんだ!」とか、「完璧な形で腕を曲げて着替えるんだ!」、「完璧に髪を梳かすんだ!
」、「顔を洗うんだ!
」、「歯を磨くんだ!
」――まあ、馬鹿げてますけど、こんなことやってたら、むしろ逆に「完璧さ」を意識しすぎるあまり、ビリッと服の脇のあたりが破けるとか、髪は梳かしすぎて三十本も抜けてるとか、顔はタオルでこすりすぎて赤くなり、歯からは血が滲みでる……とかいうのはあまりに極端な話でしょうけれども、別の例であればもう少しわかりやすいかな~なんて。。。
たとえば、本もし一冊の小説を、最初から最後まで一行ずつ、「自分はその文を完璧に理解したか、してると言い切れるか?」なんて思いつつ読み進めていたら、途中で読書ノイローゼみたいになり、もう本なんか読みたくもないし、見たくもなくなる気がする。
時々、わたしのことを読書家だと思ってる人がいて困るんですけど(笑)、わたし実は軽~くこの傾向のある人間だったりします。大抵本って、漫画とかは少し別ですけど、「すごく面白い」と聞いていたり、「ベストセラーになってる」と聞いたから購入した場合においてさえも――いや、むしろだからこそちゃんと読もうとして、「その小説が面白くなってくる前に挫折する」っていうこと、あるような気がします。せっかく買った本だからと思い、逆に「ちゃんと理解して大切に読もう」とするあまり……読むのがつらくなってきて、放っておいたところその後引っ越すことになり、売る本の一冊になったとかって結構あるような気がしてます(^^;)
でも、そんな症状がたま~に出ることがあったにせよ、本の内容がある程度入ってきた時点でストーリーの続きが気になってきて最後まで読めることのほうが多い(自分比☆)。この場合、文字=意味とが大体のところいいペースで結びついてページをめくっていくことが出来るっていうことなのかなって思ったりするんですけど、AIはこのあたりの理解が現在は人間よりも遥かに文脈を読めるスピードが速くなったのかなって思います(でもそこに宿る本当の意味での、深い人の心の情緒についてまで理解しているわけではなく、理解してるように見える……っていうことなんだと思うんですよね)。
また、人の心の問題っていうのは、大体のところ気持ちの悪い白黒はっきりしないグレーゾーン問題の連続なのではないでしょうか。まさしく曖昧につぐ曖昧で、でも曖昧模糊な心の沼に沈まぬために、大体のところ「このへん!」って意識してる場合もあれば、大抵は無意識のうちに見切りをつけて類推してる場合が多いんじゃないかな、なんて。
人と会話する時も、言葉そのもの以外に自然なタイミングや間が大切だったりもして、ひとつの話題についていつまでも引っ張ってもしょうがないとか、そういうのはなんとなーく「空気で」人は読んでいる。これも時々「空気読めない奴」とか、そうした場合が生じうるにしても――このあたりも「常識で考えてなんとなく」とか、「大体そんな雰囲気だから」と、人間が読む空気をアンドロイドはかなり進化しないと読めないんじゃないかなあ……なんて。
べつにそれがダメだとかいうこともなく、ロボットやアンドロイドの場合、その「空気読めなくて突拍子もないことを言う」感じであるとか、誰もそこは「常識で考えて」突っ込んでこないことに突然斬り込んできたりとか――そこが「普通の人間同士ではありえない新しい風」として、何か大切で面白いことになってくるんじゃないか……なんて、ちょっと想像したりします
でもきっと、そう遠くない未来、AIはこのままいくとこの「フレーム問題」をも突破してさらに進化していくのではないでしょうか、たぶん
それではまた~!!
