サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

地域における気候変動適応のための主体形成と関係形成

2014年11月09日 | 気候変動適応

気候変動の適応策を地域で進めるためには、適応策の開発と普及の基盤となる主体形成、あるいは主体間の関係形成が重要である。2つの例を示す。

 

 1つめは、地域の住民や事業者における適応への自助力や互助力を高めることである。行政による公助だけでは気候変動に対する安全安心は確保できず、仮に適応策の実施度を高めようとすると行政コストが増加し、財政圧迫することになる。そこで、地域の住民や事業者の自助や互助力を高めることが必要となるが、住民等は気候変動のことを理解していない場合も多く、まして将来の気候変動の影響予測の結果を理解し、適応策という対策を積極的に取り込もうという姿勢は見られない。そのために住民等に気候変動の学習をしてもらうことが必要となるが、IPCCの報告書や影響予測の結果をわかりやすく共有していく作業は困難である。

 

 そこで、筆者は、気候変動による気候変化やその影響が地域に既に発生していること、その影響の実感を入口にして、気候変動の被害への関心や知識を高め、適応策(さらには緩和策)への主体的な取組みに踏み出してもらうという学習プログラムの開発を構想し、長野県飯田市において、地域の行政、NPO、事業者等の参加を得た研究会を開催し、地域活動のリーダー層を対象にした学習の試行までを実施した。

 

  「気候変動の地元学」と名づけた、この学習プログラムの実施手順を示す。これまでも緩和策を推進するために、地域への影響を住民参加で調べる取組みはなされてきているが、この地元学では地域への影響をもとに、適応策を考えてもらうことに力点がある。また、地域への影響の事例調査シートに、参加者個々の記入をしてもらい、それを共有することで、自分だけでは気づいていない影響事例の多さに気づいてもらうことに特徴がある。そして、影響事例の記入やワークショップにおいて、影響を規定する社会経済的な要因(特に感受性)に関しても考え、社会経済的な弱さの改善に踏み込んだ適応策の意義を学んでもらう。

 

 2つめは、問題を共有し、地域間や主体間で連携関係を高める適応策を実施することが重要である。例えば、高知県農業技術センター果樹試験場を訪問した際、なしの気候変動対策技術の開発について、地域連携を期待するという話を聞いた。なしは低温にさらされることで春に発芽をするが、暖冬化により発芽不良が発生することが問題となっており、同試験場ではこのための対策技術の開発を県単独予算で行っている。しかし、長期的な対策としての新品種の開発には時間もかかり、単独で実施するには負担も大きく、他の地域との連携や分担も検討したいという。中国四国ブロック内になしの産地が他になく、九州地域の県が連携先となることが、通常のつきあいの範囲を超えることも課題である。

 

 既に、農林水産省では、共通テーマに対するコンソーシアムをつくり、地域の試験研究の複数と国の研究機関、大学、企業等が連携して、研究を行う仕組みをつくっている。こうした仕組みは研究成果を得るための効率を高めるだけでなく、研究予算や人員の削減の中にある地域の試験研究機関の研究支援を行う仕組みとしても重要である。産地間競争等もあることから、国の研究機関等による地域間の積極的なコーディネイトも期待される。

 

 なお、農業分野ではないが、神奈川県の水産業について、漁協間で漁法の技術交換をしているという話も聞いた。気候変動以外の要因もあると考えられるが、魚種の変化が近年、著しく、今まで経験のない一本釣り等をすることなる場合に、経験のある他地域の漁協が技術移転を支援しているという。課題を共有する地域間で、地域を超えた連携関係を強めていくことが適応策の開発や導入の基盤形成として重要である。 

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