サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

地球温暖化防止の中期目標(25%削減)を考える

2010年02月21日 | 気候変動緩和・低炭素社会
●新政権における地球温暖化対策のアピール

 政権が代わり、同時に地球温暖化に係る政策も新たなステップを踏み出した。
 その動きを加速する要因として、①中期的な削減目標の国際的な議論が始まったこと、②世界的不況の打開のため、環境イノベーションを景気対策の梃子にしたいこと、③それらのリーダーシィップをとることで新政権を国内外にアピールしたいこと等があげられる。

●チームマイナス6%から、チャレンジ25へ

 地球温暖化防止のための国民運動の名称は、チームマイナス6%からチャレンジ25へと変更された。
 6%削減のために国民がチームとなり、一人ひとりの一歩を踏み出そうというチームマイナス6%では、行動が容易な6つのアクションが示された。チャレンジ25は、2020年に向けて、25%削減のためには、低炭素型の商品の普及や既存ストックの改善が必要であるとし、そのためのチャレンジを進めるものとなっている。

●地方公共団体でもチャレンジ25!

 私自身も、仙台市における地球温暖化対策の計画策定を昨年秋に受注し、地域の現場から、中期目標を検討する機会をいただいている。
 地方公共団体では、国の施策効果を地域で十分に発現させるために、その円滑な推進のために主体的な役割を発揮するとともに、地域構造や地域交通、ライフスタイルやビジネススタイル、地域資源や社会関係資本の活用など、地域に密着した、地域に独自の施策を進めたいところである。

●チャレンジ25のためのアクターの役割は?

 正直にいえば、国の政策がはっきりしないなかで、地域の地球温暖化対策を検討するのはやりじくい。例えば、国の中期目標では、25%削減を早い段階で宣言した。しかし、その中には国際間の排出量取引や森林吸収源が含まれており、(それらを除いた)真水の削減率は公的には明らかにされていない。
 国立環境研究所では、25%削減のため対策技術等の導入効果と費用対効果のシミュレーションを行っている。しかし、政策の実施における各アクター(国、地方公共団体、企業、国民、NPO等)の役割や各アクターの受益と負担関係等は十分に議論されていない。

●チャレンジ25のための国民的議論の必要性

 さて、新政権では、地球温暖化対策推進法を定め、中期目標の達成に向けた施策推進の法的根拠を打ち出すことが予定されている。検討経過等は、環境省のホームーページで積極的に公開されているし、また対策の費用対効果等、研究機関による検討もかなりの作業がなされている。
 しかし、トップダウンで性急かつ政治主導の検討に、戸惑いを持つ。例えば、以下に示すような点について、もっとわかりやすい国民への説明と、国民を巻き込んだコンセンサス会議を、早急に実施すべきではないだろうか。

●補助金や電気の買取は、どのように国民の負担となるのか?

 チャレンジ25のためには、電気機器、自動車、住宅等のハードウエアの買換えや改善が求められる。ハードウエアの使い方の工夫だけでは、十分に温暖化対策効果は発揮されないし、景気へのテコ入れにならないためだ。
 しかし、買換えや改善のためには資金が必要であり、そのため補助金や減税による初期投資の負担軽減と発電の固定価格買取等による投資回収期間の短縮につながる施策が行われる。しかし、これらの経済的施策に必要な額は、税金や電気料金として、国民に転嫁されることは明らかである。
 チャレンジ25を進めるための、エコカー税金や電気料金はどうなるのか?景気対策効果は、一部製造業だけにしか及ばないのではないか?

●技術、制度だけでいいのか、人の意識・行動が大事なのではないか?

 チャレンジ25のための国立環境研究所の研究をみると、技術導入とその費用対効果、経済や家計への影響等が中心となっている。また、新たな法律では、排出量取引等に法的根拠を与え、低炭素社会の制度設計を図るものとなる。しかし、技術(ハードウエア)導入や制度(ソフトウエア)設計だけでは、ヒューマンウエアが抜け落ちてしまうのではないだろうか。ヒューマンウエアとは、人の意識・行動、あるいは文化といってもよい。
 一人ひとりの意識と行動があってこそ、技術と制度に魂が入る。国民はどのような意識をもち、目指すべき低炭素文化とは何かという議論をきちんとしないと、カプセルに閉じ込められ、ロボットに制御される未来になってしまうのではないか?