永遠の恋、不滅の愛。-【16】-
「フランチェスカはもしかして、あんたに何か個人的なことを話したりしたかい?」
テーブルの上にあったサモワールに似た陶器の容器にゼリー菓子があるのを発見すると、ミカエラは「宝石みた~い!」と言って、透明な包装フィルムをとき、それを口へぽいっと放り込んでいる。
「個人的なって、どういうこと?テディ、あんたは知らなかったかもしれないけど、彼女そもそも、北欧じゃ有名な女優兼モデルみたいな女性なのよ。まあ確かに『役を得るのに監督と寝たことがある』とか、そんなことはちらっと言ってたかしら……でも、フランチェスカが双子で妹にマージだかマートルって子がいて、子役として業界で有名になったのは妹のほうが先だったそうよ。それで、その後ティーンエイジャーが何人か出てきて十代に特有の悩みについて悩むみたいなドラマがヒットして、彼女は顔が双子でそっくりだっただけにつらい思いをしたとは聞いたわ。たとえば、妹のスタントをして彼女の代わりに冷たい海へ飛び込むとか、妹の具合悪い時に代役やったりとか、屈辱的な思いをしたとは言ってたわね……もっとひどいのが夏休みに湖でボートが転覆した時、妹のほうを演劇仲間たちがまず真っ先に助けようとしたとかって。ええっと、フランチェスカもその時随分酔ってたし、そうした意味で何もかも全部本心なんだろうとか、わたしもそんなふうには思ってないわ。でもフランチェスカは随分長く妹のことを憎んではきたみたい。たぶん、妹が俳優として輝いたのが子役時代と十代――それから二十代の初めくらいを頂点として、その後人気に影が出てきて以後は姉であるフランチェスカの時代になったっていう、そうしたことみたいよ?ほら、わたしも映画関係詳しくないけど、ヨーロッパのなんちゃら言う有名な監督さんがいるわよね。フランチェスカのデビュー作って、モザイクがしょっちゅう入るみたいなスキャンダラスな内容だったみたいなの。だけど、その体当たりの演技が評価されて、ヨーロッパでもアメリカでも一躍有名になったってことだったわ」
(そうだったのか。全然知らなかった……)
プエルトリコの高級リゾートやヴァージン諸島、バハマなどでもネットは使えたわけだから、そのあたりのことをもっと速く調べておくべきだったのかもしれない。だが、友達のことをこっそり嗅ぎまわるようで良心が痛み、俺はそんなことはしなかったのだ。
「その、変なこと言うみたいなんだけどさ……クリストファー・ランド博士の部屋はミケランジェロの絵が多かっただろ?『アダムの創造』の他に『アダムとイヴ』が蛇に誘惑される場面の絵もあったし、他に『聖家族』や『キリストの埋葬』、『聖アントニウスの苦悩』といった絵画もあったと思う。それと、寝室のベッドの天井部分には『最後の審判』の絵があったんだ。もちろん、システィーナ礼拝堂のように大きなものじゃない。レプリカの縮小サイズのものだけど、俺、そのことにはたぶん意味があったんだろうなって最初から思ってたんだ。で、モーガン。あんたのさっきの話を聞いてて、ランド博士については何かの罰を受けた可能性もあると思うんだ。それで、こうなるとホランド博士とホリスター博士の部屋にはどんな絵が飾ってあるかってことが俄然気になってくる。俺、あの三博士がやって来る前に、ミカエラと散歩がてら七階の部屋をちょっと覗いてみたことがあるんだ。ハウスキーパーのロージーやサラなんかが掃除してたりして、彼女たちに何気なく話しかけるついでにだよ。今にして思えばもっとしっかり見ておくべきだったと思うんだが、ホランド博士の部屋にはゴーギャンやゴッホの絵が多かった。『タヒチの女』とか『三人のタヒチ人』とか『死霊が見ている』とか……俺もちょっと絵のタイトルまでは思いだせないんだけど、とにかくタヒチの女性の裸の絵なんかだ。他に、ゴーギャン自身の自画像とゴッホの……ほら、二人が決別したあとに描いた、片耳のない自画像が何故か並んでかけてあったり。寝室には『黄色いキリスト』が架けてあって、他にゴッホの絵は『星月夜』や『アルルの寝室』といった絵もあった。一方、ホリスター博士の部屋にはラファエロの絵が多かったんだ。『システィーナの聖母』や『一角獣を抱く貴婦人』や『聖ゲオルギウスと竜』、『騎士の夢』や『三美神』……寝室に飾ってあったのは『キリストの変容』だった。まあ、深読みするとすればなんともそれぞれ意味深なんだが、俺たちは彼らが三人とも博士の称号を持ってるもんで、時々三博士なんて言って彼らを呼んだことがあっただろ?もちろん、キリストの誕生時に礼拝に来たという東方の三博士のことがそういう時、ちょっと脳裏を横切らなくもなかったけど……」
「それでテディ、あんた結局何が言いたいのよ?」
