サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

エコライフの普及と意識・行動モデル

2007年11月26日 | 環境の算術
エコライフの普及に向けて

 国民全般的に環境配慮意識が高まってきている。しかし、世帯数が増えていたり、新たな家電製品が普及している状況では、生活の工夫だけでは簡単に環境負荷が削減するわけではない。

 一方、環境配慮意識が高くとくも、まだまだ環境配慮行動の実施率が低く、意識と行動の乖離が大きい。また、環境配慮意識が高いといっても、アンケートの自己評価であり、本当に意識が高いわけではないともいえる。建前好きで見栄っ張りの日本人ならなおのこと。

 本稿では、環境配慮意識と行動を規定する意識・行動モデルを紹介し、環境配慮意識を高め、行動を促すための情報提供の意義を整理する。そして、この連載で手がけてきた定量的な情報提供が、環境配慮に係る意識形成と行動促進に有効であることを説明する。

 
環境配慮意識・行動モデル

 環境心理学という学問分野がある。環境経済学、環境社会学、環境倫理学等、環境問題解決のための学際的アプローチの一つであり、特に環境認知、環境行動等が研究テーマとなる。

 代表的な環境心理学のモデルでは、環境配慮行動の実施にいたるプロセスを二つに分けている。一つは「合理的な行動選択」である。

 「合理的な行動選択」では、行動の必要性を認識し、自らが行動を抽出・評価し、選択的に実施する。

 もう一つは、「感覚的な行動選択」である。なんとなく、みんながやっているから、楽しそうだから、などというのがこの「感覚的な行動選択」である。もちろん、

 人の思考は、合理的か感覚的な二者択一でなく、合理的とはいっても考えがそう深くはない場合、思い込みの合理的などもあり、程度の違いではあろう。

 「合理的な行動選択」と「感覚的な行動選択」のどちらがいいのだろうか。極端に言えば、無意識に行動が実施されていればそれでいいのではないかという声もある。

 しかし、筆者は、一人ひとりの自律性や思考を重視したい。環境問題の解決行動が実施されていればいいのではなく、それに加えて、自律的に生活する充足感をもった暮らしを目標としたい。

 さて、「合理的な行動選択」は、「内的なプロセス」と「外的な要因」に規定される。「内的なプロセス」は、「問題認知」と「行動評価」の二つの側面で規定される。

 「問題認知」は、さらに三つの側面に分けられる。

  「環境リスク認知」(環境問題の深刻さの認知、危機感といってよい)
  「責任帰属認知」(つまり自分も加害者ということを知ること)
  「対処有効性認知」(行動による問題解決の可能性の認知)である。

 「行動評価」も、さらに三つの側面に分けられる。

  「行動の実行可能性」(実行が容易かどうか)
  「便益費用評価」(行動の実施により、どれだけ効果があるのか、
           どれだけ費用がかかるのか)
  「社会的規範評価」(社会全体としてその行動が当たり前になってきている
            かどうか、他の人も行っているかどうか)

 「外的な要因」とは、例えば普及しやすいような環境配慮商品が開発・販売されているかなどといった行動を成立させる条件の形成状況のことである。

 例えば、廃棄物の量を富士山や名古屋ドームに換算すると何杯分かという換算し、その量を実感してもらうという展示を行ったことがある。

 これは問題の大きさを身近に感じてもらうための換算であり、「環境リスク認知」を手助けする。さらに、「家庭生活で排出する廃棄物の量は?」、あるいは「一世帯で年間に排出される廃棄物の量は?」などという生活者の影響に係る換算情報は、「責任帰属認知」を高める。

 また、どのような行動をどれだけ行えば、どれだけの効果があるか、そうした具体的で定量的な情報提供は、「行動評価」の手助けとなる。

 以上のように、環境配慮意識・行動モデル等の理論に基づき、効果的に情報提供を行うことが望まれる。信頼性できない情報の無駄な氾濫は避けるべきである。


エコライフの行動評価

 愛知県が、平成16年に「家庭の資源&ごみフロー作成」という事業を行った。

 東京在住ながら、たまたま出張で県庁を訪問し、その事業を知った筆者は、飛び入りで被験者となった。毎日、家庭のごみを計量し、改善努力による効果を計ろうというものであった。

 筆者の興味半分での参加であったが、計量の労を担った妻には不評であった。妻に言わせれば、もともとごみがでないようにしているのだから、改善努力の余地はないとのこと。事実、改善努力をしたあと、たまたまキャベツを刻んだようで、ごみの量
が増えてしまった。せめて、この事業の報告書をネタにさせてもらおう。

 この事業には約500世帯が参加した。参加世帯のデータでは、食品の購入量は1人1日1,310グラムである。このうち、どれだけがごみになっているのか。

 まず、生ごみの発生量は1人1日136グラムである。これは、茶碗のご飯2杯弱に相当する。生ごみの内訳では、調理くず14グラム、賞味期限切れ7グラム、食べ残し15グラムである。調理くずは、野菜くずや果物の皮が多い。

 また、食品に関連した容器包装ごみの発生量は1人1日80グラムと計量されている。トレー、ラップなどのプラスチック類23グラム、紙袋11グラムである。

 生ごみと容器包装ごみをあわせると216グラム。食品の購入量1,310グラムの6分の1がごみになっているという計算である。


 では、このごみをどれだけ減らすことができるのか。この事業では、冷蔵庫の在庫のチェックで食品の購入量が15%減少し、生ごみも約8%減少したという結果を得ている。

 また、エコクッキングの実施により、生ごみが8%減少している。特に賞味期限切れの生ごみの減少率が高い。特に、小分けの切ってある野菜を買う、できるだけ手作りして不要なものは買わないなど、買い物方法に気をつけた世帯で減少率が最も高かったようである。

 さらにばら売りやはかり売り製品の利用の心がけで、容器包装ごみが10%減少している。

 以上のように、私たちは物を買うとき、ごみも一緒に購入している。重さ換算では購入したものの六分の一はごみを購入している。このごみの量は様々な工夫で一定程度は減少できる。

 こうした数字を知ることは、環境配慮意識・行動モデルにいう「合理的な行動選択」を手助けすることなる。様々な実験等の結果、得られた数字を皆で共有することが大切である。

 また、この事業に参加した被験者は、エコクッキング等の行動が実行容易であると感じ、有効であると身をもって知る。数字を頭で知るだけでなく、それを実行し、経験してみることで、「問題認知」や「行動評価」がますます高まるのである。
数字の共有、実行による数字の実感等を進めていくことが、エコライフの普及の鍵となる。

 環境問題の深刻さ、一人ひとりの行動の必要性、エコライフの効果など、紹介したい数字や簡単な数学の例は沢山ある。またの機会に紹介したい。公式を覚えるのではなく、問題集を解くのでもない。より多くの人が生活の中での「環境の算術」を実践する社会になればと願う。

(白井信雄:2005年9月)
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