*折しも、国の環境政策の基本方針を定める第四次環境基本計画の検討が始める。第三次環境基本計画では、環境と経済の統合的発展を強く打ちだしたが、第四次では環境と社会の統合を強調するものになると考えられる。温暖化の議論でも、低炭素と社会の関係に踏み込む必要がある。
 
●ドラエモンか、サツキとメイか、スローライフへの転換は必要なのではないか?

 「脱温暖化25」という国立環境研究所の研究では、2050年の低炭素社会の姿として、ドラエモン・シナリオとサツキとメイ・シナリオの2つの代替案を示した。前者は技術対策中心で拡大成長を目指すものである。後者は極端ではないが若干の縮小を志向し、スローライフ的な要素を打ち出す。
 この2つのシナリオは、2者択一ではなく、多様なイメージで捉えられる脱温暖化社会について、議論の幅を示し、バランスのよい落とし所を探るためのものである。
これに対して、チャレンジ25のための議論は、景気対策としての意義を重視するあまり、ドラエモン・シナリオに走りすぎているのではないだろうか。サツキとメイ・シナリオを求める国民も多いのではないだろうか?

*環境省が検討している中期目標のロードマップでは、地域部会を設け、農山漁村におけ チャレンジ25の方向性についても、検討している。ただし、農山漁村にあるバイオマス・ネルギー利用ばかりを強調していないだろうか。農山漁村こそ、サツキとメイ・シナリオを前面に出し、大都市に追随しない、代替的なシナリオを前面に出していくべきではないだろうか。

●エネルギー政策(特に原子力発電)をどのように考えるか?

 対策による温室効果ガスの排出削減量を計算していると、省エネルギー対策の効果や家庭や業務ビルでの再生可能エネルギーの導入効果を積上げていくことにある。あらゆる分野で、可能な対策をコツコツと積み上げることで、一定量の削減を図ることができる。
 一方、大きく削減量を稼ぐことができる対策がある。それは、電力の排出係数の変化である。電源構成の変更等の電力会社が、低炭素型の電力供給をすることで、大きく二酸化炭素の排出量を削減することができる。注意しなければならないのは、電力の排出係数を減少させる大きな対策は、原子力発電の新設である。原子力に頼るのか、頼らないのか、もう少しオープンな議論が必要である。

●専門家の説明と国民の主体的な参加を促すキャンペーンを!

 地球温暖化というグローバルリスクは、影響の時空間スケールが大きいため、国民には見えにくい。また、地球温暖化対策も、国民生活を支える基盤や企業等の役割で進めるべきものが多いため、国民には縁遠いものにもなりがちである。
 しかし、2020年に向けて進められるチャレンジ25は、その先にある化石燃料に頼らない新たな文明への通過措置に過ぎない。目先の景気対策になればよいとか、国民生活への影響が小さいとか、短視眼的な判断は避けなければならない。どのような未来にしたいのか、未来のエネルギー源をどうするのか、スローライフ的な生活を目指さなくてよいのかといった、未来の選択に係る、国民にとっては非常に大きな問題である。
 チャレンジ25のキャンペーンは、専門家がもっと国民に説明し、国民未来の選択への参加を促すものでなくてはならない。省エネ製品を買いましょうという販売促進キャンペーンになってはならない。


参考)

地球温暖化国内対策(環境省)
  http://www.env.go.jp/earth/ondanka/domestic.html#a02

日本温室効果ガス排出量2020年25%削減目標達成に向けたAIMモデルによる分析結果
(国立環境研究所)
  http://www-iam.nies.go.jp/aim/prov/middle_report.htm

脱温暖化2050プロジェクト(国立環境研究所)
  http://2050.nies.go.jp/index_j.html
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