今までも俺がモーガン相手にべらべら色々しゃべり、自分なりに考えたことを整理しているらしいとわかっていたからだろう。彼女は片方の眉を上げ、どこか鋭い口調でそう聞いた。
「つまり、俺の部屋になんでダ・ヴィンチの絵が飾ってあるのかって話だ」ミカエラが隣から「あ~ん」などと言って、水色のゼリー菓子を食べさせようとしたので、俺は特に拒まず、それを口の中へ入れた。微かにサイダーのような味がする。「まあね。確かにわかんなくもないよ。アーサー・ホランド博士は肌の浅黒い南国のサーファーみたいな容貌だし、ここはカリブでタヒチじゃないけど、イメージ的にはどことなく被るところがあるものな。そこでゴーギャンとゴッホの絵を並べてみた?俺、こう見えて一応ジャーナリストだからさ、ノーベル賞候補者やその研究については毎年必ず目を通すことにしてるんだ。それで、確かホランド博士にはずっと共同研究者みたいなお医者さんがいて……博士が自分の研究について書いた論文や本なんかには必ずその人物の名前がアーサー・ホランドの横に印刷されてたりするわけだ。でもその人、確かホランド博士がノーベル賞を受賞する二~三年前くらいに……病気か何かで亡くなってるんだよ。そんなことを何故俺が知っているかといえばだ、ホランド博士自身が共同研究者である彼の名前に言及して、『この場にいない彼にこの栄誉ある賞を捧げます』とかって涙ぐみながらスピーチしてたからなんだよ。どう思う?普通に考えたとしたら、七階のあの三博士の部屋にそれぞれ、ルネッサンスの巨匠であるダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロの三人の画家の絵を飾るのが一番もっともらしくて落ち着いた感じがする。ということは、ただの邪推かもしれないけど、ホランド博士がゴーギャンだとした場合、彼は誰かにゴッホが自分で耳を切り落としたほどの痛ましい思いを、研究上の意見の食い違いか何かでさせたということなのかどうか……」
ゴッホは自分の芸術のユートピアを求め、ゴーギャンとの共同生活を楽しみにしていたらしい。ところが、後世の我々が客観的に見た場合よりよくわかることだが、このふたりが人間として合うはずもなく、その共同生活は長く続かず破綻した。今もゴッホが何故自分の耳を切り落とそうとしたかの真偽ははっきりしないという。何分、恋した未亡人に会おうとして、その父親に「会わせてくれ」と強く頼み、石油ランプの上に手をかざした男のやったことである。ゴーギャンの利己的な性格のことを思うと、彼の言動に起因してのこととも想像されるが、ゴッホの感受性のほうにも問題があったかもしれず、ここはなんとも言えないところである。
「それは、もし確実な証拠を得ようとするなら、ここオカドゥグ島を出て私立探偵よろしく調べまわる必要があるわねえ。アーサー・ホランド博士の研究施設の本拠地は、ボストンのマサチューセッツ医科大だっけ?」
「うん……でも俺、そのあと図書室でアーサー・ホランド博士の本がないかどうか調べたんだ。で、その例の人……名前がね、イタリア系の人で、確かファブリツィオ・フォルトナートだったかな。とにかく、ホランド博士はどこででも、彼に感謝の言葉をいくつも述べている。一応自分のほうが研究者として有名だから、先に名前が印刷されているにしても――論文にしても共著ということになってる本にしても、まとめたり編集者とあれこれ連絡取ったり、面倒なことの大方はフォルトナート博士が引き受けていたらしいんだ。なんでって、本のあとがきみたいなところにホランド博士自身がそんなことを書いてて、「ファブリツィオ、いつもありがとう」みたいに書いてあったり……フォルトナート博士は何かの病気が原因で亡くなったらしいけど、病名や死因については前にドミニカへ行った時ネットで調べてみたけどよくわからなかった」
「まあ、なんとなくわかんなくもないわよ」と、モーガンは何度か頷いている。「あのホランド博士って、ちょっと憎めないような雰囲気を普段から周囲に発散してるじゃない?人間性に問題がありそうであるにも関わらず、それゆえにか結局人が集まってきて人気あるとか……男として本当はダメな奴なのに、最後にはその場にいる一番の美女をお持ち帰りしてるみたいな。そのフォルトナート博士っていうのが、そういうホランド博士の何がしかの皺寄せを受けて病気になった、そこにはホランド博士から受けたストレスもあったということなのかどうか。それで、ゴーギャンとゴッホの自画像が並んで飾られてるのは『君はそういうことに気づかない鈍くて無神経な男だよね』という皮肉だってことなのかしら?」
