気象庁は、大雨に関する特別警報の発表基準について「台風や集中豪雨により数十年に一度の降雨量となる大雨が予想され、若しくは、数十年に一度の強度の台風や同程度の温帯低気圧により大雨になると予想される場合」とし、その指標として、市町村ごとの50年に一度の3時間雨量、48時間雨量および土壌雨量指数を示し、府県単位の広がりがある場合に発令することとしているようである。
水文統計的集中豪雨の定義に従えば、大規模台風のエネルギーは大きいので、雨域の面的広がりの小さい方が当該地域の面的集中度が高い、より危険側にあると判断される。以下にその論拠の概要を示す。
図1は、さまざまな大気現象を時間と空間スケールの座標上に位置づけたもので、大気現象が時間と空間座標に対して単調増加の関係にあることが示唆されている(日本気象学会教育と普及委員会:教養の気象学、朝倉書店、p.57、9801)。
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図1 大気中の代表的な現象の水平スケール(L)と時
間スケール(T)をまとめた図
「図中でLT-2=gより下の部分は現象の加速度が地球の及ぼす重力加速度gより大きい領域を示す。左上のL2T-1=分子粘性の線より上の部分は、現象の加速度が分子粘性の及ぼす加速度より小さい領域を示す。大気中の気象現象はこれら二つの領域の中間に位置し、ほぼT∝L2/3の線の付近に分布することがわかる。なお、この図はFortag、Ooyamaによる図をもとに作成した。」
松田らは、集中豪雨を水文統計的に解析し、結合規模指標と呼んでいる水文量を提案している。この水文量を導く詳細は文献(松田誠祐:集中豪雨へのアプローチ、高知新聞総合出版、2011)に譲り、大雨の特別警報に関連する部分のみを示す。
図2は、結合規模指標を横軸にとり、雨水排除ポンプの稼働時間(ポンプはフル稼働するものと見做して継続時間で表す)を縦軸にとっている。都市雨水排除ポンプの排水能力はmm/hで与えられているので、排水ポンプの稼働結果はハイエトグラフのように与えられる。これを用いて計算される結合規模指標が任意の結合規模指標と等しくなるように継続時間を計算してプロットすると、継続時間と結合規模指標が単調増加の関係に導かれる。当然であるが、ポンプの排水能力が大きくなると継続時間は短くなっている。
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図-2 ξ(R24hR1h)R10d(結合規模指標)と一定の基
準R1h<o:p></o:p>に対する等価指標を構成する継続時間の
関係
図2から、結合規模指標が500mmに対応する継続時間を読み取り、縦軸に継続時間、横軸にポンプの能力mm/hを取ると図3が得られる。図3から、台風の勢力が衰えていない状況、すなわち結合規模指標が一定の値を維持している状況では、継続時間が短いとき雨の強度は強いことがわかる。
図1から、大気中の気象現象は時間軸と空間軸の中間に表されるので、図3の縦軸を時間軸から空間軸に置き換えても、数値は変るが傾向は変らないはずである。すなわち台風の勢力が維持されていれば、雨域が狭いということは当該地域の降雨強度は強くなっていると判断できる。
図3 結合規模指標一定(=500mm)におけるポンプ
能力(降雨強度)<o:p></o:p>と継続時間の関係
大規模気象現象は小規模現象を内包し、面的・時間的集中と広がりを繰り返しながら移動している。