サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

パッシブなエネルギー利用その2:居場所を変える

2014年04月20日 | 気候変動緩和・低炭素社会

居場所を変えることもパッシブなエネルギー利用

 

 パッシブなエネルギー利用は、家の中に届く自然の風や光、熱を受け身で移動することだけではない。自分の居場所を変えて、自然エネルギーを利用することもパッシブなエネルギー利用である。

 

 例えば、わが妻が行っている小さな工夫だが、夏と冬で過ごす部屋を変えたりすることも自然エネルギーの利用である。夏は2階の部屋が暑くなるので、できるだけ1階の涼しい部屋にリビングルームで過ごすようにする。家事や在宅での仕事も1階で行う。冬は温かい2階の部屋で昼間の作業をするようにする。パッシブなエネルギー利用とは、住宅の構造や設備の設計だけで行うものではなく、家の中での居場所や過ごし方を変えることで行うこともできるというわけだ。

 

 冬に暖かい場所は、それでだけ熱エネルギーを持っている。夏に涼しい場所も、同じ温度にエアコンで冷やすことを考えれば、その分だけエネルギーを持っている。

 

 家の中で待っていても、自然の風や光、熱を得られない場合、自分の家から外に出て、自然のエネルギーを求めて、居場所を変えてみることも、多くの人が気づいていないパッシブなエネルギー利用なのです。

 

街中のクールスポット

 

 場所の変え先は屋内に留まるものではない。街の中、湖畔や山間、海外など、様々な居場所がある

 

 夏に涼しい街なかの場所としては、公園や水辺等がある。これらのオープンスペースは、風が通りやすいだけでなく、緑陰による太陽熱の遮断や地中に浸透した水の蒸発散、水が温度を一定に保つ働きのために、比較的涼しい場所となる。例えば、埼玉県が平成19 年度に実施した緑地とその周辺の熱環境調査では、緑地内が緑地外に比べ平均1.6℃低く、最大7.1℃低くなったという結果が得られている。

 

 市川市地球温暖化対策推進協議会では、身近なクールスポット、特に水辺、森林、公園など「自然の避暑地」を紹介した「いちかわクールスポットマップ」を作成している。

 

 また、埼玉県、大阪府、神戸市等も、地域内のクールスポットを募集し、地図で紹介している。これらのクールスポットでは、公共施設、飲食店等が含まれている場合もある。家の電気を消して、多くの人が公共施設等に集まれば、家の電気を消した分だけ、省エネルギーになり、住民同士の交流や関係づくりにもなるため、公共施設等のクールスポットも全くダメというわけではない。しかし、再生可能エネルギーを利用するという意味では、やはり屋内施設ではなく、公園や水辺等にあって自然の状態で涼しい場所をクールスポットと呼びたい。

 

 町中の避暑地ともいえるクールスポットについては、最寄の自治体がマップを作成している場合はそれを参考にするとよいだろう。また、自分で近所のクールスポットを探してみるのも楽しそうだ。

 

 クールスポットがあるなら、冬場のウォームスポットもあるだろう。暖房器具等に頼らずとも、陽だまりとなるようなスポットを探してみたい。

 

夏は涼しい山間、冬は暖かい町で過ごす

 

 住んでいる街の中でなく、夏は湖畔や山間の涼しい場所、いわゆる避暑地で、冬な南の暖かい避寒地で過ごすことも考えられる。

 

 こうした地域を超えて居場所を変えるスタイルは、「マルチハビテーション(複数の拠点居住)」とも言われる。マルチハビテーションの仕方も様々。人生のライフステージによる住み分け、平日と週末・休日での住み分け、あるいは季節での住み分けもあるだろう。

 

 人生のライフステージによる住み分けでは、老後における地方あるいは海外への移住等がある。平日の週末・休日の住み分けでは、平日は都市に暮らし、休日は自然の中のセカンドハウスで暮らすというパターンがある。逆に、平日に暮らす場所を賃貸のセカンドハウスとし、休日にゆっくりと過ごす場所を持家にするという方法もある。

 

 季節によって住む場所を変えるスタイルとして、「夏山冬里」と呼ばれるスタイルがある。夏は涼しい山に暮らし、冬は豪雪等の厳しさをさけて里に暮らすという高齢化が進んだ山間集落等の二拠点居住である。

 

 夏山冬里は、もともとは山間部の牛の放牧で行われていた。夏は山間の放牧地に牛を移動させ、冬は平地の雪が少ないところに牛を移動させる。人間の場所の夏山冬里としては、広島県で行われた小規模老人ホームの例がある。山間集落の高齢者が夏は集落で暮らし、冬は小規模な平地の小規模老人ホームで暮らす。自分の集落で過ごしたいという希望と冬場の安全や福祉を両立させる方法として注目された。この夏山冬里を、再生可能エネルギーのパッシブな利用として捉え、ヒートアイランド化に苦しむ都市住民の新たな居住スタイルにすることが考えられる。

 

 勤め人は季節によって居場所を変えることは難しいが、夏の間は休日だけでも山のセカンドハウスに出かけるスタイルも考えられる。

 

夏を涼しく過ごすシェアハウス

 

 居住地を二つ持つためには多くの費用がかかります。そこで注目される住まい方が「シェアハウス」である。

 

 シェアハウスはもともと、1980年代に、住宅の確保に苦労した外国人が中古住宅を共同で利用したことが最初だとされる。その後、日本人向けのシェアハウスとして賃貸物件が多く提供されるようになり、2000年代以降、増え続けている。

 

 このシェアハウスは、主に都市や都市近郊の物件として、提供されているが、避暑地でのセカンドハウスとしてのシェアハウスもある。過疎化が進む過疎地では空き家が増えているが、この利用形態の1つとして、夏山冬里という居住スタイルを楽しむ都市住民向けのシェアハウスが考えられる。

 

 ホームページを検索すると、山間シェアハウス、里山シェアハウス、【週末農業×シェアハウス】農業体験シェアハウス等、関連する実践が多く紹介されている。こうした既存の活動に問い合わせたり、仲間とシェアハウスづくりを相談してみたらどうだろうか。

 

 ここでは、夏山冬里、シェアハウスを、再生可能エネルギーをパッシブに利用する居住スタイルとして紹介した。こうした新しい居住スタイルは、夏を涼しくすごすためにだけに行うわけでない。山間での暮らしや農業ができる場所での暮らしは、自然とのふれあい、手づくりの仕事、人との出会いなど、様々な楽しみを与えてくれるだろう。

 

参考文献〕

白井信雄「図解 スマートシティ・環境未来都市」中経出版、2012年12月

 

 

 

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