「わかんないよ。結局全部、俺たちの想像の域を出ないことだから……ただ、俺が言いたいのはね、ここの図書室にはゴッホやゴーギャンの画集もあれば、そうした画家たちの伝記もあるってことなんだ。とにかく、このホテル内に飾ってある画家の画集なんかは全部あるし、アーサー・ホランド博士だけじゃない。クリストファー・ランド博士やジェイムズ・ホリスター博士の研究に関する本も大体ある。つまり、俺たちにちょっとばかり想像力があって図書室にある関係する本を調べたりなんだりすれば……まあ、少しくらいは何かヒントになるようなことが転がってるってことなんじゃないか?」
「まあ、確かにね。言われてみれば、テディ、あんたの本だってすべて置いてあるんだものね」
「テディのエッセイ本とか、超面白いのよお」と、チューインガムをくちゃくちゃ噛みながら、ミカエラが言う。「お馬鹿なわたしにもすらすら全部読めちゃうくらいなの!だって、本当に面白いから」
ここまで直球で褒められると、俺としても恥かしくなるばかりだったが、それはさておきである。俺はミカエラがチョコウエハースを勧めてきたため、とりあえずそれを手に取った。
「それで、ジェイムズ・ホリスター博士のラファエロの絵については何か深い意味でもあるの?」
「さあね。ただ、クリストファー・ランド博士の部屋に『アダムの創造』があったのはいかにもな話って感じがするだろ?博士が長年に渡ってアンドロイドの研究をしてきたことを思うとさ……それで、もしホリスター博士が実はヒューマノイドでビンゴってことなら、『キリストの変容』っていうのはようするに意識の変容ってことだろ?あの絵は中央にいるのがキリストで、左右にはそれぞれ旧約聖書の預言者であるエリヤやモーセがいる。十二弟子のペテロはこの時、あまりのことに何を言っていいかもわからず、『わたしがあなたのために幕屋を立てます。それから、モーセのためにひとつ、エリヤのためにひとつ……』といったようなことを言ったらしい。つまり、旧約聖書を代表する預言者よりもこの場合、イエス・キリストのほうが偉いというのか、その威光に触れて弟子たちも彼らについてきた民衆たちも畏れおののいたという、簡単にいえばそうした場面を描いた絵だろう。キリストは受肉し、今は人間という肉体の器の中にあるが、本質的にというのか、霊魂的には本来であればそのくらい神の子としての圧倒的な御光に包まれているお方なのだ……その姿を垣間見て弟子たちも他の彼を信じた人々も驚いたということだろう」
図書室には、聖書もあればコーランもあり、さらには仏典やウパニシャッド、他にこうした宗教に関する解説書など、色々な本がおいてある。とりあえず一応、『キリストの変容』について新約聖書にある該当箇所を抜粋しておこう。
>>イエスは彼らに言われた。
「まことに、あなたがたに告げます。ここに立っている人々の中には、神の国が力をもって到来しているのを見るまでは、決して死を味わわない者がいます」
それから六日たって、イエスは、ペテロとヤコブとヨハネだけを連れて、高い山に導いて行かれた。そして彼らの目の前で御姿が変わった。
その御衣は、非常に白く光り、世のさらし屋では、とてもできないほどの白さであった。
また、エリヤが、モーセとともに現われ、彼らはイエスと語り合っていた。
すると、ペテロが口出ししてイエスに言った。
「先生。私たちがここにいることは、すばらしいことです。私たちが、幕屋を三つ造ります。あなたのために一つ、モーセのために一つ、エリヤのために一つ」
実のところ、ペテロは言うべきことがわからなかったのである。彼らは恐怖に打たれたのであった。
そのとき雲がわき起こってその人々をおおい、雲の中から、「これは、わたしの愛する子である。彼の言うことを聞きなさい」という声がした。
彼らが急いであたりを見回すと、自分たちといっしょにいるのはイエスだけで、そこにはもはやだれも見えなかった。
さて、山を降りながら、イエスは彼らに、人の子が死人の中からよみがえるときまでは、いま見たことをだれにも話してはならない、と特に命じられた。
そこで彼らは、そのおことばを堅く心に留め、死人の中からよみがえると言われたことはどういう意味かと論じ合った。
(マルコの福音書、第9章1~10節)
「テディ、あんたもしかしてダ・ヴィンチの絵の飾られた部屋にいる割に、死後の天国なんてのを本気で信じてるってわけ?ようするにそれは、ヒューマノイドには霊魂があるかどうかということなのではなくて?イエス・キリストは確かに人間を愛してるかもしれないわよ。でも、限りなく人間に近いヒューマノイドについてはどう?彼らについても教会で信仰告白さえすれば、死後はキリストのいる天国でその魂は憩うことが出来るということなのかしら?」
