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地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

環境新聞連載:「再生可能エネルギーと地域再生」より、18回目:郡上市石徹白地区の再生可能エネルギーと地域づくり(2)

2018年01月08日 | 再生可能エネルギーによる地域づくり

前回は、岐阜県郡上市石徹白地区における「小水力の実証実験」(第1段階)の動きを紹介した。今回は、「地域づくりとしての小水力事業の始動」(第2段階)、地域主導の小水力事業の本格展開(第3段階)を紹介する。

 

●「NPO 法人地域再生機構」による小水力発電事業の調査

2008年、「NPO法人地域再生機構」(地域再生機構)が環境省のコミュニティファンドに関する調査事業に採択され、石徹白の候補地調査が実施された。この調査事業は地域でのソーシャルビジネスとそれを支援するコミュニティファンドを同時に立ち上げる調査事業で、全国5地域のうちの1つとして採択された。

調査では、長野や山梨など、行政で導入した水力発電の見学に行ったが、事業性のある発電所を作るには億単位の投資がかかり困難であるという声があるなか、「小さなことから導入して、石徹白にとってプラスになれば、大きなものを導入できるかもしれない」という意見があり、小さなものをなるべく公的な役割をするものとして、導入していこうという結論になった。

 

●JST事業による小水力発電導入と地域主体形成

地域再生機構は、2009年から科学技術振興機構(略称:JST)の社会技術の研究開発を行う事業である「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」の採択を受け、2つの螺旋型水車と1つの上掛け水車を設置した。同事業は、小水力発電の導入とともに地域主体形成を重視するもので、「地域が主体的解決能力を発揮できるメカニズムの創出」を目指すというこだわりをもつものであった。

同事業の報告書では次のように記している。

「地域主体形成に関しては、当初は、「小水力発電の導入」を軸に、地域主体の形成を検討していた。しかしプロジェクトを進めていくにつれ、地域の人たちの課題認識は、「温暖化対策」「エネルギー問題」ではなく、「過疎化」にあることがわかった。地域の人が最優先課題と考えることに触れずして、自分達の研究テーマを推し進めるのは、研究者のエゴである。」

「地域の課題に寄り添いながら、地域の中で主体的に活動を行う人を増やしていく。小さな成功体験を積み重ねていく。その中に、小水力発電があり、小水力発電が地域をよりよくしていくためのシンボルとなれば、そのとき、小水力発電の導入主体としての地域主体形成が形成される。」

この事業では、2つの螺旋型水車により、戸別利用型の小水力発電の運用・制御、螺旋型小水力発電の技術開発について目途をつけ、次に上掛け水車を設置した。同水車の技術開発を行うとともに、電気を食品加工場で利用することが狙いとされた。

当時休眠していた農産物加工所を復活させたいと当時の自治会長が言っていたこともあり、復活させるきっかけに利用することにした。食品加工施設は赤字がふくらみ、10年ほど休眠状態であった。上掛け水車の設置に伴い、加工所を再生し、特産品を作って、再稼働となった。

 

●県と市による小水力の可能性調査と石徹白への提案

2011年・2012年と、岐阜県農地整備課が県内の水力発電の可能性調査を実施した。これにより、20kW以上の可能地で採算が取れそうな場所というところで、郡上市内の4箇所が選ばれた。続く2013年・2014年、郡上市は「小水力発電調査研究会」を設置し、市内の小水力発電の候補地を調査した。

2013年2月に、岐阜県庁が用水路を使って発電所を作りたいと石徹白の自治会に提案した。2011年度の農地整備課による県内の水力発電の可能地調査の際、石徹白の調査も行っており、そのうえでの提案であった。県の提案は、国50%、県25%、市25%と資金を負担し、事業主体は郡上市、出力63kw、売電費は郡上市全体の農業振興とか農業用水の改修に使用する、石徹白には管理料が支払われるというものであった。

 

●地域のためになる地域主導の小水力事業へ

県の提案に対して、地域からは、「地域のためにならない発電所ならやめよう」という声もあった。なんとか、地域にお金が還元できるような発電所ができないかと、県と相談をはじめた。

地元で100%資金を出して整備すると、発電所のために上流1.6kmの水路を改修しなくてはならず、採算性が悪くなる。考えたあげく、2つ発電所を作ろうというアイディアが出てきた。ひとつは県の提案するもの、もうひとつは地元で出資するものである。上流1.6kmは農業用水として県が改修し、発電所用に用水を引き込むところまでを地元で負担すればいいと提案した。しかし、上流1.6kmは、両方で負担することとなり、採算を厳しい。このため、県に相談を続け、県が地元のために水力発電作るのに新しい制度をつくることになった。

こうして、県55%、市20%、地元25%で負担する「小水力発電活用支援事業(県単補助)」が創設された。農協あるいは農業関連の団体を設立して地元の事業主体となり、売電収益の回収は土地改良施設維持管理だけでなく、地元公民館や6次産業化にも利用できるという自由度が高いものであった。この県単補助は、農水省補助事業ではできないことに補助するもので、県が本当の意味で地域のためになるようにつくってくれた制度である。

 

●発電のための農協設立に向けた発起人会

平野氏は、かつては農山漁村電気促進法により、“電化農協”という発電しかやっていない農協があり、農協を一つの選択肢として考えていた。県が農林水産省に問い合わせところ、農協の認可は県がやるので、県で判断してくださいと言われた。農協法上、発電という事業は読み取れないという課題もあったが、農業水利施設の維持管理として、発電を含めるという形で話がついた。

自治会では、上村氏を中心に発起人会を全世帯によびかけ、17人で発起人会を作り、2013年前半の半年間、視察やリスクやその対応を議論した。平野氏は、発起人会の様子を次のようにいう。

「集落が残るためにどうするか。とにかくやれることはやろう。上手くいくかはわからないけれど、その方が面白いではないかというのは、上村氏の考えにあった。昔は農業用水や発電所など、みんなで何かやっていた。ひとつの目標に向かってなにかをやる、そのきっかけに非常にいいだろう。発起人会、理事のメンバーはいつもそう言っていた。」 

 

●全戸出資による発電のための農協設立へ

「せっかくなら、地域全戸出資でないと」と全世帯に話をして出資を呼びかけ、2014年4月1日に103人が出資する「石徹白農業用水農業協同組合」が設立された。実施設計や建設を同農協で発注し、2015年6月に郡上市所有「石徹白清流発電所」が稼働したのに続き、2016年6月に農協所有「石徹白番場清流発電所」が稼働に至った。

農協所有の発電所の施設整備2億4,000万円のうち協同組合が6,800万円を負担する。その内訳は2,800万円が地域住民からの出資、残りの4,000万円は日本政策金融公庫からの融資である。売電収入は稼働率60%で、年間2,000万円が入ると予定されている。

 

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