サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

気候変動リスクへの順応型管理

2013年07月15日 | 気候変動適応

 気候変動(地球温暖化)への適応策、さらには持続可能な地域づくりに関する議論の機会を経ることに、長期的なリスクに対する優先順位の低さと、予測できるけど確実なところはわからない(不確実性が高い)将来リスクに対する対策手法の不十分さを感じる。

 

 長期的なリスクに対する優先順位の低さは、将来と現在を比較したときに現在のウエイトを高くして評価するためである。経済学では、将来価値を現在価値として評価する際、将来価値に割引率を乗じて、現在価値に割り戻して考える。この考え方は、貨幣には利子があり、将来の貨幣価値は利子分を割り引いて、現在価値になるというものである。

 

 さらに、長期的なリスクの程度が不確実である場合、不確実性が高いほど、それへの対策は優先順位が低くなる。これは、対策をそもそも実行する必要性、あるいは対策を実施することで得られる効果の期待値が、不確実性が高いほど低くなるためである。期待値は、結果×発生確率で求めれるためである。

 

 つまり、(長期的な)気候変動への適応策は、気候変動の影響としてのダメージの大きさの絶対値の大小だけでなく、それが長期的な影響であること、さらに長期的な影響の予測での不確実性が高いために、優先順位が低くなりがちである。しかし、現在価値の期待値を評価規準としてみて、長期的リスクへの対策の優先順位が低いからといって、何もしなくていいわけではない。そこで、短期的なリスクで優先順位が高いことに対する対策と長期的なリスクで現在規準では優先順位が低いことへの対策を同じ手法で行うのではなく、長期的なリスクに対する別の対策手法を導入すべきである。

 

 その別の対策手法が、「順応型管理」である。「順応型管理」について、EICの環境用語辞典では次のように説明する。

 

「不確実性を伴う対象を取り扱うための考え方・システムで、特に野生生物や生態系の保護管理に用いられる。アダプティブマネジメント(英語のカタカナ読み)または適応的管理と言われる場合もある。例えば、野生生物保護管理の対象は、(1)基本的な情報が得られない不確実な系であり、(2)絶えず変動し得る非定常系であり、(3)境界がはっきりしない解放系である。そのため、当初の予測がはずれる事態が起こり得ることを、あらかじめ管理システムに組み込み、常にモニタリングを行いながらその結果に合わせて対応を変えるフィードバック管理(順応性)が必須となる。また、施策は多くの場合リスクを伴うので、その説明責任を果たす義務も必要となる。順応性と説明責任を備えた管理を順応的管理と言うが、その実施にあたっては合意形成の努力も必要となる。この概念は「新・生物多様性国家戦略(2002年3月)」のなかにも自然と共生する社会を築くための理念のひとつとして盛り込まれている。」

 

 上記の説明では、自然保護の分野に限定しているが、 「順応的管理」はもともと水産資源学にも応用されている。海洋生態系に対する科学の成果は断y的であり、漁業資源の変動予測は不確実性が高い。そこで、水産資源に対してモニタリングを行いながら、漁獲量を調整する順応型管理の方法が検討されている(→参考資料)。 「順応的管理」は著名な生態学者Crawford Hollingによって提唱され、水産学者のCarl Waltersなどが水産資源管理理論に適用し、発展してきたのである。

 

 この「順応型管理」の方法を、気候変動の長期リスクへの対策にも導入し、具体化することが必要である。水産資源管理の研究者である松田裕之先生の講演資料(→参考資料)を参考にして、気候変動の長期リスクへの対策における「順応型管理」の視点を列挙してみる。

 

■気候変動の将来影響予測を行うことは不確実性を持ちつつも可能である。この予測に基づき、複数の影響シナリオ(最悪のケースを含む)を想定して、それを前提にして、各シナリオに対応して、現在及び短期的に実施すべき対策の具体化と実行、長期的に実施すべき対策を整理・計画を行う。

 

■長期的影響を見通して実施する対策(耐久性の高いインフラ整備への適応の盛り込みなど)において、気候変動の現象や関連する研究成果を継続的に監視する検証(順応型学習)を行い、状態変化に応じて方策を変える(フィードバック制御)。

 

■この際、「状態変化に応じて方策を変えるといっても、その変え方を予め「アルゴリズム」の形で決めておくこと」が重要である。「状況に応じて臨機応変に方策を(後から)変える」というのは”似非”順応型管理であり、最もしてはならないことである。」。状況を判断する評価指標(ベンチマーク)を定めておき、その評価指標により、見直しを図る手順と方法を決めておく。 

 

■気候変動リスクへの対策は、状況変化に応じて見直すことがあることを前提に、可変性や追加性の高いものとする。また、想定した事態が起こらない場合にも後悔しないように、気候変動リスク以外にも副次的な効果があるような対策を優先する。

 

■対策の実行においては、時間の進展ともに担当者が変わる。担当者が変わっても、当初の計画や見直しの過程が理解できるように、説明できる記録を残す。また、これらのことをさまざまな利害関係者とともに合意を図り、信頼関係を築くようにする。

 

参考資料:

  勝川俊雄 公式サイト   http://katukawa.com/

  「順応的管理の考え方」松田裕之  http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2006/060912RFC.html

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