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地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

環境新聞連載:「再生可能エネルギーと地域再生」より、19回目:にかほ市の再生可能エネルギーと地域づくり(1)

2018年02月01日 | 再生可能エネルギーによる地域づくり

にかほ市は、秋田県南部の日本海沿岸に位置に位置する鳥海山の麓にあり、豊かな景観と自然資源に恵まれた街である。人口2万7千人、TDK(株)が立地する製造業が活発な地域であった。しかし、近年では地理条件、人口集積の少なさ等から、雇用の場をつくることが重要な課題となっている。一方、再生可能エネルギーの面では、風況条件やまとまった遊休用地があるという点で恵まれた条件がある。

 

●風車を契機にした生産地と消費地の関係形成と地元企業の活発化

にかほ市では、2001年に電源開発による仁賀保高原への風車が15基設置された。さらに、経済産業省のウィンドヒルズ構想があり、2011年にも仁賀保高原に電源開発の風車が建てられた。2012年にFITが運用開始となり、地元事業者と外部資本の大企業の両方による風車あるいはメガソーラーの設置が活発化した。再生可能エネルギーによる地域づくりは2つの側面がある。

1つめは、外部事業者である生活クラブ生協(以下、生協)の風車を契機にした生産地・消費地の関係形成がなされている。住民にとって、風車やメガソーラーの立地は、景観等のマイナス面があり、それを土地の賃料が入るという経済面のプラス面が上まわることで受容されるに留まってきた。しかし、生活クラブ生協の風車を契機に、生活クラブ生協と地域住民の関係が形成され、特産品の産直提携という顔の見える関係性という付加価値を持つ経済事業が創出されてきた。

2つめは、再生可能エネルギー関連のコミュニティ・ビジネスの活性化がみられる。生活クラブ生協の風車による都市との交流だけに留まらない。地元の企業のなかでは、各企業の強みを活かし、再生可能エネルギー事業の経験を積んで、新たな事業創出を図ろうという動きがある。

 

●生活クラブ生協神奈川の40周年事業

生活クラブ生協神奈川(以下、生協神奈川)の側から、にかほ市の風車事業の経緯をとりあげる。

生協神奈川は2011年が40周年であった。20周年では全国の生協で初めて社会福祉法人を設立し特別養護老人ホームを作ったように、記念式典ではなく、将来を見越した事業を検討していた。食と環境とエネルギーと福祉をテーマにした事業を検討した結果、エネルギー関係の事業をすることになった。

もともと生協は、プラスチックを使わない、リターナブル瓶を使う、省エネ活動を行うという取組を進めてきたが、省エネだけではなく創エネルギーもしようと検討した。そして、風車が目に見え、一番分かりやすいため、創エネルギーの中でも風車が選ばれた。

既に、生活クラブ生協北海道がNPO北海道グリーンファンド(以下、北海道グリーンファンド)を設立し、日本で初めて市民出資で風車を建てていた。そこで、生協神奈川は北海道の生協に相談した。規模の大きい事業であったため、生協神奈川だけでなく、首都圏における東京、千葉、埼玉にも声をかけ、4つの生協と北海道グリーンファンドの協力により取り組むこととした。

最初は千葉での設置を検討したが、風況が不十分で採算が取れないために諦めた。そこに、北海道グリーンファンドがにかほ市で開発調査をしていた土地を紹介してくれた。北海道グリーンファンドが生み出した㈱市民風力発電が風車用地として確保していたところの1つが、にかほ市の土地であった。

協同組合としては、組合員の参加が不可欠であり、風車設置にあたっても学習会を行い、総代会でも検討した。「なんで食品以外の事業をやるのか」、「低周波やバードストライク等の問題があるのではないか?」という反対意見もあった。しかし、東日本大震災が起きてから、空気がガラッと変わった。「なぜ秋田なのか、遠いじゃないか」という意見もあった。「遠くで発電された電気が首都圏に送られるのだから、事故のあった福島原発と同じ構図じゃないか」という声もあり、その声を受けて「地域に資する風車」をめざすことを方針とし、市と協議しながら地域間連携をしていくことになった。

風車の名前は、にかほ市の小学生に募集して、約300案からにかほ市側で10案に絞り、その10案を首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)の生協の組合員に投票してもらって「夢風」になった。

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