サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

100人の日本村の住民たち

2008年01月30日 | 環境の算術
 2001年の秋頃、メール上で「100人の地球村」が爆発的に広がった。「57人のアジア人、21人のヨーロッパ人・・」云々で始まるメールを受け取った方も多いだろう。私は、友人からこのメールを受け取った時、いい話のようだが、送り主は何かストレスで疲れているのだろうかと心配した。

 その後、このメッセージは、ローマクラブで有名なメドウズ氏の配偶者が原作であること、それをもとに1992年のブラジル地球環境サミットの際に「1000人の地球村」というポスターが5万部、刷られたことを知った。

 地球を1000人に圧縮することで問題をより身近に感じられるという訳だったが、さらに数年後に喩え話は100人に圧縮され、環境NGOを介して、世界に広がった。

 このメッセージは、先進国の一部の人が地球の富を享受し、一方で多くの人が貧困や病気に苦しんでいるという、いわゆる南北問題を目に見える形にしたものであった。その流布過程は、都市幻想、インターネットの同時爆発性等の観点からも興味深い。
 
 さて、この少し前の流行を持ち出したのは、100人の村に置き換えることで、もっと違うメッセージも伝えられるのでないかと気づいたためである。かなり遅れての便乗である。

100人の日本村の環境配慮度
 
 日本にはどんな人達が住んでいるのだろうか。次のように例えられる。 

  日本人だけの100人の村がある。
  82人が、地球温暖化問題に関心を持っている。
  95人が、環境のために自分のできることをすべきと考えている。 
  そして、
  85人が、エコドライブ(環境に配慮したの運転)に気をつけている。
  69人が、日常生活で節電に気をつけている。

 このデータは、環境省の「環境にやさしいライフスタイル実態調査」(平成15年度)に基づいている。

 さて、この村は環境配慮に熱心な人たちの集まりである。しかし、おかしなことがある。こんなに熱心な人が多いのに、この村では二酸化炭素の排出量が増え続けている。この村の二酸化炭素排出量は、1人当たり9.84トン/年(2003年速報値)だから、100人で98.4トンである。1990年には90.8ン/年だから、8.4%も増加している。

 特に、自動車の運転や家庭での電力消費等で排出される二酸化炭素の量が増えている。エコドライブや節電をしているのに、なぜ増えているのだろうか。ヒントは次のことにある。

  日本人だけの100人の村では、
  87人がルームエアコンを持っている。20年前には52人しか持っていなかった。
  65人が、パソコンを持っている。
  5年前には39人、10年前には16人しか持っていなかった。 
  そして、26人が乾燥機を、22人が食器洗い機を持っている(注1)。
 
 つまり、生活の便利さを求め、また働く女性を支えるための家事の効率化などから、電化製品の保有が増えている。これでは、いくら節電等に気をつけたからといって、二酸化炭素の排出が増えるわけである。また、同じ製品でも大型化が進んでいるといわれる。大型の冷蔵庫、大型の自動車等がその例である。

次のような居住形態の変化も、二酸化炭素の排出量を増やしている。

  日本人だけの100人の村の世帯数は37世帯。
  10年前は33世帯。20年前は31世帯だった。

 1人当たりの二酸化炭素排出量は、2人世帯の場合に対し、単独世帯は5割近く多いという数字がある。つまり、人口が同じでも、少人数の世帯(住宅)が増えると二酸化炭素の排出量が増えるという訳である。

環境商品の普及度
 
  日本人だけの100人の村がある。
  1年間に12万円分の紙を生産している。数量にして900キログラム。
  このうち、エコマーク付商品は150キログラム。17%に過ぎない。
  1年間に7万円分の学生服を生産している。数量にして14枚。
  このうち、エコマーク付商品は0.3枚、2%に過ぎない。
  1年間に3.4万円分のボールペンを生産している。
  このうち、エコマーク付商品は9%に過ぎない(注2)。 

 100人の日本村には、環境配慮に熱心な人たちが住んでいるのに、エコマーク付商品の普及には余地が大きい。
 エコマーク付商品=環境商品というわけではないが、環境商品の普及には障害があるようである。
 普及の阻害要因は、売れる環境商品が製造されていないためである。環境配慮に熱心だからと言って、価格が高い商品は購入されない。質や品揃えが不十分であれば、商品は消費されない。
 エコマーク付商品について言えば、企業や行政等といった大口市場が優先されて商品が開発されており、一般消費者の小口市場は十分に対象とされていない。ボールペンで言えば、ラメ入りのような、お洒落な商品でなければ、環境配慮で差別化していても売れない。

次のような数字もある。

  日本人だけの100人の村がある。
  58台の車がある。そのうち、43台が乗用車である。
  このうち、ハイブリッド自動車は人気があるが0.1台。高嶺の花である。
  ガソリンや経由以外の自動車では、天然ガス自動車の普及が著しいが、
  0.01台に過ぎない(注3)。 

さて、結論。

 100人の日本村は環境配慮に熱心な人が住んでいるが、この村に2つの弱点がある。
 1つは、家電製品に頼る便利な生活を求め続けており、二酸化炭素の排出量は増え続けていること。本当に二酸化炭素の排出量を減らそうとするなら、便利な生活に感謝して、今以上に節電やエコドライブの実行が求められる。
 2つめは、100人の日本村では、環境商品の市場シェアがまだまだ低いこと。製造業は、消費者の環境配慮が建前に過ぎず、環境商品は売れない、と責任転嫁をせずに、売れる環境配慮商品を開発することが求められる。
 モノに依存する暮らしだからこそ、モノの使い方を工夫するだけでは不十分であり、モノの購入・所有を見直すことが求められる。

注1)経済企画庁「家計消費の動向」より。
注2)日本環境協会エコマーク事務局の市場調査結果報告書より
注3)自動車工業会及び日本ガス協会資料より

(白井信雄:2005年5月)
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