「さてね」と言って、俺は笑った。確かにそうした意味でもホリスター博士はファイナルアンサーとして答えるべき人物ではあるのかもしれない。「ただ、世界各地でそうした現象があるっていうのはモーガン、あんたもニュースや何かで知ってるだろう?ようするに、世界各地のキリスト教の教会っていうのは信仰者が激減してる。でもまだ信じている少数の人々がいて、日曜礼拝なんかで空いてる席に自分の世話をしてくれるアンドロイドを隣に座らせたりするわけだ。それで、こんなふうに言う。『ご主人さまと教会へ来ると心が清らかな思いで満たされるんです。そして私は神に愛された存在であると感じ、私自身も神を愛しています』なんてね……そんなわけでこのご主人さまはこのアンドロイドを信仰上の兄弟姉妹とみなし、自分が死んだ時には一緒に同じ棺に入れてくれなんて頼むことになるんだね。教会側はアンドロイドに魂があるとまでは公式に明言してないにせよ、信仰者の墓にアンドロイドが一緒に入って永遠の眠りに就くことについては容認してる。もっとも、単に電源をオフにするのではなく、完全に二度と動かないようにされた状態で、火葬の場合は完全に燃やされることになるらしいけど」
「やれやれといったところね。葬儀屋に追加料金としていくら払うのか知らないけど、まあ簡単にいえば宗教と同じく、その人の思想上の問題だものね。だからとやかく言うことは出来ないけど、いよいよ世も末だわねなんて思うのはわたしだけなのかしら?」
「まあ、なんにしても」と、チョコウエハースを齧りながら、俺は考えた。もしランド博士のみが食べる食事の中に、脳の血管がいずれ詰まるような薬剤が混入されていたのだとしたら……俺たちのうち、一体誰が安全だと言い切ることが出来るだろう?「俺が現時点で提供できそうな情報はそんなところだってこと。ちょっとこれから俺、アーサー・ホランド博士と話しにクレイグ・ウェリントン医師のところまで行ってくるわ。もちろん、俺の側に何かあの先生たちと対等に話せるような話題が存在するわけでもないし、自分がふたりに邪魔な存在だと感じたらすぐ退散する結果になるかもしれない。でも、果たして誰が人間そっくりのヒューマノイドなのか……ファイナルアンサーを解答するまでにもう二週間もないんだ。とりあえず、動けそうな時に動いておいて、出来るだけ情報収集するくらいのことはするさ」
「そう。じゃ、隠しカメラのコンタクトと盗聴器、念のためにこっそりつけていったらいいんじゃない?」
俺はモーガンからコンタクトと盗聴器の入ったケースを受け取ると、トイレを借りてそこにあった鏡の前でまずはコンタクトを装着した。それから、どこかくたっとなったポロシャツのボタン部分に盗聴器をつける。
ミカエラには自分の部屋のほうへ戻ってもらった。彼女は一緒に来たがったが、俺は「君がいると気が散るんだ」とはっきり言った。「悪い意味で言うんじゃなくて、君のことが好きだから気が散るんだよ。その結果、ホランド博士に質問すべきことを言い逃したり、クレイグ先生が言った何気ないけど実は重要な言葉を聞き逃したりしたくないんだ」――「だからわざわざ、隠しカメラをつけたりしてお出かけするの?」ここでミカエラは(理解できない)という顔の表情をして、眉をひそめていた。「そうだよ」とだけ俺は答えた。(万一、命の危険があった場合の保険でもある)とまでは言わなかった。
本当は俺は、モーガン・ケリーと捜査に関してどんな話をしているのか、ミカエラには教えたくなかった。フランチェスカとモーガンの間で協定が結ばれ、彼女たちの間でランド博士やロドニーのことが語られるのをミカエラも耳にはしたことだろう。だが、このあたりはやはり俺の人間としての詰めの甘さだった。俺はこの時点でもミカエラには3パーセントくらいは「本物のヒューマノイドかもしれない」可能性があると考えていたのだから、その部分が限りなくゼロパーセントにならない限り、彼女とは適切な距離を取り、時には嫌われてでも冷たい態度を取るべきだったのだろう。
だが、やっぱり俺は彼女のことが好きだった。普段から自分のことを慕ってくれることも嬉しかったし、そうした露骨で、同性からは好かれなさそうなブリッコ的態度についても……時が経つと同時に慣れてきてしまい、普通に(可愛い)としか思わなくなっていたのだ。
けれど、結局俺はどうするのが正しかったのだろう。あとにしてみれば、すべてはわからないことばかりだった。その時点においては「総合的に見て正しい」と判断したことについて、アンドロイドであれば後悔しないのかもしれない。でも俺はただの人間だから、とても後悔した。せっかく友達になったロドニー・ウエストのことだけじゃない。あらゆるすべてのことについて、オカドゥグ島に関わることでは最終的にすべてを後悔することになったのだ。
>>続く。