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地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

環境新聞連載:「再生可能エネルギーと地域再生」より、23回目:カーボンフリーアイランドを目指す韓国済州島(1)

2018年06月13日 | 再生可能エネルギーによる地域づくり

今回から、韓国の済州島におけるカーボンフリーアイランドを目指す取組みを紹介する。済州島は、韓国の半島南側約90km離れたところに位置する。韓国の島の中で、面積1,845km2、人口55万人、いずれも最大である。東西70㎞、南北35㎞、東西が長い楕円形の島で、真ん中に標高1,950mの漢拏山(ハルラサン)がある。

風、石、女性が多いいことから、三多島(サムダド)という別名がある。風は特に東西両端で強く、風力発電に適している。石は火山でできた島であるためで、風で土が飛ばないように石垣で農地を囲む風景がみられる。女性の多さは、台風等の自然災害や、漁労での遭難等により、男性の死亡率が高かったことに由来している

済州島における再生可能エネルギーへの取り組みの特徴は3点である。第1に、2030年にカーボンフリーアイランドを目指すというロードマップを作成し、官民あげて取り組みを進めており、目標と手順が明確に示されている。第2に済州島本島のカーボンフリーアイランド化に先駆け、南に位置する加波島(カパド)でのモデル事業を実施し、実証のうえで本島への展開を図ってきた。第3に、風力発電への住民の反対運動もあったなか、発電収益の地域還元の仕組みが整備されてきた。

済州島における取組の経緯を表1に示す。取組みの流れと特徴的な点を紹介する。

 

●2030年のカーボンフリーアイランドを目指すロードマップ

済州島は、風力資源に恵まれた土地であり、古くより風力発電の設置が図られてきた。特に、1998年のヘンウォン地域でのウインドパーク地の建設から始まり、2000年代に入って、大企業による風力発電事業が活発化した。

カーボンフリーアイランド構想の契機は、2009年2月のグリーン成長委員会の「低炭素グリーン成長の推進方策」第1回会議で済州島をカーボンニュートラル都市に造成するという計画が提案、議論されたことによる。気候変動対策を通じた経済発展を重視する勧告政府が、済州島をフロントランナーに指名したのである。 

その後、済州地方政府は、2013年を再生可能エネルギー政策の元年とし、2030年に済州カーボンフリーアイランドを実現するためのロードマップを発表した。済州カーボンフリーアイランドは、スマートグリッド、電気自動車、再生可能エネルギーの導入を包括し、エネルギー、輸送、電力系統分野において、ビッグデータなどの融合を試みるものである。ロードマップは3段階である(表2)。第1段階(2017年まで)では加波島モデル事業を実施、第2段階(2020年まで)では、再生可能エネルギーによって一次エネルギーの50%を代替する。第3段階(2030年まで)は、附属の60カ島を含めて 済州地域の1次エネルギーの100%を再生エネルギーにするという計画である。この達成により、発電所の構築と維持するための年間1億4000万ドルのコストを削減し、電力の分野から温室効果ガスの排出量の約90%を削減、5万件以上の雇用が関連業界で創出されると目論んでいる。

なお、2030年において目指す再生可能エネルギーの構成比率は、発電量のうちの51%が風力、14%が太陽光、33%が燃料電池、その他が地熱、海洋、バイオマスである。

 

●加波島におけるモデル事業

加波島は済州島本島と韓国最南端の馬羅島(マラド)の間に位置する。面積は0.84㎢であり、約130世帯、300人が居住する。加波島は本島とは独立した電力系統であるため、農漁村電気供給事業促進法に基づいて150kwディーゼル発電機3台を介して住宅用、教育、産業用(淡水化設備)等により電力を供給してきた。

この加波島がカーボンフリーアイランドのテストベッドになった。済州地方政府は2009年加波島をカーボンゼロの島にする計画を発表し、ディーゼル発電機は非常用としてのみ使用し、風力発電機、太陽光発電と蓄電池を利用した再生可能エネルギー自給島を目指している。

2011年には、「加波島カーボンゼロ島構築事業」の推進のために、地方政府の産業部主導により、韓国電力公社、韓国南部発電(株)等の国内外企業が共同するための業務協約が締結された。これらの企業の技術を導入し、風力発電、太陽光発電、エネルギー貯蔵システムで構成されるスマートグリッドが構築された。総事業費143億ウォン(約14億円)はほとんどを地方政府が負担した。2012年には、風力発電事業による共同事業収益金3700万ウォンのうち、合計2800万ウォンが加波島居住住民90世帯(各30万ウォン)に分配された。

現在、加波島住民178人が使用する電気は、250kW級風力発電機2基と家ごとに設置された3kW級の太陽光発電、3.86MWh規模のESSにより供給されている。島の中央にあるマイクログリッドオペレーションセンターが、太陽光及び風力発電の現状と電力供給状況をリアルタイムでチェックし、制御する。現在、加波島の年間平均エネルギー自立度は約54%となっている。

このモデル事業に参加した韓国電力公社済州地域の担当によれば、加波島住民への説明会の際、最初は理解を得られなく、住民としての利益について聞かれたが、観光客の増加やそれによる付加利益の可能性等について説明したという。

 

以上の記述は、地球環境戦略機関の昔宣希氏と共同で実施した現地調査による。次回は、済州島における地域産業や地域住民の動きを紹介する。

 

表1 済州島におけるカーボンフリーアイランドに係る取組み

第1段階

風力発電事業の開始

1975年 韓国初の風力発電機(3kW)の設置

1998年~2005年 韓国初のウインドパークの整備(ヘンウォン地域)

第2段階

カーボンフリーアイランドの計画立ち上げ

2008年 既存の発電所と風力、太陽光などの再生可能エネルギーを接続するサプライチェーン構築実験を開始

2009年 グリーン成長委員会の「低炭素グリーン成長の推進方策」第1回会議で済州島をカーボンニュートラル都市に造成するという計画が提案

2009年 済州地方政府が加波島をカーボンゼロにする計画を発表

2011年 全国電気自動車普及モデル10都市に指定

2011年 「加波島炭素ゼロ島構築事業」の推進のために、韓国電力公社、韓国南部発電(株)等の国内外の企業共同により「加波島カーボンフリー事業」に関する業務協約

2012年 風力資源の風を公共資源として開発、管理する主体として、「済州エネルギー公社」設立

2013年 再生可能エネルギー政策元年とし、2030年「済州カーボンフリーアイランド(Carbon Free Island Jeju by2030)」のロードマップを発表

2013年 スマートグリッド実証団地の造成事業を本格的に開始

第3段階

行政投資と住民参加

2015年 行政主導の「風力発電開発投資活性化計画」を発表

2016年 太陽光発電の普及計画発表

2016年 「風力資源の共有化基金条例」の制定

 

表2 済州島のカーボンフリーアイランドのロードマップ

 

第1段階

(2017年まで)

第2段階

(2020年まで)

第3段階

(2030年まで)

スマートグリッド

・スマートグリッド普及と産業振興の推進

・全島をスマートグリッド化

 

再生可能エネルギー(RE)

・風力を段階的整備、REの電源比率24%を実現

・REの電源比率50%を実現

・4300MWの設備を整備、REの電源比率100%

電気自動車(EV)

・公共部門を中心に、10%(2万9千台)をEVに切り替え

・バスとレンタカーを含めて40%(9万4千台)を切り替え

・EV普及率100%(37万1千台)

 

 

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